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和泉式部日記 第13章

なほざりのあらましごと

宮は「あなたを邸に連れて来たあと、わたしが出家でもしたら」と心細いことを言い、女は泣きながら連歌で応じる。不安に揺れる女に宮は「住の江の松のように変わらない」と誓う。なでしこの歌、法華経の講義の歌、雪の梅、冬の夜の歌と、年の暮れに向かって贈答が続く。

  1. 1そのそのその夜よ夜よよおはしまいおはしまいおわしまいててて、、、例れい例れいれいののの物もの物ものものはかなきはかなきはかなき御おほん御おほんおおん物もの物ものもの語がたり語がたりがたりせせせさせさせさせ給たま給たまたまひひいててて、、、「「「もしもしもしかしこかしこかしこにににゐゐいててて奉たてまつ奉たてまつたてまつりりりててて後のち後のちのち、、、まろまろまろががが外ほか外ほかほかにににももも行ゆ行ゆゆききき、、、法ほふ法ほふほう師し師ししにににもももなりなりなりなどなどなどしししててて見み見みみえええ奉たてまつ奉たてまつたてまつらららずずずばばば、、、本ほ本ほほ意い意いいなきなきなきやうやうようにににややや思おぼ思おぼおぼささされれれずずずるるる」」」ととと心こころ心こころこころ細ぼそ細ぼそぼそうううのたまはするのたまはするのたまわするににに、、、
  2. 2又また又またまたいかにいかにいかに思おぼ思おぼおぼしししなりなりなりぬるぬるぬるにににかかかあらあらあらむむん、、、又また又またまたさやうさやうさようなるなるなる事こと事ことことののの出い出いいででで來き來ききぬぬぬべきべきべきにににやややあらあらあらむむんととと思おも思おもおもふふうににに、、、いといといと哀あはれ哀あはれあわれにににてててうちうちうち泣な泣ななかかかれれれぬぬぬ。。。みぞれみぞれみぞれだちだちだちたるたるたる雨あめ雨あめあめのののどやかどやかどやかににに降ふ降ふふるるる程ほど程ほどほどににになりなりなり、、、聊いささか聊いささかいささかまどろままどろままどろまででで、、、哀あはれ哀あはれあわれなるなるなる事こと事ことことどもどもどもををを、、、このこのこの世よ世よよのみのみのみならならならずずずののの給たま給たまたまははわせせせけるけるける。。。
  3. 3思おも思おもおもひひいかけかけかけぬぬぬすぢすぢすじのののまじらひまじらひまじらいなりなりなりととと哀あはれ哀あはれあわれににに何事なにごと何事なにごとなにごともももきこしめしきこしめしきこしめしうとまうとまうとまぬぬぬ御み御みみ心こころ心こころこころざまざまざまなれなれなればばば、、、心こころ心こころこころののの程ほど程ほどほどももも御ご御ごご覽らん覽らんらんせせせられられられむむんとてとてとて思おも思おもおもひひい立た立たたつつつ。。。唯ただ唯ただただかくかくかくてててははは本ほ本ほほ意い意いいのののさまさまさまにににもももなりなりなりぬぬぬばかりばかりばかりぞぞぞかしかしかしととと思おも思おもおもふふう。。。
  4. 4いといといと悲かな悲かなかなしうしうしゅうててて物もの物ものものももも聞きこ聞きこきこえええでででつくづくつくづくつくづくととと歎なげ歎なげなげくくく氣色けしき氣色けしきけしきををを御ご御ごご覽らん覽らんらんじじじててて、、、「「「なほざりなほざりなおざりのののあらましあらましあらましごとごとごとににに夜よ夜よよもももすがらすがらすがら」」」とととののの給たま給たまたまははわせせせたれたれたればばば、、、「「「落お落おおつるつるつるなみだなみだなみだははは雨あめ雨あめあめとととこそこそこそふれふれふれ」」」。。。
  5. 5御み御みみ氣色けしき氣色けしきけしきののの例れい例れいれいよりよりよりもももうかびうかびうかびたるたるたる事こと事ことことどもどもどもをををののの給たま給たまたまははわせせせててて、、、明あ明ああけけけぬれぬれぬればばばおはしましおはしましおわしましぬぬぬ。。。何なに何なになにのののたのもしげたのもしげたのもしげなきなきなき事こと事ことことなれなれなれどどど、、、つれづれつれづれつれづれももも慰なぐさ慰なぐさなぐさめめめににに思おも思おもおもひひい立た立たたちちちつるつるつる事こと事ことことををを、、、さらばさらばさらばいかにいかにいかにせせせましましましなどなどなど思おも思おもおもひひいみだれみだれみだれててて聞きこ聞きこきこゆゆゆ。。。
  6. 6「「「うつゝうつゝうつつにににててて思おも思おもおもへへえばばばいはいはいわむむんかたかたかたもももなしなしなし今こ今ここ宵よひ宵よひよいのののことことことををを夢ゆめ夢ゆめゆめににになさなさなさばやばやばやととと思おも思おもおもひひい給たま給たまたまふれふれうれどどど、、、いかでいかでいかでかかかははは」」」とてとてとて、、、はしはしはしににに、、、「「「しかしかしかばかりばかりばかり契ちぎ契ちぎちぎりりりしししものものものををを定さだ定さださだめめめなきなきなきさささははは世よ世よよのののつねつねつねににに思おも思おもおもひひいなせなせなせとととややや。。。口くち口くちくち惜を惜をおしくしくしくもももややや」」」とととあれあれあればばば、、、
