万葉集 巻第六 1044〜1046番
くれなゐに 深く染みにし
紅に深く染まったように心から慕っていた奈良の都で、年を重ねるはずだったのに。世の中は無常だと今こそ知った。都が恭仁に移り、荒れていく平城京を惜しんだ歌三首。作者はわからない。
場面イラスト(準備中)
題詞寧樂京の荒墟を傷み惜しみて作れる歌三首
- 1くれなゐくれなゐくれないににに紅爾1044
- 2深深ふかくくく染染しみみみにににししし深染西
- 3情情こころかもかもかも情可母
- 4寧樂寧樂ならののの京京みや師師こににに寧樂乃京師爾
- 5年年としののの歷歷へぬぬぬべきべきべき年之歷去倍吉
- 6世世よの間間なかををを世間乎1045
- 7常常つね無無なきききものものものととと常無物跡
- 8今今いまぞぞぞ知知しるるる今曾知
- 9平城平城ならののの京京みや師師こののの平城京師之
- 10移移うつろろろふふふ見見みれれればばば移徙見者
- 11石石いわ綱綱づなののの石綱乃1046
- 12またまたまた變變お若若ちかへりかへりかえり又變若反
- 13あをによしあをによしあおによし青丹吉
- 14奈良奈良ならののの都都みやこををを奈良乃都乎
- 15またまたまた見見みなななむむんかもかもかも又將見鴨
現代語訳
〔1044〕紅に深く染まったように心深く慕っていたからだろうか、奈良の都で年を重ねるはずだったのに。
〔1045〕世の中を無常なものと、今こそ知った。奈良の都の移り変わっていくのを見ると。
〔1046〕(石綱の)また若返って、(あをによし)奈良の都をまた見ることができるだろうか。
意訳
天平12年(740)末、都は恭仁京に移され、平城京は荒れていった。1044番は、心から慕った奈良の都でいつまでも暮らすつもりだったのにと嘆き、1045番は、都の移り変わりを見て世の無常を知ったと歌う。1046番は、もう一度若返って、栄えていた奈良の都を見ることができるだろうかと、かなわぬ願いを口にしている。
語釈・文法注
文法・本文
- くれなゐに深く染みにし
- 紅の色に深く染まったように、心に深くしみついた。
- 移ろふ
- 移り変わっていく。
- 變若かへり
- 若返って。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第六・雑歌・1044〜1046番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 第4期(733〜759年(〜万葉集の最後の歌))
- 状況
- 都が恭仁京に移ったのち、荒れていく平城京を惜しんで詠まれた歌三首。作者はわからない。
修辞
- 枕詞
- 1046番の「石綱の」が「また(變若)」に、「あをによし」が「奈良」にかかる。
解説
仏教の無常観を表す「世間を常無きものと」の句は、旅人の「世の中は空しきものと」(巻第五の793番)にも通じる。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、250頁(コマ129)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、273頁(コマ142)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日