古典ライブラリー

和泉式部日記 第14章

宮邸に迎えられる

心細いことを言う宮と呉竹の歌を交わしたのち、宮は自ら迎えに行こうと決め、十二月十八日の月の夜に女を車に乗せて自邸に連れ帰る。女は北の方の目をはばかって奥の部屋に隠れ住むが、事はすぐに知れ、北の方は嘆く。宮は北の方を言いくるめて女を身近に仕えさせ、正月には院の拝礼に参る宮の晴れ姿を女房たちと見る。

  1. 1いかにいかにいかにおぼしめさるゝおぼしめさるゝおぼしめさるるにににかかかあらあらあらむむん。。。心こころ心こころこころ細ぼそ細ぼそぼそききき事こと事ことことどもどもどもをををののの給たま給たまたまははわせせせててて、、、「「「猶なほ猶なほなお世よ世よよののの中なか中なかなかにににありありありはつはつはつまじきまじきまじきにににややや」」」とととののの給たま給たまたまははわせせせたれたれたればばば、、、「「「くれくれくれ竹たけ竹たけたけのののよゝよゝよよのののふるふるふる事ごと事ごとごとおもほゆるおもほゆるおもおゆるむかしむかしむかしがたりがたりがたりははは我われ我われわれのみのみのみぞぞぞせせせむむん」」」
  2. 2ととと聞きこ聞きこきこえええたれたれたればばば、、、「「「吳くれ吳くれくれ竹たけ竹たけたけのののうきうきうきふしふしふし繁しげ繁しげしげききき世よ世よよののの中なか中なかなかにににあらあらあらじじじとととぞぞぞ思おも思おもおもふふうしばししばししばしばかりばかりばかりももも」」」などなどなどののの給たま給たまたまははわせせせててて、、、
  3. 3人ひと人ひとひと知し知ししれれれずずずすゑすゑすえさせさせさせ給たま給たまたまふふうべきべきべき所ところ所ところところなどなどなどももも、、、おきておきておきてならはならはならわぬぬぬ人ひと人ひとひとなれなれなればばばはしたなくはしたなくはしたなく思おも思おもおもふふうなめりなめりなめり、、、こゝこゝここにににももも唯ただ唯ただただ聞き聞きききききにくゝにくゝにくくぞぞぞいはいはいわむむん、、、唯ただ唯ただただ我われ我われわれいきいきいきてててゐゐいてててこここむむんととと思おぼ思おぼおぼしししててて、、、
  4. 4十二月じふにぐわつ十二月じふにぐわつじゅうにがつ十八日じふはちにち十八日じふはちにちじゅうはちにちののの月つき月つきつきのののよきよきよきほどほどほどににになりなりなりにににたるたるたる程ほど程ほどほどにににおはしましおはしましおわしましたりたりたり。。。例れい例れいれいののの「「「いでいでいでさせさせさせ給たま給たまたまへへえ」」」とととのたまはすれのたまはすれのたまわすればばば、、、「「「今こ今ここ宵よひ宵よひよいばかりばかりばかりにににこそこそこそあめあめあめ」」」とてとてとて一ひと一ひとひと人り人りり乗の乗ののれれればばば
  5. 5「「「人ひと人ひとひとゐゐいててて坐おは坐おはおわせせせかしかしかし。。。さりさりさりぬぬぬべくべくべくばばばあすあすあすあさてあさてあさてももものどやかのどやかのどやかににに物もの物ものもの語がたり語がたりがたり聞きこ聞きこきこえええむむん」」」とととあれあれあればばば、、、例れい例れいれいはははかくかくかくもももののの給たま給たまたまははわせせせぬぬぬををを、、、もしもしもしやややかくかくかくととと覺おぼ覺おぼおぼすすすべきべきべきにににやややとてとてとて、、、さりさりさりぬぬぬべきべきべき人ひと人ひとひと一ひと一ひとひと人り人りりゐゐいててていくいくいく。。。
  6. 6例れい例れいれいののの所ところ所ところところにににはははあらあらあらでででいといといとよくよくよくしししててて忍しの忍しのしのびびびててて人ひと人ひとひとどもどもども具ぐ具ぐぐしししててて居ゐ居ゐいよよよととと、、、せせせられられられたりたりたり。。。されされさればばばよよよととと思おも思おもおもひひいててて、、、何事なにごと何事なにごとなにごとかかかはははわざとわざとわざとしたてしたてしたてむむん、、、いかでいかでいかでかかかははは參まゐ參まゐまいらららましましまし、、、いついついつ參まゐ參まゐまいりりりしししぞぞぞとととなかなかなかなかなかなか人ひと人ひとひとももも思おも思おもおもへへえかしかしかしととと思おも思おもおもひひいててて、、、明あ明ああけけけぬれぬれぬればばば櫛くし櫛くしくしのののはこはこはこなどなどなどとりとりとりにににやるやるやる。。。
