万葉集 巻第二 95番
吾はもや
私はまあ、安見児を手に入れた。誰もが手に入れられないという安見児を手に入れたぞ。天皇から采女を賜った藤原鎌足の、喜びあふれる歌。

題詞内大臣藤原卿、采女安見兒を娶たる時作れる歌
現代語訳
私はまあ、安見児を手に入れた。誰もがみな手に入れることができないという、安見児を手に入れたぞ。
意訳
采女は天皇に仕える女官で、臣下が娶ることは許されていなかった。その采女の安見児を、鎌足は天皇から特別に賜った。「安見児得たり」を二度くり返し、喜びを抑えきれない様子を素直に表している。天皇の深い信頼を受けた鎌足の得意な気持ちもうかがえる、明るく率直な歌である。
語釈・文法注
- もや
- 感動を表す助詞。まあ、ああ。
- 安見兒(やすみこ)
- 采女の名。
- 得がてにす
- 得ることができないでいる。「かてに」は…できずに。
文法・本文
- 安見兒得たり
- 同じ句を二句目と五句目にくり返し、喜びを強調する。
- 得がてにすとふ
- 「とふ」は「といふ」がつまった形。
和歌
- 作者
- 藤原鎌足(614–669)
中臣鎌足。中大兄皇子とともに蘇我氏を倒し、大化の改新を進めた。天智天皇の信任が厚く、亡くなる直前に大織冠と藤原の姓を賜った。藤原氏の祖。 - 出典
- 『万葉集』巻第二・相聞・95番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 第1期(629〜672年(舒明天皇の即位〜壬申の乱))
- 状況
- 内大臣藤原卿(中臣鎌足)が、采女の安見児を妻としたときの歌。采女は天皇以外の男性との結婚が禁じられており、天皇の特別な許しがあったと考えられる。
修辞
- 反復
- 「安見兒得たり」を二度くり返す。
解説
采女は、地方の豪族の娘から選ばれて宮中に仕えた女官で、天皇のものとされ、臣下が恋愛や結婚をすることは厳しく禁じられていた。それを天皇から賜ったということは、鎌足が天智天皇から並々ならぬ信頼を受けていたことを示している。
同じ句をくり返す単純な形は、喜びをそのまま声に出したような調子で、宴の場で披露された歌とも考えられる。大化の改新を成し遂げた政治家の、人間味あふれる一面を伝える歌である。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、51頁(コマ29)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、45頁(コマ28)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日