古典ライブラリー

万葉集 巻第四 762〜764番

神さぶと 不欲にはあらず

紀女郎(きのいらつめ)

年を取ったからといって、いやなのではない。ただ、こうして結ばれた後でさびしい思いをするのではないかと。百歳になって老いて舌が出て腰が曲がっても、私はいやがりはしない、恋しさは増しても。紀女郎と家持の贈答。

年上の女性が、若い貴公子からの文を前に、迷うように思案している

題詞紀女郎、大伴宿禰家持に贈れる歌二首(女郎、名を小鹿と云ふ)/大伴宿禰家持の和ふる歌一首

  1. 1神かむ神かむかむさぶさぶさぶととと神左夫跡762 紀女郎
  2. 2不欲いな不欲いないなにににはははあらあらあらずずず不欲者不有
  3. 3やややややや多おほ多おほおおくくくややや八也多八
  4. 4斯か斯かかくくくしししててて後のち後のちのちににに如是爲而後二
  5. 5不さぶ不さぶさぶ樂し樂ししけむけむけんかもかもかも佐夫之家牟可聞
  6. 6玉たま玉たまたまののの緒を緒ををををを玉緒乎763 紀女郎
  7. 7沫あわ沫あわあわ緒を緒をおににに搓よ搓よよりりりててて沫緒二搓而
  8. 8結むす結むすむすべべべれれればばば結有者
  9. 9在あ在あありりりててて後のち後のちのちにににももも在手後二毛
  10. 10逢あ逢ああははわざらざらざらめめめやもやもやも不相在目八方
  11. 11百もも百もももも年とせ年とせとせににに百年爾764 家持
  12. 12老おい老おいおい舌じた舌じたじた出い出いいでででててて老舌出而
  13. 13よよむよよむよよむともともとも與余牟友
  14. 14吾われ吾われわれははは厭いと厭いといとははわじじじ吾者不厭
  15. 15戀こひ戀こひこいははは益ま益まますすすともともとも戀者益友

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

〔762〕年をとっているからといって、いやだというのではありません。こうして結ばれた後に、さびしい思いをすることになりはしないかと。

〔763〕玉を通す緒を沫緒によって結んだので、このまま時がたった後にも、逢わないことがありましょうか。

〔764〕百歳になって老いて舌が出て、腰が曲がってよろよろしても、私はいやがりはしない。恋しさは増すとしても。

意訳

紀女郎は家持より年上で、若い家持の求愛に対して、年をとっているからいやなのではない、結ばれた後で捨てられてさびしい思いをするのが心配なのだと答える。それでも、沫緒で固く結んだ仲だからいつまでも逢えるだろうと歌う。家持は、あなたが百歳になって舌が出て腰が曲がっても嫌いになったりはしないと、ユーモアを交えて答えている。

語釈・文法注

文法・本文

神さぶ
年老いて古びる。
沫緒
糸のより方の一種で、ほどけにくいものとされる。
よよむ
腰が曲がってよろめく。

和歌

作者
紀女郎(生没年未詳)
紀鹿人の娘で、名は小鹿。安貴王の妻であったが、のちに大伴家持と歌を交わした。
出典
『万葉集』巻第四・相聞・762〜764番
歌体
短歌(五七五七七)
時期
第4期(733〜759年(〜万葉集の最後の歌))
状況
紀女郎が大伴家持に贈った歌二首と、家持が答えた歌。

修辞

誇張
764番で、老いた姿を誇張して描く。

解説

年上の女性と若い家持との、機知に富んだ恋の贈答である。紀女郎はもと安貴王の妻であった。

関連

出典

底本
佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、180頁(コマ94)。国立国会図書館デジタルコレクション
原文
佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、192頁(コマ102)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日