古今和歌集 巻第一 春歌上 1番
年の内に
年が改まらないうちに春がやって来てしまった。この一年を、去年と言おうか、今年と言おうか。

現代語訳
〔詞書〕年内に立春を迎えた日に詠んだ歌。
年が改まらないうちに春がやって来てしまった。この一年を、去年と言おうか、今年と言おうか。
意訳
暦の上ではまだ旧年なのに、立春の日が来て季節はもう春になった。正月より先に春が来るという暦のずれを、「去年か今年か」ととまどってみせることで、新しい季節を迎えた喜びを機知的に表している。
語釈・文法注
- ふる年に春立つ
- 旧暦では、元日より前に立春(春の始まり)が来ることがあり、これを年内立春という。
- こぞとやいはむ
- 「や」は疑問の係助詞、「む」は推量・意志の助動詞の連体形。「去年と言おうか」。
和歌
- 作者
- 在原元方(ありわらのもとかた) 生没年未詳(九世紀末〜十世紀前半)
在原業平の孫、在原棟梁の子。藤原国経の養子になったとも伝える。『古今和歌集』の巻頭歌「年の内に」の作者。 - 出典
- 『古今和歌集』巻第一・春歌上・1番
- 歌体
- 短歌
- 状況
- 詞書「ふる年に春立ちける日よめる」(年内に立春を迎えた日に詠んだ歌)。
修辞
- 対句
- 「去年とやいはむ」「今年とやいはむ」を並べ、どちらとも決めかねる気持ちを表す。
解説
『古今和歌集』の巻頭歌。暦の上の理屈をおもしろがる理知的な詠みぶりは古今集らしさをよく示すが、正岡子規は『再び歌よみに与ふる書』でこの歌を「実に呆れ返つた無趣味の歌」と酷評した。季節の始まりをどう捉えたかを示す一首として、評価が分かれてきた歌である。
関連
出典
- 底本
- 有朋堂文庫『古今和歌集・後撰和歌集』 塚本哲三校訂、有朋堂書店、大正15年(1926)、1頁(コマ14)。正保四年版『八代集』を底本とする。国立国会図書館デジタルコレクション(保護期間満了)
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部(本文は底本による。現代語訳・注は当サイト)
- 更新日