古今和歌集 序
仮名序(一)
やまと歌は人の心を種として生まれる。歌の力、その起こり、そして歌の六つのさまを述べる、仮名序の書き出し。

- 1やまとやまとやまと歌歌うたははは人人ひとののの心心こころををを種種たねとしてとしてとして、、、よろづのよろづのよろずの言言ことののの葉葉はとぞなれりけるとぞなれりけるとぞなれりける。。。
- 2世世よののの中中なかにあるにあるにある人人ひと事事ことわざしげきわざしげきわざしげき物物ものなればなればなれば、、、心心こころににに思思おもふふう事事ことををを見見みるるる物物ものきくきくきく物物ものにつけていひにつけていひにつけていい出出いだせるなりせるなりせるなり。。。
- 3花花はなになくになくになく鶯鶯うぐいす、、、水水みずにすむにすむにすむ蛙蛙かわずののの聲聲こえをををきけばきけばきけば、、、生生いきとしきとしきとし生生いけるものけるものけるもの、、、いづれかいづれかいずれか歌歌うたをををよまざりけるよまざりけるよまざりける。。。
- 4力力ちからをををもいれずしてもいれずしてもいれずして天地天地あめつちををを動動うごかしかしかし、、、目目めににに見見みえぬえぬえぬ鬼神鬼神おにがみをををもあはれともあはれともあわれと思思おもはせはせわせ、、、男男おとこ女女おんなののの中中なかをもをもをも和和やわらけらけらけ、、、猛猛たけききき武士武士もののふののの心心こころをもをもをも慰慰なぐさむるむるむるははは歌歌うた也也なり。。。
- 5このこのこの歌歌うた天地天地あめつちののの開開ひらけけけはじまりけるはじまりけるはじまりける時時ときよりよりより出出いできにけりできにけりできにけり。。。しかあれどもしかあれどもしかあれども世世よににに傳傳つたはるはるわる事事ことははは、、、久方久方ひさかたのあめにしてのあめにしてのあめにしてははは、、、下照姫下照姫したてるひめににに始始はじまりりり、、、あらがねのつちにしてあらがねのつちにしてあらがねのつちにしてははは、、、すさのをのすさのをのすさのおの尊尊みことよりぞおこりけるよりぞおこりけるよりぞおこりける。。。
- 6ちはやぶるちはやぶるちはやぶる神代神代かみよにににははは、、、歌歌うたののの文字文字もじももも定定さだまらずらずらず、、、すなほにしてすなほにしてすなおにして、、、ことのことのことの心心こころわきがたかりけらしわきがたかりけらしわきがたかりけらし。。。人人ひとののの世世よとなりてとなりてとなりて、、、すさのをのすさのをのすさのおの尊尊みことよりぞよりぞよりぞ、、、三十三十みそもじあまりもじあまりもじあまり一一ひともじもじもじはははよみけるよみけるよみける。。。
- 7かくてぞかくてぞかくてぞ、、、花花はなをををめでめでめで、、、鳥鳥とりをををうらやみうらやみうらやみ、、、霞霞かすみをををあはれびあはれびあわれび、、、露露つゆをををかなしぶかなしぶかなしぶ心心こころ詞詞ことばおほくさまざまになりにけるおほくさまざまになりにけるおおくさまざまになりにける。。。遠遠とおききき所所ところももも出出いでたつでたつでたつ足足あしもとよりもとよりもとより始始はじまりてりてりて年月年月としつきをををわたりわたりわたり、、、高高たかききき山山やまももも麓麓ふもとののの塵塵ちりひぢよりなりてひぢよりなりてひじよりなりて、、、天雲天雲あまぐもたなびくまでおひのぼれるがたなびくまでおひのぼれるがたなびくまでおいのぼれるが如如ごとくにくにくに、、、このこのこの歌歌うたもかくのもかくのもかくの如如ごとくなるべしくなるべしくなるべし。。。
