万葉集 巻第四 775〜776番
鶉鳴く 故りにし郷ゆ
鶉の鳴く古い都からずっと思っているのに、どうしてあなたに逢う手だてもないのか。言い出したのは誰でしたか、小山田の苗代の水が途中でよどむように、途絶えてしまって。家持と紀女郎の贈答。
場面イラスト(準備中)
題詞大伴宿禰家持、紀女郎に贈れる歌一首/紀女郎、家持に報へ贈れる歌一首
現代語訳
〔775〕鶉の鳴く古い里にいた時から思っているのに、どうしてあなたに逢う手だてもないのだろう。
〔776〕言い出したのは誰の言葉でしたか。小山田の苗代の水が途中でよどむように、途中で途絶えてしまって。
意訳
家持は、奈良の古い都にいた時から思っていたのに、逢う手だてがないと嘆く。紀女郎は、最初に言い寄ったのはあなたなのに、苗代の水が途中でよどむように、途中で通って来なくなったのはあなたの方でしょうと切り返している。
語釈・文法注
文法・本文
- 鶉鳴く
- 鶉は荒れた野に住むので、「故りにし郷」にかかる。
- 中淀
- 途中でよどんで流れが止まること。
和歌
- 作者
- 大伴家持(718?–785)
大伴旅人の子。越中守などを務め、のちに中納言に至った。万葉集に最も多くの歌を残し、その編纂に深くかかわったとされる。 - 出典
- 『万葉集』巻第四・相聞・775〜776番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 第4期(733〜759年(〜万葉集の最後の歌))
- 状況
- 大伴家持が紀女郎に贈った歌と、紀女郎の答えの歌。
修辞
- 序詞
- 776番の「小山田の苗代水の」が「中淀」を導く。
解説
紀女郎の切り返しの鋭さが印象的な贈答である。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、181頁(コマ94)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、194頁(コマ103)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日