  7. 7御ご御ごご覽らん覽らんらんじじじててて、、、「「「これこれこれよりよりよりこそこそこそまづまづまずととと思おも思おもおもひひいつれつれつれどどど、、、うつゝうつゝうつつとととははは思おも思おもおもははわざらざらざらなむなむなん寢ね寢ねねぬるぬるぬる夜よ夜よよののの夢ゆめ夢ゆめゆめににに見み見みみえええつるつるつるうきうきうき事こと事ことことどもどもどもををを。。。思おも思おもおもひひいなさなさなさなむなむなん。。。あなあなあな心こころ心こころこころみしかみしかみしかややや。。。
  8. 8ほどほどほど知し知ししらららぬぬぬ命いのち命いのちいのちばかりばかりばかりぞぞぞさだめさだめさだめなきなきなきちぎりちぎりちぎりしししことことことははは住すみ住すみすみののの江え江ええのののまつまつまつ。。。あああががが君きみ君きみきみややや、、、更さら更さらさらにににあらましあらましあらまし事ごと事ごとごとににに聞きこ聞きこきこえええじじじ。。。人ひと人ひとひとやりやりやりならならならぬぬぬ物もの物ものものわびしわびしわびし」」」とととぞぞぞあるあるある。。。
  9. 9女をんな女をんなおんなはははそのそのその後のち後のちのちももも哀あはれ哀あはれあわれににに覺おぼ覺おぼおぼえええててて歎なげ歎なげなげきききのみのみのみせせせらるらるらる。。。とくとくとくとてとてとていそぎいそぎいそぎ立た立たたちちちたゝたゝたたましかましかましかばばばととと思おも思おもおもふふう晝ひる晝ひるひるつつつ方かた方かたかたあるあるある御おほん御おほんおおん文ふみ文ふみふみををを見み見みみれれればばば、、、「「「あなあなあなこひしこひしこいし今いま今いまいまももも見み見みみてててしがしがしが山やま山やまやま賤がつ賤がつがつのののかきかきかきほほほににに生お生おおふるふるうるやまとやまとやまとなでしこなでしこなでしこ」」」とととぞぞぞあるあるある。。。
  10. 10「「「あなあなあな物もの物ものもの苦ぐる苦ぐるぐるししし」」」とととうちうちうちいはいはいわれれれててて、、、御おほん御おほんおおん返かへ返かへかえししし、、、「「「戀こひ戀こひこいしくしくしくばばば來き來ききてててももも見み見みみよよよかしかしかし千ち千ちち早はや早はやはや振ぶる振ぶるぶる神かみ神かみかみのののいさむるいさむるいさむる道みち道みちみちならならならなくなくなくににに」」」ととと申まう申まうもうしししたれたれたればばばうちうちうちほゝゑまほゝゑまほほえませせせ給たま給たまたまひひいててて御ご御ごご覽らん覽らんらんずずず。。。
  11. 11このこのこの頃ごろ頃ごろごろははは御おほん御おほんおおん經きやう經きやうきょう習なら習ならならははわせせせ給たま給たまたまひひいけれけれければばば、、、「「「あふあふあうみちみちみちははは神かみ神かみかみのののいさめいさめいさめにににあらあらあらねねねどもどもども法のり法のりのりのののにににをれをれおればばばたゝたゝたたぬぬぬぞぞぞ」」」。。。
  12. 12御おほん御おほんおおんかへしかへしかえし、、、「「「我われ我われわれさらばさらばさらばすゝみすゝみすすみてててゆかゆかゆかむむん君きみ君きみきみはははたゞたゞただ法のり法のりのりのののむしろむしろむしろをををひろむひろむひろむばかりばかりばかりぞぞぞ」」」などなどなど聞きこ聞きこきこえええさせさせさせつゝつゝつつ過す過すすぐすぐすぐす。。。
  13. 13雪ゆき雪ゆきゆきいたういたういとう降ふ降ふふるるる日ひ日ひひ、、、ものものものゝゝの枝えだ枝えだえだににに降ふ降ふふりりりかゝりかゝりかかりたるたるたるにににつけつけつけててて、、、「「「雪ゆき雪ゆきゆき降ふ降ふふれれればばば木き木きき々ぎ々ぎぎののの木こ木ここののの葉は葉ははももも春はる春はるはるならならならでででおしおしおしなべなべなべ梅むめ梅むめうめののの花はな花はなはなぞぞぞ咲さ咲ささきききけるけるける」」」などなどなどののの給たま給たまたまははわせせせたるたるたるににに、、、驚おどろ驚おどろおどろきききながらながらながら、、、
  14. 14「「「梅むめ梅むめうめははははやはやはや咲さ咲ささきききにににけりけりけりとてとてとて折を折をおれれればばば散ち散ちちるるる花はな花はなはなとととぞぞぞ雪ゆき雪ゆきゆきののの降ふ降ふふるるるははは見み見みみえええけるけるける」」」。。。
  15. 15又また又またまたののの日ひ日ひひ、、、またまたまたつとめてつとめてつとめて、、、「「「冬ふゆ冬ふゆふゆののの夜よ夜よよはははこひしきこひしきこいしきことことことににに目め目めめもももあはあはあわででで衣ころも衣ころもころもかたしきかたしきかたしき明あ明ああけけけぞぞぞしししにににけるけるける」」」。。。
  16. 16御おほん御おほんおおん返かへ返かへかえ事りごと事りごとりごと、、、「「「いでいでいでややや、、、冬ふゆ冬ふゆふゆののの夜よ夜よよははは目め目めめさへさへさへ氷こほり氷こほりこおりにににとぢとぢとじられられられてててあかしあかしあかしがたきがたきがたきをををあかしあかしあかしけるけるけるかなかなかな」」」などなどなどいふいふいう程ほど程ほどほどににに、、、例れい例れいれいのののつれづれつれづれつれづれ慰なぐさ慰なぐさなぐさめめめててて暮くら暮くらくらすすすぞぞぞはかなきはかなきはかなきややや。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

