古典ライブラリー

万葉集 巻第二 154番

さざなみの 大山守は

石川夫人(いしかわのぶにん)

さざなみの大山の番人は、誰のために山に標縄を張っているのか。その山の主である大君は、もういらっしゃらないのに。天智天皇の死を悼む石川夫人の歌。

近江の山の入り口に標縄が張られ、番人が一人立っている。山の上には曇った空
近江の山の入り口に標縄が張られ、番人が一人立っている。山の上には曇った空

題詞石川夫人の歌一首

  1. 1さざなみさざなみさざなみののの神樂浪乃
  2. 2大おほ大おほおお山やま山やまやまははは大山守者
  3. 3誰た誰たたががが爲ため爲ためためかかか爲誰可
  4. 4山やま山やまやまににに標繩しめ標繩しめしめ結ゆ結ゆゆふふう山爾標結
  5. 5君きみ君きみきみももも在あ在ああらららなくなくなくににに君毛不有國

引用の仕方

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現代語訳

さざなみの大山を守る番人は、誰のために山に標縄を張っているのか。山の主である大君ももういらっしゃらないのに。

意訳

天皇の狩り場などとして、一般の人の立ち入りを禁じた山には、番人が置かれ、標縄が張られていた。天皇が亡くなった今も、番人は変わらず標縄を張って山を守っている。それを見て、守るべき主はもういないのに、と嘆く。変わらない日常の営みが、かえって主のいない寂しさを際立たせている。

語釈・文法注

大山守(おほやまもり)
天皇の御料の山を守る番人。

文法・本文

在らなくに
「なく」は打消のク語法、「に」は逆接。いらっしゃらないのに。

和歌

作者
石川夫人(7世紀後半)
天智天皇の夫人。蘇我氏の出身とされる。
出典
『万葉集』巻第二・挽歌・154番
歌体
短歌(五七五七七)
時期
第1期(629〜672年(舒明天皇の即位〜壬申の乱))
状況
天智天皇の死後、夫人の石川夫人が詠んだ歌。

解説

原文で「さざなみ」を「神樂浪」と書くのは、神楽の囃子の「ささ」という声にちなんだ表記とされる。天皇がいなくなっても続く番人の営みを通して、主を失った喪失感を表した歌である。

関連

出典

底本
佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、62頁(コマ35)。国立国会図書館デジタルコレクション
原文
佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、56頁(コマ34)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日