古典ライブラリー

万葉集 巻第三 263番

馬ないたく

刑部垂麻呂(おさかべのたりまろ)

馬をそんなにひどく鞭打って急がないでおくれ。日を重ねてゆっくり見ても、私がまた行ける志賀ではないのだから。近江から都へ上る道で、名残を惜しんだ歌。

湖のほとりの道を、名残惜しそうに振り返りながら、旅人がゆっくりと馬を進めている

題詞近江國より上り來る時、刑部垂麻呂の作れる歌一首

  1. 1馬うま馬うまうまななないたくいたくいたく馬莫疾
  2. 2打う打ううちちちななな行ゆ行ゆゆきききそそそねねね打莫行
  3. 3日け日けけ竝なら竝ならならべべべててて氣並而
  4. 4見み見みみてててももも我わ我わわががが行ゆ行ゆゆくくく見氏毛和我歸
  5. 5志賀しが志賀しがしがにににあらあらあらなくなくなくににに志賀爾安良七國

引用の仕方

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現代語訳

馬をそんなにひどく打って急いで行かないでおくれ。何日もかけて見たとしても、私がまた行ける志賀ではないのだから。

意訳

近江から都へ帰る旅の途中、作者は供の者に、馬をそんなに急がせないでくれと頼む。志賀は二度と来られるかわからない土地なので、何日もかけてゆっくりと見ておきたいのである。去りがたい旅先への愛着が素直に表れている。

語釈・文法注

文法・本文

な…そね
禁止の願い。…しないでおくれ。
日竝べて
「日(け)」は日数。何日も重ねて。

和歌

作者
刑部垂麻呂(生没年未詳)
伝未詳。
出典
『万葉集』巻第三・雑歌・263番
歌体
短歌(五七五七七)
時期
第2期(672〜710年(壬申の乱〜平城京遷都))
状況
刑部垂麻呂が、近江国から都へ上ってくる途中で詠んだ歌。

解説

志賀は、天智天皇の近江大津宮のあった地で、人麻呂の近江荒都歌などでもしのばれた。去りゆく旅先を惜しむ気持ちを、馬を急がせるなという具体的な言葉で表した歌である。

関連

出典

底本
佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、95頁(コマ51)。国立国会図書館デジタルコレクション
原文
佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、94頁(コマ53)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日