古典ライブラリー

万葉集 巻第九 1776〜1777番

絕等木の 山の岑の上の

播磨娘子(はりまのおとめ)

絶等木の山の峰の桜が咲く春には、あなたを偲ぶでしょう。あなたがいないなら、どうして身を飾ろうか、櫛笥の中の黄楊の小櫛も手に取ろうとは思わない。石河大夫が任を終えて都へ上る時、播磨の娘子が贈った歌。

播磨の娘子が、櫛笥の黄楊の小櫛を手にせず、都へ去る人を思っている

題詞石河大夫の任を遷されて京に上る時、播磨娘子の贈れる歌二首

  1. 1絕等木たゆらき絕等木たゆらきたゆらきののの絕等寸笑1776
  2. 2山やま山やまやまののの岑を岑ををののの上へ上へへののの山之岑上乃
  3. 3櫻さくら櫻さくらさくら花ばな花ばなばな櫻花
  4. 4咲さ咲ささかかかむむん春はる春はるはるべべべははは將開春部者
  5. 5君きみ君きみきみををを思しの思しのしのばばばむむん君乎將思
  6. 6君きみ君きみきみなくなくなくばばば君無者1777
  7. 7何な何ななそそそ身み身みみ裝餝よそ裝餝よそよそははわむむん奈何身將裝餝
  8. 8匣くしげ匣くしげくしげなるなるなる匣有
  9. 9黃楊つげ黃楊つげつげののの小を小をお梳ぐし梳ぐしぐしももも黃楊之小梳毛
  10. 10取と取ととらららむむんともともとも念おも念おもおもははわずずず將取跡毛不念

引用の仕方

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現代語訳

〔1776〕絶等木の山の峰の上の桜の花が咲く春には、あなたをお偲びするでしょう。

〔1777〕あなたがいなくなったら、どうして身を飾りましょう。櫛笥の中の黄楊の小櫛さえも、手に取ろうとは思いません。

意訳

国司の任を終えて都へ帰る石河大夫に、播磨の娘子が贈った別れの歌である。桜の咲く春が来るたびにあなたを偲ぶでしょうと歌い、あなたがいないならもう身を飾ることもない、黄楊の櫛さえ手に取る気にならないと、去っていく人への思いを訴える。

語釈・文法注

文法・本文

春べ
春のころ。
裝餝はむ
「よそはむ」。身を飾ろうか。
匣
「くしげ」。櫛などを入れる箱。

和歌

作者
播磨娘子(未詳)
播磨国の女性。国司として赴任していた石河大夫と親しんだ。
出典
『万葉集』巻第九・相聞・1776〜1777番
歌体
短歌(五七五七七)
時期
第3期(710〜733年(平城京遷都〜山上憶良の没年ごろ))
状況
石河大夫(石川君子か)が任を移されて都に上る時、播磨娘子が贈った歌。

修辞

反語
1777番の「何ぞ身裝餝はむ」。

解説

石川君子は霊亀元年(715)に播磨守となった。女性が身を飾らないのは、見せる人がいないからという発想は万葉集に多い。

関連

出典

底本
佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、362頁(コマ185)。国立国会図書館デジタルコレクション
原文
佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、411頁(コマ211)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日