万葉集 巻第九 1704〜1706番
うちたをり 多武の山霧
多武の山の霧が深いからか、細川の瀬に波が騒いでいる。冬ごもりして春を恋い慕って植えた木の、実のなる時をひたすら待つ私である。夜霧が立った、高屋の上にたなびくまでに。舎人皇子に献じた歌二首と、皇子の御歌。
場面イラスト(準備中)
題詞舍人皇子に獻れる歌二首/舍人皇子の御歌一首
- 1うちうちうちたをりたをりたおり捄手折1704
- 2多武多武たむののの山山やま霧霧ぎり多武山霧
- 3しげみしげみしげみかもかもかも茂鴨
- 4細川細川ほそかわののの瀨瀨せににに細川瀨
- 5波波なみののの騷騷さわげげげるるる波驟祁留
- 6冬冬ふゆごもりごもりごもり冬木成1705
- 7春春はるべべべををを戀戀こひひいててて春部戀而
- 8植植うゑゑえししし木木きののの殖木
- 9實實みににになるなるなる時時ときををを實成時
- 10片片かた待待まつつつ吾吾われぞぞぞ片待吾等叙
- 11ぬばたまぬばたまぬばたまののの黑玉1706 舎人皇子
- 12夜夜よ霧霧ぎりははは立立たちちちぬぬぬ夜霧立
- 13衣衣ころも手手でををを衣手
- 14高屋高屋たかやののの上上うえににに高屋於
- 15棚棚たな引引びくくくまでまでまでににに霏霺麻天爾
現代語訳
〔1704〕(うちたをり)多武の山の霧が深いからだろうか、細川の瀬に波が騒いでいる。
〔1705〕(冬ごもり)春を恋い慕って植えた木の、実のなる時を、ひたすら待っている私です。
〔1706〕(ぬばたまの)夜霧が立った。(衣手を)高屋の上にたなびくまでに。
意訳
舎人皇子に献じた歌と皇子の答えである。1704番は多武の山の霧と細川の瀬の波を描き、1705番は春に植えた木の実のなるのを待つように、皇子の恩顧を待ち望む心をたとえる。1706番は皇子自身の歌で、高屋の上にたなびく夜霧を詠んでいる。
語釈・文法注
文法・本文
- うちたをり
- 「多武」にかかる枕詞とされる。
- 衣手を
- 「高屋」にかかる枕詞とされる。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第九・雑歌・1704〜1706番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 第2期(672〜710年(壬申の乱〜平城京遷都))
- 状況
- 舎人皇子に献じた歌二首と、舎人皇子の御歌。柿本人麻呂歌集に出る。
修辞
- 枕詞
- 「冬ごもり」が「春」に、「ぬばたまの」が「夜」にかかる。
- 寓意
- 1705番で、実のなるのを待つことに出世や恩顧を重ねる。
解説
人麻呂は舎人皇子に仕えていたとみられる。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、349頁(コマ178)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、396頁(コマ204)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日