万葉集 巻第九 1749〜1750番
白雲の 立田の山を
立田山を夕暮れに越えて行くと、滝のほとりの桜は、咲いた花は散り、つぼみは咲き続けるだろう。あちこちの花の盛りを見なくとも、君の行幸は今こそふさわしい。暇があれば川を渡って向こうの峰の桜も折りたいのに。難波へ下る時の二首目。
場面イラスト(準備中)
題詞(春三月、諸卿大夫等、難波に下れる時の歌)
- 1白白しら雲雲くもののの立田立田たつたののの山山やまををを白雲乃 立田山乎1749 長歌
- 2夕夕ゆう暮暮ぐれにににうちうちうち越越こえええ行行ゆけけけばばば夕晩爾 打越去者
- 3瀧瀧たぎののの上上うえののの櫻櫻さくらののの花花はなははは瀧上之 櫻花者
- 4咲咲さきききたるたるたるははは散散ちりりり過過すぎぎぎにににけりけりけり開有者 落過祁里
- 5含含ふふめめめるるるははは咲咲さききき繼繼つぎぎぎぬぬぬべしべしべし含有者 可開繼
- 6彼方此方彼方此方おちこちののの花花はなののの盛盛さかりににに許智期智乃 花之盛爾
- 7あらあらあらずずずともともとも君君きみののの御御み幸幸ゆきははは今今いまにににしししあるあるあるべしべしべし雖不見 左右 君之三行者 今西應有
- 8暇暇いとまあらあらあらばばば暇有者1750 反歌
- 9なづさひなづさひなずさい渡渡わたりりり魚津柴比渡
- 10向向むかつつつ峯峯おののの向峯之
- 11櫻櫻さくらののの花花はなももも櫻花毛
- 12折折おらららましましましものものものををを折末思物緒
現代語訳
〔1749〕(白雲の)立田の山を夕暮れにうち越えて行くと、激流のほとりの桜の花は、咲いた花は散ってしまった。つぼみの花はこれから咲き続けるだろう。あちらこちらの花の盛りではなくても、君の行幸は今こそふさわしいのだ。
〔1750〕暇があるなら、水に浸りながら川を渡って、向こうの峰の桜の花も折りたいものなのに。
意訳
前の歌に続き、難波へ下る途中、夕暮れの立田山を越える時の歌である。散った花もあれば、これから咲くつぼみもある。あちこちの花が満開でなくとも、今この時の行幸こそふさわしいと、旅をことほぐ。反歌は、旅の途中で暇がないのを惜しみ、時間があれば川を渡って向かいの峰の桜も折りたいと歌う。
語釈・文法注
文法・本文
- 含めるは
- 「ふふめるは」。つぼみのものは。
- 彼方此方
- 「をちこち」。あちらこちら。
- なづさひ
- 水に浸りながら、難渋して。
- 向つ峯
- 向こうの峰。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第九・雑歌・1749〜1750番
- 歌体
- 長歌(五七をくり返し、五七七で結ぶ)
- 時期
- 第3期(710〜733年(平城京遷都〜山上憶良の没年ごろ))
- 状況
- 難波に下る時の歌の二首目。高橋虫麻呂歌集に出る。
修辞
- 対句
- 「咲きたるは 散り過ぎにけり 含めるは 咲き繼ぎぬべし」。
- 枕詞
- 「白雲の」が「立田」にかかる。
解説
「君の御幸」とあるので、天皇の行幸に従った官人の旅とみられる。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、356頁(コマ182)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、405頁(コマ208)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日