古今和歌集 巻第一 春歌上 42番
人はいさ
あなたの心は、さあどうだかわかりません。でも、なじみのこの里では、梅の花だけは昔のままの香に匂っていることです。

- 1初瀨初瀨はつせににに詣詣もうづるごとにづるごとにずるごとに宿宿やどりけるりけるりける人人ひとののの家家いえににに久久ひさしくやどらでほどへてしくやどらでほどへてしくやどらでおどえて後後のちにいたれりければにいたれりければにいたれりければ彼彼かののの家家いえのあるじかくさだかになむやどりのあるじかくさだかになむやどりのあるじかくさだかになむやどりはははあるといひあるといひあるといい出出いだしてしてして侍侍はべりければそこにたてりけるりければそこにたてりけるりければそこにたてりける梅梅うめののの花花はなををを折折おりてよめるりてよめるりてよめる詞書
- 2人人ひとはははいさいさいさ初句
- 3心心こころもしらずもしらずもしらず二句
- 4ふるさとふるさとふるさとははは三句
- 5花花はなぞむかしのぞむかしのぞむかしの四句
- 6香香かににほひけるににほひけるににおいける結句
現代語訳
〔詞書〕初瀬に参詣するたびに泊まっていた人の家に、長く泊まらずにいて、しばらくたって訪ねたところ、その家の主人が「このように宿は確かにありますのに(お見限りでしたね)」と言ってきたので、そこに立っていた梅の花を折って詠んだ歌。
あなたの心は、さあどうだかわかりません。でも、なじみのこの里では、梅の花だけは昔のままの香に匂っていることです。
意訳
久しぶりの来訪を皮肉った宿の主人に、人の心は変わりやすいものだが、梅の花は昔と変わらず香っている、と切り返した。軽い皮肉を、梅を贈る優雅な挨拶に包んでいる。
語釈・文法注
- 人はいさ
- 「いさ」は「さあどうだか」。下に「知らず」を伴う。
- ふるさと
- 昔なじみの土地。ここでは何度も訪れた初瀬の宿。
- 花ぞ…にほひける
- 「ぞ…ける」の係り結び。
和歌
- 作者
- 紀貫之(きのつらゆき) 872?–945?
『古今和歌集』の撰者の中心で、仮名序を書いた。御書所預などを経て土佐守となり、任期を終えて帰京する旅を『土佐日記』に書いた。理知的で技巧に富む歌風で、『古今和歌集』に最も多い百首あまりが入る。三十六歌仙の一人。 - 出典
- 『古今和歌集』巻第一・春歌上・42番
- 歌体
- 短歌
- 状況
- 詞書「初瀨に詣づるごとに宿りける人の家に久しくやどらでほどへて後にいたれりければ彼の家のあるじかくさだかになむやどりはあるといひ出して侍りければそこにたてりける梅の花を折りてよめる」(初瀬に参詣するたびに泊まっていた人の家に、長く泊まらずにいて、しばらくたって訪ねたところ、その家の主人が「このように宿は確かにありますのに(お見限りでしたね)」と言ってきたので、そこに立っていた梅の花を折って詠んだ歌)。
修辞
- 対比
- 変わりやすい人の心と、変わらない花の香。
解説
百人一首第三十五首にも採られた紀貫之の代表歌。詞書と合わせて読むと、当意即妙のやりとりの機知がわかる。
関連
出典
- 底本
- 有朋堂文庫『古今和歌集・後撰和歌集』 塚本哲三校訂、有朋堂書店、大正15年(1926)、7〜8頁(コマ17)。正保四年版『八代集』を底本とする。国立国会図書館デジタルコレクション(保護期間満了)
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部(本文は底本による。現代語訳・注は当サイト)
- 更新日