万葉集 巻第九 1707〜1709番
山城の 久世の鷺坂
山城の久世の鷺坂は、神代から春は芽吹き秋は散ってきた。春草を馬が食う馬咋山を越えて来る雁の使いは、宿を通り過ぎていく。南淵山の岩に降ったまだら雪が消え残っている。柿本人麻呂歌集の歌三首。
場面イラスト(準備中)
題詞鷺坂にて作れる歌一首/泉河の邊にて作れる歌一首/弓削皇子に獻れる歌一首
- 1山城山城やましろののの山代1707 鷺坂
- 2久世久世くせののの鷺坂鷺坂さぎさか久世乃鷺坂
- 3神神かみ代代よよりよりより自神代
- 4春春はるははは張張はりりりつつつつつつ春者張乍
- 5秋秋あきははは散散ちりりりけりけりけり秋者散來
- 6春春はる草草くさををを春草1708 泉河
- 7馬咋馬咋うまくい山山やまよよよ馬咋山自
- 8越越こえええ來來くなるなるなる越來奈流
- 9鴈鴈かりののの使使つかいははは鴈使者
- 10宿宿やど過過すぐぐぐなりなりなり宿過奈利
- 11御御み食食け向向むかふふう御食向1709 弓削皇子に獻る
- 12南淵南淵みなぶち山山やまののの南淵山之
- 13巖巖いわおにににははは巖者
- 14落落ふりりりしししはだれはだれはだれかかか落波太列可
- 15消消きえええ殘殘のこりりりたるたるたる削遺有
現代語訳
〔1707〕山城の久世の鷺坂は、神代から、春は芽吹き、秋は散り続けてきたことだ。
〔1708〕(春草を)馬咋山を越えてくる雁の使いは、宿を通り過ぎていくようだ。
〔1709〕(御食向ふ)南淵山の岩には、降ったまだら雪が消え残っているのだろうか。
意訳
1707番は神代から変わらず春秋をくり返してきた鷺坂の自然をたたえ、1708番は便りを運ぶはずの雁が自分の宿を素通りしていくのを嘆き、1709番は弓削皇子に献じた歌で、南淵山の岩に消え残る雪を詠んでいる。
語釈・文法注
文法・本文
- 張りつつ
- 芽が張る、芽吹く。
- はだれ
- まだらに降った雪。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第九・雑歌・1707〜1709番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 第2期(672〜710年(壬申の乱〜平城京遷都))
- 状況
- 鷺坂・泉川で作った歌と、弓削皇子に献じた歌。柿本人麻呂歌集に出る。
修辞
- 枕詞
- 「春草を」が「馬咋」に、「御食向ふ」が「南淵」にかかる。
解説
1709番の左注によって、このあたりの歌が人麻呂歌集から採られたことがわかる。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、349頁(コマ178)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、396頁(コマ204)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日