その夜(宮は)いらっしゃって、いつものようにとりとめのないお話をなさって、「もしあちら(邸)にお連れ申し上げた後、わたしがほかへ行ったり、法師になったりして、お会いしなくなったら、不本意なことだとお思いになるでしょうか」と心細そうにおっしゃるので、

また、どのようにお考えになったのだろうか、また、そのようなこと(出家)が起こりそうなのだろうかと思うと、たいそう悲しくて、つい泣いてしまった。霙まじりの雨がのどかに降るころになって、少しもまどろまずに、しみじみとしたことの数々を、この世のことだけでなく(来世のことまで)おっしゃった。

思いもかけない筋の交わり(宮邸に仕えること)だけれど、しみじみと、何事もお聞きになって嫌いにならないお心の方なので、わたしの心のほどもお見せしようと思って決心したのだ。それなのに、このままでは、わたしの本意(出家)のとおりにもなってしまうばかりだと思う。

たいそう悲しくて何も申し上げずにつくづくと嘆いている様子をご覧になって、「いいかげんな将来の話をしたばかりに、一晩じゅう」とおっしゃったので、「落ちる涙は雨となって降ることです」。

ご様子がいつもより浮ついていると思われることをいろいろおっしゃって、夜が明けたのでお帰りになった。何の頼りになることでもないけれど、所在なさの慰めにと決心したことを、それならどうしたらよいのだろうなどと思い乱れて申し上げる。

「現実のことと思うと言いようもありません。今夜のことを夢にしてしまいたい、と思いますけれど、どうしてそうできましょう」と言って、端に、「あれほど約束したのに、定めないものとして、それではこの世の常のことと思えとおっしゃるのでしょうか。残念なことです」とあるので、

