万葉集 巻第二 148番
青旗の
青旗のなびく木幡の山の上を、大君の魂が行き来しているのは目には見えるけれど、直接お逢いすることはできない。危篤の天皇を思う倭姫王の歌。

題詞一書に曰く、近江天皇聖體不豫、御病急なりし時、太后の奉れる御歌一首
現代語訳
(青旗の)木幡の山の上を、大君の御魂が行き通っておられるのは、目には見えるけれど、直接にはお逢いできないことよ。
意訳
天皇の病が重くなり、魂が体を離れて山の上を漂っているように感じられる。皇后には、その魂が見える。けれども直接手をとって逢うことはできない。生と死の境にある夫を前に、魂の姿を見ながら触れることのできないもどかしさと悲しみが歌われている。
語釈・文法注
- 青旗(あをはた)の
- 「木旗(こはた)」にかかる枕詞。青々と茂る木々を旗にたとえる。
- 木旗(こはた)
- 山城国の木幡(京都府宇治市)の地名とも、葬送の旗とも解される。
文法・本文
- 直に逢はぬかも
- 「かも」は詠嘆。直接には逢えないことよ。
和歌
- 作者
- 倭姫王(7世紀後半)
天智天皇の皇后。古人大兄皇子の娘。 - 出典
- 『万葉集』巻第二・挽歌・148番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 第1期(629〜672年(舒明天皇の即位〜壬申の乱))
- 状況
- 一書によれば、天智天皇の病が急になったとき、皇后の倭姫王が奉った歌。
修辞
- 枕詞
- 「青旗の」が「木旗」にかかる。
解説
古代の人々は、人が死に近づくと魂が体を離れてさまようと考えていた。皇后は、その魂を目に見ながら、もはや直接触れることのできない夫を嘆いている。147番の長寿を祈る歌から一転して、死を予感させる歌になっている。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、61頁(コマ34)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、55頁(コマ33)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日