古典ライブラリー

万葉集 巻第九 1764〜1765番

ひさかたの 天の河原に

作者未詳

天の河原の上の瀬には玉の橋を渡し、下の瀬には船を浮かべて、雨が降っても風が吹いても、裳を濡らさずに休まず来てくださいと玉橋を渡す。天の川に霧が立ちわたる、今日か今日かと待つ君が船出をするらしい。七夕の歌。

星空に天の川が流れ、玉の橋が架けられて、霧の向こうから彦星の船が漕ぎ出している

題詞七夕の歌一首并に短歌

  1. 1ひさかたひさかたひさかたののの天あま天あまあまののの河かは河かはかわ原ら原ららににに久堅乃 天漢爾1764 長歌
  2. 2上かみ上かみかみつつつ瀨せ瀨せせににに珠たま珠たまたま橋はし橋はしはし渡わた渡わたわたししし上瀨爾 珠橋渡之
  3. 3下しも下しもしもつつつ瀨せ瀨せせににに船ふね船ふねふね浮う浮ううけけけ居す居すすゑゑえ下湍爾 船浮居
  4. 4雨あめ雨あめあめ零ふ零ふふりりりててて風かぜ風かぜかぜ吹ふ吹ふふかかかずずずともともとも雨零而 風不吹登毛
  5. 5風かぜ風かぜかぜ吹ふ吹ふふきききててて雨あめ雨あめあめ降ふ降ふふらららずずずともともとも風吹而 雨不落等物
  6. 6裳も裳もも濕ぬ濕ぬぬらさらさらさずずず息や息ややまままずずず來き來ききませませませととと玉たま玉たまたま橋はし橋はしはしわたすわたすわたす裳不令濕 不息來益常 玉橋渡須
  7. 7天漢あまのがは天漢あまのがはあまのがわ天漢1765 反歌
  8. 8霧きり霧きりきり立た立たたちちち渡わた渡わたわたるるる霧立渡
  9. 9今日けふ今日けふきょう今日けふ今日けふきょうととと且今日且今日
  10. 10吾わ吾わわががが待ま待ままつつつ君きみ君きみきみががが吾待君之
  11. 11船ふな船ふなふな出で出でですすすらしらしらしももも船出爲等霜

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

〔1764〕(ひさかたの)天の河原に、上の瀬には玉の橋を渡し、下の瀬には船を浮かべて据え、雨が降って風は吹かなくても、風が吹いて雨は降らなくても、裳を濡らさずに、休まずにおいでくださいと、玉の橋を渡しておく。

〔1765〕天の川に霧が立ちわたっている。今日か今日かと私が待っているあの方が、船出をするらしい。

意訳

織女の立場で、牽牛の訪れを待つ歌である。天の川の上の瀬には玉の橋を、下の瀬には船を用意し、雨でも風でも裳裾を濡らさずに休まず来てほしいと願う。反歌では、天の川に霧が立つのを見て、待ちこがれた人がいよいよ船出するらしいと胸をおどらせる。

語釈・文法注

文法・本文

珠橋
玉で飾った美しい橋。
浮け居ゑ
浮かべて据え。
今日今日と
今日か今日かと。

和歌

作者
作者未詳
出典
『万葉集』巻第九・雑歌・1764〜1765番
歌体
長歌(五七をくり返し、五七七で結ぶ)
時期
第3期(710〜733年(平城京遷都〜山上憶良の没年ごろ))
状況
七夕の歌。藤原房前の邸で作られたともいう。

修辞

対句
「上つ瀨に 珠橋渡し 下つ瀨に 船浮け居ゑ」「雨零りて 風吹かずとも 風吹きて 雨降らずとも」。
枕詞
「ひさかたの」が「天」にかかる。

解説

船の霧は、天の川を渡る船の櫂のしずくが霧となって立つという七夕歌の発想に通じる。

関連

出典

底本
佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、360頁(コマ184)。国立国会図書館デジタルコレクション
原文
佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、409頁(コマ210)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日