万葉集 巻第四 653〜655番
情には 忘れぬものを
心では忘れないのに、たまたま逢わない日が重なって、月が経ってしまった。逢ったばかりで月も経たないのに恋しいと言ったら、軽はずみと思われるだろうか。大伴駿河麻呂の歌三首。
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題詞大伴宿禰駿河麻呂の歌三首
- 1情情こころにににははは情者653
- 2忘忘わすれれれぬぬぬものものものををを不忘物乎
- 3たまたまたまたまたまたまももも儻
- 4見見みぬぬぬ日日ひさささ數數まね多多く不見日數多
- 5月月つきぞぞぞ經經へにににけるけるける月曾經去來
- 6相相あい見見みてててははは相見者654
- 7月月つきももも經經へなくなくなくににに月毛不經爾
- 8戀戀こふふうととといはいはいわばばば戀云者
- 9輕輕お率率そろととと吾吾われををを乎曾呂登吾乎
- 10思思おもほさほさおさむむんかもかもかも於毛保寒毳
- 11思思おもははわぬぬぬををを不念乎655
- 12思思おもふふうととといはいはいわばばば思常云者
- 13天天あめ地地つちののの天地之
- 14神神かみももも知知しらさらさらさむむん神祇毛知寒
- 15邑禮左變邑禮左變邑禮左變邑禮左變
現代語訳
〔653〕心では忘れないのに、たまたま逢わない日が多くなって、月が経ってしまったことだ。
〔654〕逢ってからまだ月も経たないのに、恋しいと言ったら、軽はずみな者と私を思われるだろうか。
〔655〕思ってもいないのに思っていると言ったら、天地の神々もお見通しになるだろう。……(結句は訓が定まらない)。
意訳
大伴駿河麻呂が、坂上郎女の家の娘(坂上二嬢)に贈ったとみられる歌である。653番は逢えない日が重なって月日が過ぎたと嘆き、654番は逢ったばかりなのに恋しいと言ったら軽はずみと思われるかとためらう。655番は、自分の思いが偽りでないことを天地の神に誓っている。
語釈・文法注
文法・本文
- 輕率
- 「をそろ」は軽はずみ、うかつ。
- 日さ數多く
- 「まねく」は数多く。
和歌
- 作者
- 大伴駿河麻呂(?–776)
大伴御行の孫。陸奥按察使・鎮守将軍などを務めた。坂上郎女の娘、坂上二嬢を妻とした。 - 出典
- 『万葉集』巻第四・相聞・653〜655番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 第3期(710〜733年(平城京遷都〜山上憶良の没年ごろ))
- 状況
- 大伴駿河麻呂の歌三首。
解説
655番の結句は諸本の文字が乱れていて、古来定まった訓がない。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、169頁(コマ88)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、179頁(コマ95)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日