万葉集 巻第七 1366〜1369番
明日香川 七瀨の淀に
明日香川の淀に住む鳥も、心があるからこそ波を立てないのだろう。鳥を待つむささびのように待ちわびる恋、石倉の小野から秋津に渡る雲、天雲の近くで鳴る雷。鳥・獣・雲・雷に恋をたとえた譬喩歌四首。
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題詞譬喩歌 鳥に寄す・獸に寄す・雲に寄す・雷に寄す
- 1明日香明日香あすか川川がわ明日香川1366 鳥
- 2七七なな瀨瀨せののの淀淀よどににに七瀨之不行爾
- 3住住すむむむ鳥鳥とりももも住鳥毛
- 4心心こころあれあれあれこそこそこそ意有社
- 5波波なみ立立たてててざらざらざらめめめ波不立目
- 6三國三國みくに山山やま三國山1367 獸
- 7木木こ末末ぬれににに住住すまままふふふ木末爾住歷
- 8鼯鼠鼯鼠むささびののの武佐左妣乃
- 9鳥鳥とり待待まつつつががが如如ごと待鳥如
- 10吾吾われ待待まちちち痩痩やせせせむむん吾俟將痩
- 11石倉石倉いわくらののの石倉之1368 雲
- 12小小お野野ぬゆゆゆ秋津秋津あきつににに小野從秋津爾
- 13立立たちちち渡渡わたるるる發渡
- 14雲雲くもにににしししもももあれあれあれややや雲西裳在哉
- 15時時ときをををししし待待またたたむむん時乎思將待
- 16天天あま雲雲ぐもににに天雲1369 雷
- 17近近ちかくくく光光ひかりりりててて近光而
- 18鳴鳴なるるる神神かみののの響神之
- 19見見みれれればばばかしこしかしこしかしこし見者恐
- 20見見みねねねばばば悲悲かなしししももも不見者悲毛
現代語訳
〔1366〕明日香川の七瀬の淀に住んでいる鳥も、心があるからこそ、波を立てないのだろう。
〔1367〕三国山の梢に住んでいるむささびが鳥を待つように、私は待ちわびてやせてしまうだろう。
〔1368〕石倉の小野から秋津へ立ち渡る雲でもあろうか。時節を待っていよう。
〔1369〕天雲の近くで光って鳴る雷のように、見ると恐れ多く、見なければ悲しい。
意訳
鳥・獣・雲・雷に寄せた譬喩歌である。淀に住む鳥が波を立てないように、思慮深く事を荒立てない恋人をたたえる歌、梢でじっと獲物を待つむささびのように、恋人の訪れを待ちわびてやせ細る歌、時を待って立ち渡る雲のように自分も好機を待とうという歌、身分の高い恋人を雷にたとえて、会えば恐れ多く会わなければ悲しいという歌である。
語釈・文法注
文法・本文
- 心あれこそ
- 心があるからこそ。
- 住まふ
- 住み続ける。
- 鳴る神
- 雷。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第七・譬喩歌・1366〜1369番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 巻第七の譬喩歌のうち、「鳥に寄す」「獸に寄す」「雲に寄す」「雷に寄す」各一首。作者はわからない。
修辞
- 譬喩
- 恋人や自分の身を鳥・むささび・雲・雷にたとえる。
- 対句
- 1369番の「見ればかしこし」と「見ねば悲しも」。
解説
むささびは、志貴皇子の歌(巻第三の267番)でも、梢で獲物を待つ姿が詠まれている。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、282頁(コマ145)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、313頁(コマ162)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日