万葉集 巻第一 59番
ながらふる
絶え間なく吹きつける風の寒い夜に、旅先の夫は今ごろひとりで寝ているのだろうか。三河行幸に従った夫を思う、都の妻の歌。

題詞譽謝女王の作れる歌
現代語訳
絶え間なく吹きつけてくる、軒先を吹く風の寒い夜に、私の夫は、ひとりで寝ているのだろうか。
意訳
冬の夜、都で風の音を聞いていると、旅に出ている夫のことが気にかかる。こんなに寒い夜に、夫はひとりで寝ているのだろうか。夫の身を案じる気持ちと、そばにいられない寂しさとが、風の冷たさとともに伝わってくる。
語釈・文法注
- ながらふる
- 絶え間なく続く。風がずっと吹き続ける。原文「流經」。
- つま
- 軒の端(つま)の意とも、「妻(つま)」とする説もある。原文「妻」。
文法・本文
- ひとりか寢らむ
- 「か」は疑問、「らむ」は現在推量。ひとりで寝ているのだろうか。
和歌
- 作者
- 誉謝女王(?–706)
伝未詳の女王。慶雲3年(706)に亡くなったことが『続日本紀』に見える。 - 出典
- 『万葉集』巻第一・雑歌・59番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 第2期(672〜710年(壬申の乱〜平城京遷都))
- 状況
- 大宝2年(702)の持統太上天皇の三河行幸の際、都に残った誉謝女王が、行幸に従った夫を思って詠んだ歌とみられる。
解説
三河行幸は10月から11月にかけての冬の旅であった。都に残った人々は、寒さの中を旅する家族を気づかったことであろう。この歌は、旅の夫を思う妻の歌の典型で、43番の当麻真人麻呂の妻の歌とも通じる。
原文の「妻吹風」の「妻」を、軒端(つま)と解するか、妻を思う意を響かせているとみるかで解釈が分かれる。いずれにしても、寒い夜の風の音が、離れて暮らす夫婦の寂しさを際立たせている。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、32頁(コマ20)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、25頁(コマ18)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日