万葉集 巻第八 1566〜1569番
ひさかたの 雨間もおかず
雨の晴れ間も待たずに、雲に隠れて鳴いて行く早稲田の雁。雁の降りる秋田の穂、雨に閉じこもった後に見る春日山の黄葉、雨の晴れた夜の清らかな月。大伴家持の秋の歌四首。
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題詞大伴家持の秋の歌四首
- 1ひさかたひさかたひさかたののの久堅之1566
- 2雨雨あま間間まもももおかおかおかずずず雨間毛不置
- 3雲雲くも隱隱がくりりり雲隱
- 4鳴鳴なきききぞぞぞ行行ゆくくくなるなるなる鳴曾去奈流
- 5早早わさ田田だ雁雁かりがねがねがね早田鴈之哭
- 6雲雲くも隱隱がくりりり雲隱1567
- 7鳴鳴なくくくなるなるなる雁雁かりののの鳴奈流鴈乃
- 8去去ゆきききててて居居いむむむ去而將居
- 9秋秋あき田田たののの穗穗ほ立立たち秋田之穗立
- 10繁繁しげくくくししし念念おもほほおゆゆゆ繁之所念
- 11雨雨あま隱隱ごもりりり雨隱1568
- 12情情こころ鬱悒鬱悒いぶせみみみ情欝悒
- 13出出いででで見見みれれればばば出見者
- 14春日春日かすがののの山山やまははは春日山者
- 15色色いろづきづきずきにににけりけりけり色付二家利
- 16雨雨あめ晴晴はれれれててて雨晴而1569
- 17淸淸きよくくく照照てりりりたるたるたる清照有
- 18このこのこの月月つく夜夜よ此月夜
- 19またまたまた更更さらにににしてしてして又更而
- 20雲雲くもななな棚棚たな引引びききき雲勿田菜引
現代語訳
〔1566〕(ひさかたの)雨の晴れ間も待たずに、雲に隠れて鳴いて行くようだ、早稲田の雁は。
〔1567〕雲に隠れて鳴いている雁が、降りていって休むであろう秋田の穂の立ち並ぶさまが、しきりに思われる。
〔1568〕雨に閉じこもって気が晴れないので、出て見ると、春日の山は色づいていたことだ。
〔1569〕雨が晴れて清らかに照っているこの月夜に、またもう一度、雲よたなびくな。
意訳
天平8年(736)9月、家持十代の作である。雨の中を雲に隠れて鳴き渡る雁、その雁が降り立つであろう秋田の穂、雨ごもりの後に見た春日山の黄葉、雨上がりの夜の清らかな月と、秋雨の季節の移ろいを四首で描いている。
語釈・文法注
文法・本文
- 雨間
- 雨の晴れ間。
- 穗立
- 稲穂の立ち並ぶさま。
- 鬱悒み
- 「いぶせみ」。気がふさぐので。
和歌
- 作者
- 大伴家持(718?–785)
大伴旅人の子。越中守などを務め、のちに中納言に至った。万葉集に最も多くの歌を残した。 - 出典
- 『万葉集』巻第八・雑歌・1566〜1569番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 第4期(733〜759年(〜万葉集の最後の歌))
- 状況
- 天平8年(736)9月、大伴家持の秋の歌四首。
修辞
- 枕詞
- 1566番の「ひさかたの」が「雨」にかかる。
解説
若い家持が四季の歌の連作を試みた、早い例である。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、323頁(コマ165)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、364頁(コマ188)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日