万葉集 巻第九 1726〜1728番
難波潟 潮干に出でて
難波潟の潮干に出て玉藻を刈る海女の娘たちよ、名を名のっておくれ。あさりをする者と見てください、旅行く人に私の名は告げません。慰めて今夜は寝よう、明日からは恋しく思いながら行くのだろう。丹比真人と娘子の問答、石河卿の歌。
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題詞丹比眞人の歌一首/和ふる歌一首/石河卿の歌一首
- 1難波難波なにわ潟潟がた難波方1726 丹比真人
- 2潮潮しお干干ひににに出出いでででててて鹽干爾出而
- 3玉玉たま藻藻も苅苅かるるる玉藻苅
- 4海海あま未未お通通と女女めどもどもども海未通等
- 5汝汝なががが名名な告告のらららさささねねね汝名告左禰
- 6漁漁あさりするするする朝入爲流1727 和ふる歌
- 7人人ひととととををを見見みませませませ人跡乎見座
- 8草草くさ枕枕まくら草枕
- 9旅旅たび行行ゆくくく人人ひとににに客去人爾
- 10わがわがわが名名なははは告告のらららじじじ妾者不敷
- 11慰慰なぐさめめめててて名草目而1728 石河卿
- 12今今こ夜夜よいははは寐寐ねなななむむん今夜者寐南
- 13明日明日あすよりよりよりははは從明日波
- 14戀戀こひひいかもかもかも行行ゆかかかむむん戀鴨行武
- 15此間此間ここゆゆゆ別別わかれれれなばなばなば從此間別者
現代語訳
〔1726〕難波潟の潮干に出て玉藻を刈っている海女の娘たちよ、あなたの名を名のっておくれ。
〔1727〕あさりをする者と見てください。(草枕)旅行く人には、私の名は告げません。
〔1728〕心を慰めて今夜は寝よう。明日からは恋しく思いながら行くのだろうか。ここで別れてしまったら。
意訳
丹比真人が難波潟で玉藻を刈る海女の娘に名を問うと、娘は、私はただのあさりをする者、旅の人に名は告げませんと、求婚をそれとなく断っている。名を問うことは求婚を意味した。1728番は石河卿の歌で、ここで別れたら明日からは恋しいだろうから、今夜はせめて心を慰めて寝ようという旅の別れの歌である。
語釈・文法注
文法・本文
- 名告らさね
- 名を名のってください。
- 慰めて
- 心を慰めて。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第九・雑歌・1726〜1728番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 第3期(710〜733年(平城京遷都〜山上憶良の没年ごろ))
- 状況
- 丹比真人の歌と、それに答えた娘子の歌、石河卿の歌。
修辞
- 問答
- 名を問う歌と、名を告げない答えの歌。
- 枕詞
- 1727番の「草枕」が「旅」にかかる。
解説
名を問い名を告げることが求婚と承諾を意味する、古代の習俗を背景にした問答である。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、352頁(コマ180)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、400頁(コマ206)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日