- 8難波津難波津なにわづののの歌歌うたははは帝帝みかどのおほんのおほんのおおん始始はじめなりなりなり。。。淺香淺香あさか山山やまののの言葉言葉ことばははは采女采女うねめのたはぶれよりよみてのたはぶれよりよみてのたわぶれよりよみて、、、このこのこのふたふたふた歌歌うたははは、、、歌歌うたののの父母父母ちちははのやうにてぞのやうにてぞのようにてぞ、、、手手て習習ならふふう人人ひとののの始始はじめにもしけるにもしけるにもしける。。。
- 9そもそもそもそもそもそも歌歌うたのさまのさまのさま六六むつなりつなりつなり。。。からのからのからの歌歌うたにもかくぞにもかくぞにもかくぞ有有あるべきるべきるべき。。。
- 10そのそのその六六むくさのくさのくさの一一ひとつにつにつにはははそへそへそえ歌歌うた。。。おほささぎのみかどおほささぎのみかどおおささぎのみかどをををそへたてまつれるうたそへたてまつれるうたそえたてまつれるうた、、、なになになにはづはづわづにさくやこのにさくやこのにさくやこの花花はな冬冬ふゆごもりごもりごもり今今いまははははるべとはるべとはるべと咲咲さくやこのくやこのくやこの花花はなといへるなるべしといへるなるべしといえるなるべし。。。
- 11二二ふたつにつにつにはははかぞへかぞへかぞえ歌歌うた。。。咲咲さくくく花花はなににに思思おもひつくひつくいつく身身みのあぢきなさのあぢきなさのあじきなさ身身みにいたつきのいるもにいたつきのいるもにいたつきのいるも知知しらずてといへるなるべしらずてといへるなるべしらずてといえるなるべし。。。
- 12三三みつにつにつにはははなずらへなずらへなずらえ歌歌うた。。。君君きみにけさあしたのにけさあしたのにけさあしたの霜霜しものおきていなばのおきていなばのおきていなば戀戀こいしきごとにしきごとにしきごとに消消きえやわたらむといへるなるべしえやわたらむといへるなるべしえやわたらむといえるなるべし。。。
- 13四四よつにつにつにはははたとへたとへたとえ歌歌うた。。。わがこひわがこひわがこいはははよむともつきじありそよむともつきじありそよむともつきじありそ海海うみののの濱濱はまののの眞砂眞砂まさごはははよみつくすともといへるなるべしよみつくすともといへるなるべしよみつくすともといえるなるべし。。。
- 14五五いつつにつにつにはははただごとただごとただごと歌歌うた。。。僞僞いつわりのなきのなきのなき世世よなりせばいかばかりなりせばいかばかりなりせばいかばかり人人ひとののの言言ことののの葉葉はうれしからましといへるなるべしうれしからましといへるなるべしうれしからましといえるなるべし。。。
- 15六六むつにつにつにはははいはひいはひいわい歌歌うた。。。このこのこの殿殿とのはははむべもとみけりさきむべもとみけりさきむべもとみけりさき草草くさのみつばよつばにとののみつばよつばにとののみつばよつばにとのづくりづくりづくりせりといへるなるべしせりといへるなるべしせりといえるなるべし。。。
- 16今今いまののの世世よののの中中なか、、、色色いろにつきにつきにつき、、、人人ひとののの心心こころ花花はなになりにけるよりになりにけるよりになりにけるより、、、あだなるあだなるあだなる歌歌うた、、、はかなきことのみはかなきことのみはかなきことのみ出出いでくればでくればでくれば、、、色色いろごのみのごのみのごのみの家家いえににに、、、埋木埋木うもれぎののの人人ひとしれぬしれぬしれぬ事事こととなりてとなりてとなりて、、、まめなるまめなるまめなる所所ところにににははは、、、花薄花薄はなすすきほにいだすべきほにいだすべきほにいだすべき事事ことにもあらずにもあらずにもあらず成成なりにたりりにたりりにたり。。。そのそのその始始はじめををを思思おもへばへばえば、、、かかるべくなむあらぬかかるべくなむあらぬかかるべくなむあらぬ。。。
