古典ライブラリー

万葉集 巻第三 281番

白菅の 眞野の榛原

高市黒人の妻(たけちのくろひとのつま)

眞野の榛原は、行くときも帰るときもあなたこそご覧になるのでしょう。私はこれきりの眞野の榛原を。黒人の「眞野の榛原手折りて行かむ」に答えた妻の歌。

色づいた榛の林の中の道で、旅装の女性が名残惜しそうに林を振り返っている

題詞黒人の妻の答ふる歌一首

  1. 1白しら白しらしら菅すげ菅すげすげののの白菅乃
  2. 2眞野まぬ眞野まぬまぬののの榛はり榛はりはり原はら原はらはら眞野之榛原
  3. 3往ゆ往ゆゆくくくさささ來く來くくさささ徃左來左
  4. 4君きみ君きみきみこそこそこそ見み見みみらめらめらめ君社見良目
  5. 5眞野まぬ眞野まぬまぬののの榛はり榛はりはり原はら原はらはら眞野之榛原

引用の仕方

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現代語訳

(白菅の)眞野の榛原は、行くときも帰るときも、あなたこそご覧になるのでしょう。この眞野の榛原を。

意訳

280番で黒人は、眞野の榛の枝を手折って早く大和へ帰ろうと呼びかけた。妻は、あなたは旅の行き帰りに何度でもこの榛原を見られるでしょうが、私はもう見られないかもしれないのですからと、立ち去りがたい思いを訴える。「眞野の榛原」を初めと終わりにくり返して、景色への愛着を強めている。

語釈・文法注

文法・本文

往くさ來さ
「さ」は「…するとき」。行くときも来るときも。

和歌

作者
高市黒人の妻(生没年未詳)
高市黒人の妻。名は伝わらない。
出典
『万葉集』巻第三・雑歌・281番
歌体
短歌(五七五七七)
時期
第2期(672〜710年(壬申の乱〜平城京遷都))
状況
280番の高市黒人の歌に、黒人の妻が答えた歌。

修辞

反復
第二句と結句に「眞野の榛原」をくり返す。

解説

夫の言葉を受けて切り返す、夫婦の旅の情景の歌である。初めと終わりに同じ句を置く形は、古い歌謡の形式を思わせる。

関連

出典

底本
佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、98頁(コマ53)。国立国会図書館デジタルコレクション
原文
佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、97頁(コマ54)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日