万葉集 巻第二 147番
天の原
大空をふり仰いで見ると、大君のお命は長く、天に満ち足りている。病に倒れた天智天皇の長寿を祈る、皇后倭姫王の歌。

題詞近江大津宮御宇天皇代(天命開別天皇) 天皇、聖躬不豫の時、太后の奉れる御歌一首
現代語訳
大空を遠く仰ぎ見ると、大君のお命は長く、天いっぱいに満ち足りていらっしゃる。
意訳
天智天皇が重い病に倒れたとき、皇后は大空を仰ぎ、天に満ちあふれる天皇の命の長さを言葉にして祈る。言葉に霊力があると信じられた古代には、こう言い切ることで、天皇の命が長くなると考えられていた。不安を押し殺して、ひたすら天皇の長寿を言祝ぐ歌である。
語釈・文法注
- 天足らしたり
- 天に満ち足りていらっしゃる。
文法・本文
- 天足らしたり
- 「足らす」は「足る」の尊敬語、「たり」は存続。
和歌
- 作者
- 倭姫王(7世紀後半)
天智天皇の皇后。古人大兄皇子の娘。天皇の病と死に際して、四首の歌を残している(147〜149・153番)。 - 出典
- 『万葉集』巻第二・挽歌・147番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 第1期(629〜672年(舒明天皇の即位〜壬申の乱))
- 状況
- 天智天皇10年(671)、天皇が重い病に倒れたとき、皇后の倭姫王が天皇の長寿を祈って奉った歌。
修辞
- 予祝
- まだ実現していない長寿を、すでにそうであるかのように言い切って祈る。
解説
天智天皇は天智天皇10年(671)12月に近江大津宮で亡くなった。この歌は、その病の重いときに皇后が詠んだものである。続く148・149番、153番とあわせて、天皇の病から死、そして葬送までの皇后の心の移り変わりをたどることができる。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、60頁(コマ34)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、54頁(コマ33)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日