- 17いにしへのいにしへのいにしえの代々代々よよののの帝帝みかど、、、春春はるののの花花はなのあしたのあしたのあした、、、秋秋あきののの月月つきののの夜夜よごとにごとにごとに、、、さぶらふさぶらふさぶらう人々人々ひとびとをををめしてめしてめして、、、ことにつけつつことにつけつつことにつけつつ歌歌うたををを奉奉たてまつらしめらしめらしめ給給たまふふう。。。あるあるあるははは花花はなをををこふとてこふとてこうとて、、、たよりなきたよりなきたよりなき所所ところにまどひにまどひにまどい、、、あるあるあるははは月月つきををを思思おもふとてふとてうとて、、、しるべなきしるべなきしるべなき闇闇やみにたどれるにたどれるにたどれる心々心々こころごころををを見見みたまひてたまひてたまいて、、、さかしおろかなりとしろしめしけむさかしおろかなりとしろしめしけむさかしおろかなりとしろしめしけむ。。。
- 18しかあるのみにあらずしかあるのみにあらずしかあるのみにあらず、、、さされさされさされ石石いしにににたとへたとへたとえ、、、筑波山筑波山つくばやまにかけてにかけてにかけて君君きみををを願願ねがひひい、、、よろこびよろこびよろこび身身みにすぎにすぎにすぎ、、、たのしみたのしみたのしみ心心こころにあまりにあまりにあまり、、、富士富士ふじののの煙煙けぶりによそへてによそへてによそえて人人ひとをををこひこひこい、、、松蟲松蟲まつむしのねにのねにのねに友友ともをををしのびしのびしのび、、、高砂高砂たかさご住住すみののの江江えののの松松まつもあひおひのやうにもあひおひのやうにもあいおいのように覺覺おぼえええ、、、男山男山おとこやまののの昔昔むかしををを思思おもひひい出出いでてでてでて、、、女郞花女郞花おみなえしののの一一ひと時時ときをををくねるにもくねるにもくねるにも、、、歌歌うたをををいひてぞなぐさめけるいひてぞなぐさめけるいいてぞなぐさめける。。。
現代語訳
やまと歌は、人の心を種として、それが芽を出し、数多くの言葉の葉となったものである。
この世に生きる人は、関わる事柄や行いが多いものなので、心に思うことを、見るもの聞くものに託して言い表したのが歌である。
花に鳴く鶯や、水に住む河鹿の声を聞くと、命あるもので、歌を詠まないものがあろうか。
力も入れないで天地を動かし、目に見えない鬼神をもしみじみと感じ入らせ、男女の仲をもやわらげ、勇猛な武士の心をも慰めるのは、歌である。
この歌は、天地が開けはじめた時から生まれ出ていた。けれども、世に伝わることは、天上においては下照姫に始まり、地上においては素戔嗚尊から起こった。
神代には、歌の字数も定まらず、素朴で、言葉の意味も聞き分けにくかったらしい。人の世になって、素戔嗚尊から三十一文字の歌を詠むようになった。
こうして、花をめで、鳥をうらやみ、霞に感じ入り、露を悲しむ心や言葉が、多く、さまざまになった。遠い所も出発する足もとから始まって年月を経てたどり着き、高い山も麓の塵や泥から成って、天の雲がたなびくほどに高くなったように、この歌もそのように少しずつ大きくなったのであろう。
「難波津」の歌は、帝の御代の初めを祝ったもの。「安積山」の言葉は、采女が戯れに詠んだもので、この二首は歌の父母のようなものとして、手習いをする人が最初に習うものとした。
そもそも歌の様式は六つある。唐の詩にもこのようにあるのだろう。
その六種の一つめは「そへ歌」。仁徳天皇をよそえて申し上げた歌で、「難波津に咲くやこの花冬ごもり今は春べと咲くやこの花」というのがそれであろう。
二つめは「かぞへ歌」。「咲く花に思ひつく身のあぢきなさ身にいたつきのいるも知らずて」というのがそれであろう。
三つめは「なずらへ歌」。「君に今朝あしたの霜のおきていなば恋しきごとに消えやわたらむ」というのがそれであろう。
四つめは「たとへ歌」。「わが恋はよむとも尽きじ荒磯海の浜の真砂はよみ尽くすとも」というのがそれであろう。
五つめは「ただごと歌」。「いつはりのなき世なりせばいかばかり人の言の葉うれしからまし」というのがそれであろう。
