古典ライブラリー

万葉集 巻第三 287番

此處にして

石上卿(いそのかみのまえつきみ)

ここにいて、わが家はどちらの方角だろう。白雲のたなびく山を越えて、はるばるやって来たことだ。行幸に従って近江の志賀に来た石上卿の望郷の歌。

湖のほとりに立つ貴人が、白雲のたなびく山々の向こうの、都の方角を振り返っている

題詞志賀に幸せる時、石上卿の作れる歌一首(名闕く)

  1. 1此處ここ此處ここここにににしししててて此間爲而
  2. 2家いへ家いへいえやもやもやもいづくいづくいずく家八方何處
  3. 3白しら白しらしら雲くも雲くもくもののの白雲乃
  4. 4たなびくたなびくたなびく山やま山やまやまををを棚引山乎
  5. 5越こ越ここえええててて來き來ききにににけりけりけり超而來二家里

引用の仕方

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現代語訳

ここにいて、わが家はどちらの方だろうか。白雲のたなびく山を越えて、やって来たことだ。

意訳

天皇の行幸に従って近江の志賀まで来た作者は、ふと自分の家のある方角を振り返る。間には白雲のたなびく山々が重なっていて、家はもう見えない。遠くまで来たことを実感する、旅の歌の典型的な形である。

語釈・文法注

文法・本文

家やもいづく
「やも」は疑問を強める。家はいったいどこなのか。

和歌

作者
石上卿(生没年未詳)
名は伝わらない。石上麻呂、またはその子の乙麻呂とする説がある。
出典
『万葉集』巻第三・雑歌・287番
歌体
短歌(五七五七七)
時期
第2期(672〜710年(壬申の乱〜平城京遷都))
状況
天皇が近江の志賀に行幸したときに、石上卿(名は伝わらない)が詠んだ歌。

解説

白雲のたなびく山の向こうに故郷を思う発想は、旅の歌に多く見られる。「家やもいづく」という問いかけが、故郷との距離を強く感じさせる。

関連

出典

底本
佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、98頁(コマ53)。国立国会図書館デジタルコレクション
原文
佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、98頁(コマ55)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日