古典ライブラリー

万葉集 巻第四 611〜612番

今更に 妹に逢はめやと

大伴家持(おおとものやかもち)

今さらあなたに逢えるだろうかと思うからか、ひどく胸がふさがる。なまじっか黙っていればよかったのに、どうして逢いはじめてしまったのか、遂げられもしないのに。笠女郎に答えた家持の歌。

夜の部屋で、若い貴公子が文を前に、うつむいて物思いに沈んでいる

題詞大伴宿禰家持の和ふる歌二首

  1. 1今いま今いまいま更さら更さらさらににに今更611
  2. 2妹いも妹いもいもににに逢あ逢ああははわめめめやややととと妹爾將相八跡
  3. 3念おも念おもおもへへえかもかもかも念可聞
  4. 4幾許ここだ幾許ここだここだわわわががが胸むね胸むねむね幾許吾胸
  5. 5鬱悒おほほし鬱悒おほほしおほほしからからからむむん欝悒將有
  6. 6なかなかなかなかなかなかににに中々爾612
  7. 7默もだ默もだもだもももあらあらあらましましましををを默毛有益呼
  8. 8何なに何なになにすとすとすとかかか何爲跡香
  9. 9相あひ相あひあい見み見みみそめそめそめけむけむけん相見始兼
  10. 10遂と遂ととげげげざらざらざらなくなくなくににに不遂爾

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

〔611〕今さらあなたに逢えるだろうかと思うからだろうか、ひどく私の胸はふさがっていることだ。

〔612〕なまじっか黙っていればよかったのに、どうして逢いはじめてしまったのだろう。遂げられもしないのに。

意訳

笠女郎の二十四首に、家持が返した二首である。もう逢えないだろうと思うと胸がふさがると言いつつ、612番では、いっそ黙っていればよかった、遂げられない恋なのにどうして逢いはじめたのかと、二人の仲が終わったことを告げている。

語釈・文法注

文法・本文

鬱悒
「おほほし」は心が晴れない。
遂げざらなくに
遂げないのに。

和歌

作者
大伴家持(718?–785)
大伴旅人の子。越中守などを務め、のちに中納言に至った。万葉集に最も多くの歌を残し、その編纂に深くかかわったとされる。
出典
『万葉集』巻第四・相聞・611〜612番
歌体
短歌(五七五七七)
時期
第4期(733〜759年(〜万葉集の最後の歌))
状況
笠女郎の歌に大伴家持が答えた歌二首。

解説

二十四首の熱烈な恋歌に対し、家持の答えは二首だけで、恋の終わりを告げる冷静なものであった。その落差が、笠女郎の歌群をいっそう印象深いものにしている。

関連

出典

底本
佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、163頁(コマ85)。国立国会図書館デジタルコレクション
原文
佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、172頁(コマ92)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日