古典ライブラリー

万葉集 巻第二 115番

後れゐて

但馬皇女(たじまのひめみこ)

後に残って恋い焦がれているくらいなら、追いかけて行こう。道の曲がり角ごとに目印を結んでおいてください、あなた。近江へ遣わされた穂積皇子を思う但馬皇女の歌。

山道の曲がり角の木の枝に結ばれた白い布の目印を、女性がたどっていく
山道の曲がり角の木の枝に結ばれた白い布の目印を、女性がたどっていく

題詞穂積皇子に勅して近江の志賀の山寺に遣しし時、但馬皇女の御作歌

  1. 1後おく後おくおくれれれゐゐいててて遺居而
  2. 2戀こ戀ここひひいつつつつつつあらあらあらずずずははは戀管不有者
  3. 3追お追おおひひい及し及ししかかかむむん追及武
  4. 4道みち道みちみちののの隈くま隈くまくまににに道之阿回爾
  5. 5標しめ標しめしめ結ゆ結ゆゆへへえわわわががが背せ背せせ標結吾勢

引用の仕方

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現代語訳

後に残されて恋い焦がれているくらいなら、追いかけて追いつこう。道の曲がり角ごとに、目印を結んでおいてください、あなた。

意訳

天皇の命令で、穂積皇子は近江の志賀の山寺へ遣わされた。二人の仲を裂くための処置であったとも考えられる。但馬皇女は、残されて恋しく思っているよりは、追いかけて行きたいと歌う。「道の角ごとに目印を結んでおいて」という言葉に、すべてを捨ててでも恋人のあとを追おうとする激しい思いがこもっている。

語釈・文法注

隈回(くまみ)
道の曲がり角のあたり。

文法・本文

標結へ
「標(しめ)」は目印。「結へ」は命令形。目印を結んでおいて。

和歌

作者
但馬皇女(?–708)
天武天皇の皇女。異母兄の高市皇子の宮にいたが、同じく異母兄の穂積皇子と恋をした。
出典
『万葉集』巻第二・相聞・115番
歌体
短歌(五七五七七)
時期
第2期(672〜710年(壬申の乱〜平城京遷都))
状況
天皇(持統天皇)の命によって穂積皇子が近江の志賀の山寺に遣わされたとき、但馬皇女が詠んだ歌。

解説

穂積皇子が近江の山寺に遣わされた理由は記されていないが、二人の恋が問題になったため、皇子を遠ざける処置であったとみる説がある。

「追ひ及かむ」「標結へわが背」と、言い切りや命令の形を重ねる歌いぶりには、皇女の激しい気性がうかがえる。女性の側から恋人を追うという強い意志を表した歌として印象深い。

関連

出典

底本
佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、54頁(コマ31)。国立国会図書館デジタルコレクション
原文
佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、49頁(コマ30)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日