古典ライブラリー

万葉集 巻第四 765〜766番

一隔山 隔れるものを

大伴家持(おおとものやかもち)

一つの山を隔てているのに、月夜がよいので、門に出て妻が私を待っているだろうか。道が遠いので来ないとは知っていながら、そうして待っているのでしょう、あなたに逢いたくて。家持と藤原郎女の歌。

月夜の門前に女性が立ち、山の向こうの道を見つめている

題詞久邇京に在りて寧樂の宅に留まれる坂上大孃を思ひて、大伴宿禰家持の作れる歌一首/藤原郎女、これを聞きて卽ち和ふる歌一首

  1. 1一ひと一ひとひと隔へ隔へへ山やま山やまやま一隔山765 家持
  2. 2隔へな隔へなへなれれれるるるものものものををを重成物乎
  3. 3月つく月つくつく夜よ夜よよよみよみよみ月夜好見
  4. 4門かど門かどかどににに出い出いいででで立た立たたちちち門爾出立
  5. 5妹いも妹いもいもかかか待ま待ままつつつらむらむらん妹可將待
  6. 6路みち路みちみち遠とほ遠とほとおみみみ路遠766 藤原郎女
  7. 7來こ來ここじじじとととははは知し知ししれれれるるる不來常波知有
  8. 8ものものものからからからににに物可良爾
  9. 9然しか然しかしかぞぞぞ待ま待ままつつつらむらむらん然曾將待
  10. 10君きみ君きみきみががが目め目めめををを欲ほ欲ほほりりり君之目乎保利

引用の仕方

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現代語訳

〔765〕一つの山を隔てているのに、月夜がよいので、門に出て立って、妻が待っているだろうか。

〔766〕道が遠いので来ないとは知っているものの、そのように待っているのでしょう。あなたに逢いたくて。

意訳

家持は聖武天皇の久邇京に仕え、妻の坂上大嬢は奈良の家に残っていた。月の美しい夜、家持は、奈良山を隔てた家で、妻が門に出て自分を待っているだろうかと思いやる。それを聞いた藤原郎女は、来られないとわかっていても、あなたに逢いたくてきっと待っているでしょうと答えた。

語釈・文法注

文法・本文

一隔山
ひとつ山を隔てて。
目を欲り
逢いたいと思って。

和歌

作者
大伴家持(718?–785)
大伴旅人の子。越中守などを務め、のちに中納言に至った。万葉集に最も多くの歌を残し、その編纂に深くかかわったとされる。
出典
『万葉集』巻第四・相聞・765〜766番
歌体
短歌(五七五七七)
時期
第4期(733〜759年(〜万葉集の最後の歌))
状況
久邇京にいた大伴家持が、奈良の家に残る坂上大嬢を思って詠んだ歌と、それを聞いた藤原郎女がすぐに答えた歌。

解説

久邇京と奈良とは奈良山を隔てて隣り合う。都が移ったため、家族と離れて暮らす官人が多かった。

関連

出典

底本
佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、180頁(コマ94)。国立国会図書館デジタルコレクション
原文
佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、193頁(コマ102)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日