(宮は)ご覧になって、「こちらから先にと思っていたが、現実のこととは思わないでほしい。寝た夜の夢に見えたつらいことなどを。そう思いなしてほしい。ああ、気の短いことだ。

どれほどあるかわからない命だけが定めのないものなのです。約束したことは住の江の松のように変わらない。ああ、あなたよ、もう決して将来のことなど申すまい。自分のせいで、ものさびしいことだ」とある。

女はその後もしみじみと悲しく思われて、嘆いてばかりいる。早く(宮邸に参ろう)と急いで決心していたらよかったと思う昼ごろ、届いたお手紙を見ると、「ああ恋しい。今すぐにも見たいものだ。山がつの垣根に生えている大和撫子(のようなあなた)を」とある。

「ああ、なんとも苦しい(ほど恋しい)」とつい口に出て、お返事に、「恋しいなら来てご覧なさいな。(千早振る)神が禁じている道ではないのですから」と申し上げたところ、(宮は)ほほえみなさってご覧になる。

このころ(宮は)お経を習っていらっしゃったので、「逢う道は神の禁めではないけれど、法の筵(経典の講義の席)にいるので立てないのだよ」。

お返しに、「それならわたしのほうから進んで参りましょう。あなたはただ法の筵を広げて(講義をして)いればよいのです」などと申し上げながら過ごす。

雪がひどく降る日、木の枝に雪が降りかかっているのにつけて、「雪が降ると、木々の木の葉も、春でもないのに一様に梅の花が咲いたことだ」などとおっしゃったので、驚きながら、

「梅がもう咲いたのかと思って折ると散る花、雪の降るのはそう見えたのでした」。

翌日の、さらに翌朝、「冬の夜は恋しさに眠ることもできず、衣を片敷いて(ひとり寝をして)夜が明けてしまったことだ」。

お返事に、「さあ、冬の夜は、目までも(涙の)氷に閉ざされて、明かしにくい夜を明かしたことでした」などと言っているうちに、いつものように所在なさを慰めて暮らしているのも、はかないことだ。

意訳

宮邸入りを約束した直後、宮は「もしわたしが出家でもしたら」と口にする。真意は測りがたいが、宮の心の奥に、世を厭う気持ちがあったことがうかがえる。女は、宮のために出家の願いを捨てて宮邸に入ろうとしているのに、と涙が止まらない。霙まじりの雨の夜、宮が下の句「夜もすがら」と言えば、女は「落つる涙は雨とこそ降れ」と上の句を付ける。

女は「今夜のことは夢にしてしまいたい」と嘆き、宮は「夢で見たつらいことと思ってほしい。命は定めないが、約束は住の江の松のように変わらない」と誓い直す。軽い気持ちで言った「あらまし事」が、女をどれほど傷つけたかを悟った宮の後悔がにじむ。

それでも心の晴れない女に、宮は「山がつの垣根に咲く大和撫子」の歌を送る。女は「恋しいなら来て見よ」とやり返し、宮は思わずほほえむ。法華経の講義を口実にする宮と、それならわたしが行こうと言う女。重苦しい夜のあとの、ほっとするようなやりとりである。

雪の日の梅の見立て、冬の夜のひとり寝の歌と、年の暮れの贈答が続く。宮邸に移るまでの残りの日々を、二人は歌で埋めてゆく。

語釈・文法注

法のむしろ
仏法を講じる席。宮がこのころ法華経などの経典を学んでいたことを指す。

文法

「思されずる」
底本のまま。「思されむずる」(お思いになるでしょう)の意に解した。
「この世のみならずの給はせける」
この世のことだけでなく、来世までの契りをおっしゃった。
「唯かくては本意のさまにもなりぬばかりぞかし」
女の本意は出家。宮が出家するなら、自分も結局は出家することになるだろう、と思う。
「なほざりのあらましごとに夜もすがら」
宮が詠みかけた歌の上の句。女が下の句「落つるなみだは雨とこそふれ」を付けて一首にした。
「あな心みしかや」
「あな心短や」。ああ、気の短いことよ。すぐに悲観する女をたしなめる。
「人やりならぬ物わびし」
人のせいではなく、自分から招いたわびしさだ。不用意な言葉を後悔している。
「うちほゝゑませ給ひて」
「ほほゑむ」。宮がほほえまれて。

