古典ライブラリー

万葉集 巻第四 723〜724番

常世にと 吾が行かなくに

大伴坂上郎女(おおとものさかのうえのいらつめ)

常世の国へ行くわけでもないのに、門口でもの悲しげに私を見送ったわが娘を、夜も昼も思い続けて、私はやせてしまった。跡見の庄から、家に残した娘の大嬢を思う坂上郎女の歌。

田舎の庄の家で、年配の女性が夜も眠れずに、都に残した娘を思って袖をぬらしている

題詞大伴坂上郎女、跡見庄より、宅に留まれる女子の大孃に贈賜れる歌一首并に短歌

  1. 1常とこ常とことこ世よ世よよにににととと吾わ吾わわががが行ゆ行ゆゆかかかなくなくなくににに常呼二跡 吾行莫國723 長歌
  2. 2小を小をを金かな金かなかな門ど門どどにににものものもの悲かな悲かなかなしらしらしらににに小金門爾 物悲良爾
  3. 3おもへおもへおもえりりりししし吾わが吾わがわが兒こ兒ここののの刀と刀とと自じ自じじををを念有之 吾兒乃刀自緒
  4. 4ぬばたまぬばたまぬばたまののの夜よる夜よるよる晝ひる晝ひるひるととといはいはいわずずず野干玉之 夜晝跡不言
  5. 5おもふおもふおもうにににししし吾わ吾わわががが身み身みみははは瘦や瘦ややせせせぬぬぬ念二思 吾身者瘦奴
  6. 6嘆なげ嘆なげなげくくくにににししし袖そで袖そでそでさへさへさへぬれぬれぬれぬぬぬ嘆丹師 袖左倍沾奴
  7. 7斯か斯かかくくくばかりばかりばかりもとなもとなもとなししし戀こ戀ここひひいばばば如是許 本名四戀者
  8. 8古ふる古ふるふる郷さと郷さとさとにににこのこのこの月つき月つきつき頃ごろ頃ごろごろももも在あ在あありりりかつかつかつましじましじましじ古郷爾 此月期呂毛 有勝益士
  9. 9朝あさ朝あさあさ髮かみ髮かみかみののの朝髮之724 反歌
  10. 10思おも思おもおもひひい亂みだ亂みだみだりりりててて念亂而
  11. 11斯か斯かかくくくばかりばかりばかり如是許
  12. 12なねなねなねががが戀こ戀ここふれふれうれぞぞぞ名姉之戀曾
  13. 13夢いめ夢いめいめににに見み見みみえええけるけるける夢爾所見家留

引用の仕方

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現代語訳

〔723〕常世の国へ行くわけでもないのに、門口で、もの悲しげに思っていた、わが娘を、(ぬばたまの)夜も昼もなく思うので、私の身はやせてしまった。嘆くので、袖までもぬれてしまった。こんなにも、むやみに恋しく思うなら、この古い里に、この幾月も、とてもいられそうにない。

〔724〕朝の寝乱れ髪のように思い乱れて、こんなにもあなたが恋しく思ってくれるから、夢に見えたのですね。

意訳

坂上郎女は、大伴家の跡見の庄(田荘)に出かけていた。出発の時、門口で悲しそうに見送った娘の大嬢を、夜も昼も思い続けてやせ細り、涙で袖もぬれたと歌う。左注によれば、娘から届いた歌への返歌である。反歌では、娘が夢に見えたのは、娘がそれほど自分を恋しがってくれているからだと喜んでいる。

語釈・文法注

文法・本文

刀自
「とじ」は一家の主婦。ここでは娘を親しみをこめて呼ぶ。
なね
親しい女性を呼ぶ語。

和歌

作者
大伴坂上郎女(生没年未詳)
大伴安麻呂の娘で、旅人の異母妹。家持の叔母で、のちに姑となった。万葉集の女性歌人のうち最も多くの歌を残した。
出典
『万葉集』巻第四・相聞・723〜724番
歌体
長歌(五七をくり返し、五七七で結ぶ)
時期
第3期(710〜733年(平城京遷都〜山上憶良の没年ごろ))
状況
大伴坂上郎女が、跡見の庄から、家に残っている娘の大嬢に贈った長歌と反歌。

修辞

対句
「おもふにし吾が身は瘦せぬ」と「嘆くにし袖さへぬれぬ」。
枕詞
「ぬばたまの」。

解説

母が娘を思う歌を、恋歌と同じ言葉で表現している。跡見の庄は、奈良県桜井市外山(とび)のあたりとされる。

関連

出典

底本
佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、176頁(コマ92)。国立国会図書館デジタルコレクション
原文
佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、187頁(コマ99)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日