万葉集 巻第八 1644〜1649番
引き攀ぢて 折らば散るべみ
引き寄せて折ったら散ってしまいそうなので、梅の花を袖にしごき入れた。冬木の上の雪を梅かと見まちがえる歌、今夜の雪に濡れよう、風に乱れる雪、十二月に咲く梅、雪と競って咲いた冬木の梅。雪と梅を詠んだ冬の歌六首。
場面イラスト(準備中)
題詞冬雜歌 雪と梅の歌
- 1引引ひききき攀攀よぢぢじててて引攀而1644 三野石守
- 2折折おらららばばば散散ちるるるべみべみべみ折者可落
- 3梅梅うめののの花花はな梅花
- 4袖袖そでににに扱扱こき入入いれれれつつつ袖爾古寸入津
- 5染染しまままばばば染染しむむむともともとも染者雖染
- 6吾吾わががが屋屋に前前はののの吾屋前之1645 巨勢宿奈麻呂
- 7冬冬ふゆ木木きののの上上うえににに冬木乃上爾
- 8零零ふるるる雪雪ゆきををを零雪乎
- 9梅梅うめののの花花はなかかかととと梅花香常
- 10うちうちうち見見みつるつるつるかもかもかも打見都流香裳
- 11ぬばたまぬばたまぬばたまののの夜干玉乃1646 小治田東麻呂
- 12今今こ夜夜よいののの雪雪ゆきににに今夜之雪爾
- 13いざいざいざぬれぬれぬれななな率所沾名
- 14明明あけけけむむん朝朝あしたににに將開朝爾
- 15消消けなななばばば惜惜おしけしけしけむむん消者惜家牟
- 16梅梅うめののの花花はな梅花1647 忌部黒麻呂
- 17枝枝えだにににかかか散散ちるるるととと枝爾可散登
- 18見見みるるるまでまでまでににに見左右二
- 19風風かぜににに亂亂みだれれれててて風爾亂而
- 20雪雪ゆきぞぞぞ降降ふりりりくるくるくる雪曾落久類
- 21十二月十二月しわすにににははは十二月爾者1648 紀少鹿女郎
- 22沫沫あわ雪雪ゆきふるふるふるととと沫雪零跡
- 23知知しらららねねねかもかもかも不知可毛
- 24梅梅うめののの花花はな咲咲さくくく梅花開
- 25含含ふふめめめらららずずずしてしてして含不有而
- 26今今け日日ふ零零ふりりりししし今日零之1649 大伴家持
- 27雪雪ゆきににに競競きおひひいててて雪爾競而
- 28我我わががが屋屋に前前はののの我屋前之
- 29冬冬ふゆ木木きののの梅梅うめははは冬木梅者
- 30花花はな咲咲さきききにににけりけりけり花開二家里
現代語訳
〔1644〕引き寄せて折ったら散ってしまいそうなので、梅の花を袖にしごき入れた。色が染まるなら染まってもかまわない。
〔1645〕わが家の庭の冬木の上に降る雪を、梅の花かとふと見まちがえたことだ。
〔1646〕(ぬばたまの)今夜の雪に、さあ濡れよう。明けた朝に消えてしまったら惜しいだろうから。
〔1647〕梅の花が枝から散るのかと見えるほどに、風に乱れて雪が降ってくる。
〔1648〕十二月には沫雪が降るとも知らないのだろうか。梅の花が、つぼみのままでいないで咲いている。
〔1649〕今日降った雪と競い合うようにして、わが家の庭の冬木の梅は、花が咲いたことだ。
意訳
冬雑歌のうち、雪と梅を詠んだ歌が続く。梅の花びらを袖にしごき入れる歌、雪を梅と見まちがえる歌、消える前に雪に濡れようという歌、風に乱れる雪を散る梅に見立てる歌、雪の季節も知らずに咲いた梅、雪と競って咲いた梅と、雪と梅の取り合わせをさまざまに詠んでいる。
語釈・文法注
文法・本文
- 扱入れつ
- しごき入れた。
- 十二月
- 「しはす」。
- 含めらずして
- つぼみのままでなくて。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第八・雑歌・1644〜1649番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 第4期(733〜759年(〜万葉集の最後の歌))
- 状況
- 冬雑歌のうち、雪と梅を詠んだ歌六首。
修辞
- 見立て
- 雪と梅とを見まちがえ、なぞらえる。
解説
梅と雪の取り合わせは、中国の詩文に学んだ奈良時代の貴族の好んだ題材である。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、335頁(コマ171)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、378頁(コマ195)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日