和歌

なほざりのあらましごとに夜もすがら

詠者
帥宮
状況
出家をほのめかして女を泣かせた夜、宮が詠みかけた上の句。

修辞

連歌
上の句を詠みかけ、女に下の句を付けさせる。

落つるなみだは雨とこそふれ

詠者
女
状況
宮の上の句に付けた下の句。

修辞

連歌
合わせて「なほざりのあらましごとに夜もすがら落つる涙は雨とこそ降れ」の一首になる。
見立て
涙を外に降る霙まじりの雨に重ねる。

うつゝにて思へばいはむかたもなし今宵のことを夢になさばや

詠者
女
状況
宮が帰ったあと、思い乱れて送った歌。

修辞

対比
「うつつ」と「夢」を対比する。

しかばかり契りしものを定めなきさは世のつねに思ひなせとや

詠者
女
状況
同じ文の端に書き添えた歌。

修辞

反語
世の常のことと思えというのか、と恨む。

うつゝとは思はざらなむ寢ぬる夜の夢に見えつるうき事どもを

詠者
帥宮
状況
女の「夢になさばや」への返事。

修辞

言葉の受け
女の「うつつ」「夢」を受けて、昨夜のことは夢と思ってほしいと言う。

ほど知らぬ命ばかりぞさだめなきちぎりしことは住の江のまつ

詠者
帥宮
状況
女の「定めなき」への返事。

修辞

掛詞
「まつ」に住の江の「松」と、変わらずに「待つ」を掛ける。
歌枕
住の江(住吉)の松は長寿と不変の象徴。

あなこひし今も見てしが山賤のかきほに生ふるやまとなでしこ

詠者
帥宮
状況
嘆き続ける女に、昼ごろ送った歌。

修辞

本歌
『古今和歌集』読人しらず「あな恋し今も見てしか山がつの垣ほに咲ける大和撫子」をほぼそのまま引く。
見立て
女を大和撫子に見立てる。

戀しくば來ても見よかし千早振神のいさむる道ならなくに

詠者
女
状況
宮の撫子の歌への返事。

修辞

本歌
『伊勢物語』第71段「恋しくは来ても見よかしちはやぶる神のいさむる道ならなくに」をそのまま借りる。
枕詞
「千早振」は「神」にかかる。

あふみちは神のいさめにあらねども法のむしろにをればたゝぬぞ

詠者
帥宮
状況
女の歌への返事。経典を学んでいるので行けないと言う。

修辞

言葉の受け
女の「神のいさむる道」を受けて「あふみち」と返す。
縁語
「むしろ」「をれ」「たゝぬ」は筵の縁語。

我さらばすゝみてゆかむ君はたゞ法のむしろをひろむばかりぞ

詠者
女
状況
宮の歌への返事。

修辞

掛詞
「ひろむ」に筵を「広げる」と仏法を「弘める」を掛ける。

雪降れば木々の木の葉も春ならでおしなべ梅の花ぞ咲きける

詠者
帥宮
状況
雪の日、枝に降りかかった雪につけて送った歌。

修辞

見立て
枝に積もった雪を梅の花に見立てる。

梅ははや咲きにけりとて折れば散る花とぞ雪の降るは見えける

詠者
女
状況
宮の雪の歌への返事。

修辞

見立て
宮の見立てを受けて、折ると散る雪の花を詠む。

冬の夜はこひしきことに目もあはで衣かたしき明けぞしにける

詠者
帥宮
状況
雪の日の翌々朝の歌。

修辞

慣用
「衣片敷き」は自分の衣だけを敷いて寝ること、ひとり寝をいう。

冬の夜は目さへ氷にとぢられてあかしがたきをあかしけるかな

詠者
女
状況
宮の冬の夜の歌への返事。

修辞

見立て
涙が凍って目が閉ざされると、眠れない夜を誇張する。
反復
「あかしがたき」「あかしける」と「明かす」を重ねる。

解説

宮が出家をほのめかす場面は、恋の高まりのさなかに、ふいに死や無常の影が差しこむ一節である。帥宮は実際にこの四年後、二十七歳で亡くなる。宮の言葉は、日記が書かれた時点からふり返ると、いっそう重く響く。

宮が上の句を詠み、女が下の句を付けるのは、第10章のまゆみの場面と同じ連歌の形である。二人の心が通い合うとき、歌もまた一つになる。

「恋しくは来ても見よかし」は『伊勢物語』第71段の歌をそのまま返したもので、宮の「あな恋し」が『古今和歌集』の歌をそのまま引いたのに、古典の歌で応じた機知である。

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出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(和泉式部日記) 板倉屋書房、明治36年(1903)、450–452頁(コマ237–238)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日