六つめは「いはひ歌」。「この殿はむべも富みけりさき草のみつばよつばに殿づくりせり」というのがそれであろう。
今の世の中は、外見の華やかさにひかれ、人の心が花のように浮ついたものになってから、うわべだけの歌や、はかない歌ばかりが出てくるので、歌は色好みの家で、埋もれ木のように人に知られないものとなり、まじめな公の場では、花すすきが穂を出すように表立って出すべきものでもなくなってしまった。その始まりを思えば、こうあるべきではない。
昔の代々の帝は、春の花の朝や秋の月の夜ごとに、お仕えする人々を召して、事あるごとに歌を献上させなさった。ある者は花をめでようとして頼りない所にさまよい、ある者は月を思うとて道しるべのない闇にたどる、その心々をご覧になって、賢い愚かだとお見分けになったのであろう。
そればかりでなく、さざれ石にたとえ、筑波山にかけて君の長寿を願い、喜びが身に余り、楽しみが心にあふれ、富士の煙によそえて人を恋い、松虫の音に友をしのび、高砂や住の江の松も共に生い育ったように思い、男山の昔を思い出し、女郎花の盛りのひとときをすねるにつけても、歌を詠んで心を慰めたのである。
意訳
貫之は、歌とは人の心から自然に生まれるものであり、天地や神々をも動かす力を持つと宣言する。そのうえで、歌の起源を神代にさかのぼらせ、「そへ歌」から「いはひ歌」までの六つの様式を例歌で示す。後半では、今の歌が恋の道具になり公の場から退いたことを嘆き、かつては帝が歌によって臣下の心を知ったことを思い起こさせる。和歌を漢詩と並ぶ公の文学として復権させようという、撰者たちの主張がこの書き出しに込められている。
語釈・文法注
- やまと歌
- 和歌。からうた(漢詩)に対していう。
- 人の心を種として
- 心を種に、言葉を葉にたとえる。以下「言の葉」へと続く比喩。
- 生きとし生けるもの
- あらゆる生き物。「と」「し」は強めの助詞。
- 鬼神
- 目に見えない霊的な存在。死者の霊や神々。
- 下照姫
- 天稚彦の妻。夫の死を悼む歌が天上の歌の始まりとされる。
- すさのをの尊
- 素戔嗚尊。出雲で詠んだ「八雲立つ」の歌が三十一文字の歌の始まりとされる。
- 三十もじあまり一もじ
- 三十一文字。短歌の形。
- 難波津の歌
- 「難波津に咲くやこの花」の歌。王仁が仁徳天皇の即位を祝ったものと伝える。
- 淺香山の言葉
- 「安積山影さへ見ゆる山の井の」の歌。采女が葛城王をなだめたものと伝える。
- 歌のさま六つ
- 漢詩の「六義」(風・賦・比・興・雅・頌)にならって立てた和歌の六つの様式。
- くねる
- すねる、ひがむ。
解説
仮名序は紀貫之が書いたとされる、和歌について書かれた最初の本格的な評論である。延喜五年(905)の撰進の後まもなく書かれたと見られる。
「やまと歌は人の心を種として」で始まる書き出しは、和歌の本質を述べた言葉として広く知られる。真名序の「夫和歌者、託其根於心地、発其花於詞林者也」と内容がよく対応しており、二つの序の関係(どちらが先に書かれたか)が議論されてきた。
底本は仮名序を三つの段落に分けず続けて刷る。当サイトでは内容のまとまりで三つのページに分け、さらに段落に分けた。
関連
出典
- 底本
- 有朋堂文庫『古今和歌集・後撰和歌集』 塚本哲三校訂、有朋堂書店、大正15年(1926)、仮名序 1〜3頁(コマ8〜9)。正保四年版『八代集』を底本とする。国立国会図書館デジタルコレクション(保護期間満了)
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部(本文は底本による。現代語訳・注は当サイト)
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