万葉集 巻第四 680〜682番
蓋しくも 人の中言
もしや人の中傷をお聞きになったのか、こんなに待ってもあなたはおいでにならない。どうせ絶つと言うなら、これほど命がけで恋しくは思わないのに。友との別れを恋の形で歌った家持の歌三首。
場面イラスト(準備中)
題詞大伴宿禰家持、交遊と別るる歌三首
- 1蓋蓋けだしくしくしくももも盖毛680
- 2人人ひとののの中中なか言言ごと人之中言
- 3聞聞きかせかせかせかもかもかも聞可毛
- 4幾許幾許ここだく待待まてててどどど幾許雖待
- 5君君きみががが來來きまさまさまさぬぬぬ君之不來益
- 6なかなかなかなかなかなかににに中々爾681
- 7絕絕たつつつとととしししいはいはいわばばば絶年云者
- 8斯斯かくくくばかりばかりばかり如此許
- 9氣氣いきののの緒緒をにににしししててて氣緒爾四而
- 10吾吾わががが戀戀こひひいめめめやもやもやも吾將戀八方
- 11念念おもふふうらむらむらん將念682
- 12人人ひとにににあらあらあらなくなくなくににに人爾有莫國
- 13ねもころねもころねもころににに懃
- 14情情こころ盡盡つくしししててて情盡而
- 15戀戀こふるふるうる吾吾われかもかもかも戀流吾毛
現代語訳
〔680〕もしかすると、人の中傷をお聞きになったのか。こんなに待っても、あなたはおいでにならない。
〔681〕いっそ縁を絶つとはっきり言ってくれたなら、これほど命がけで私が恋しく思ったりするだろうか。
〔682〕私を思ってくれるような人でもないのに、ねんごろに心を尽くして恋しく思う私であることよ。
意訳
家持が、親しい友との仲が疎遠になったことを恋の言葉で歌った三首である。待っても来ないのは人の中傷を聞いたからかと疑い、いっそはっきり縁を切ってくれたらこんなに苦しまないのにと嘆き、自分を思ってもくれない人をこれほど思う自分を見つめている。
語釈・文法注
文法・本文
- 中言
- 人の仲を裂くような中傷。
- 氣の緒にして
- 命がけで。
和歌
- 作者
- 大伴家持(718?–785)
大伴旅人の子。越中守などを務め、のちに中納言に至った。万葉集に最も多くの歌を残し、その編纂に深くかかわったとされる。 - 出典
- 『万葉集』巻第四・相聞・680〜682番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 第4期(733〜759年(〜万葉集の最後の歌))
- 状況
- 大伴家持が、交わりのあった友と別れることになって詠んだ歌三首。
解説
題詞に「交遊と別るる」とあり、恋人ではなく友との別れを恋歌の形で詠んだものとみられる。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、172頁(コマ90)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、182頁(コマ97)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日