  7. 7宮みや宮みやみや參まゐ參まゐまいらららせせせ給たま給たまたまふふうとてとてとてしばししばししばしこなたこなたこなたののの格かう格かうこう子し子ししなどなどなどあげあげあげずずず。。。恐おそろ恐おそろおそろしきしきしき事こと事ことことにににはははあらあらあらねねねどどどむつかしむつかしむつかし。。。「「「今いま今いまいまかのかのかの北きた北きたきたののの方かた方かたかたににに渡わた渡わたわたししし參まゐ參まゐまいらせらせらせむむん。。。こゝこゝここにににははは近ちか近ちかちかけれけれければばばゆるしゆるしゆるしげげげなしなしなし」」」などなどなどののの給たま給たまたまははわすれすれすればばば、、、おろしおろしおろし籠こ籠ここめめめてててひそかひそかひそかににに聞き聞ききけけけばばば、、、
  8. 8「「「晝ひる晝ひるひるははは人ひと人ひとひと々びと々びとびと院ゐん院ゐんいんののの殿てん殿てんてん上じやう上じやうじょう人びと人びとびとなどなどなど參まゐ參まゐまいりりり集あつ集あつあつまりまりまりててて、、、いかにいかにいかにぞぞぞかくかくかくてててはははありありありぬぬぬべしべしべしややや。。。ちかちかちかおとりおとりおとりいかにいかにいかにせせせむむんととと思おも思おもおもふふうこそこそこそ苦くる苦くるくるしけれしけれしけれ」」」とととののの給たま給たまたまははわすれすれすればばば、、、「「「それそれそれをををなむなむなん思おも思おもおもひひい給たま給たまたまへへえるるる」」」ととと聞きこ聞きこきこゆるゆるゆる。。。
  9. 9笑わら笑わらわらははわせせせ給たま給たまたまひひいててて「「「まめやかまめやかまめやかにににはははよよよなどなどなどあなたあなたあなたにににあらあらあらむむんをりをりおりははは用よう用ようよう意い意いいししし給たま給たまたまへへえ。。。けしからけしからけしからぬぬぬものものものどもどもどもはははのぞきのぞきのぞきもももぞぞぞするするする。。。今いま今いまいましばししばししばしににになりなりなりなばなばなば、、、晝ひる晝ひるひるなどなどなどはははあのあのあののののあるあるあるかたかたかたにににおはしおはしおわしててておはせおはせおわせ。。。まろまろまろががが晝ひる晝ひるひるあるあるあるかたかたかたははは人ひと人ひとひとももも寄よ寄よよらららずずずぞぞぞ」」」などなどなどのたまはのたまはのたまわせせせててて、、、
  10. 10二三日ふつかみか二三日ふつかみかふつかみかありありありててて北きた北きたきたののの方かた方かたかたののの對たい對たいたいににに渡わた渡わたわたらららせせせ給たま給たまたまへへえりりりけれけれければばば、、、人ひと人ひとひと々びと々びとびと驚おどろ驚おどろおどろきききてててうへうへうえににに申まう申まうもうししし參まゐ參まゐまいらすれらすれらすればばば、、、「「「かゝるかゝるかかる事こと事ことことなくなくなくてててだにだにだに恠あや恠あやあやしかりしかりしかりつるつるつるををを、、、何なに何なになにののの高たか高たかたかききき人ひと人ひとひとにににもももあらあらあらずずず。。。かくかくかく」」」などなどなどののの給たま給たまたまははわせせせててて、、、
  11. 11わざとわざとわざと仰おほ仰おほおおせせせばばばこそこそこそ忍しの忍しのしのびびびてててゐゐいててておはしおはしおわしたらたらたらめめめとととおぼすおぼすおぼすににに、、、いといといと心こころ心こころこころづきづきづきなうなうのうててておはすれおはすれおわすればばば、、、例れい例れいれいよりよりよりももも物もの物ものものむつかしげむつかしげむつかしげににに思おも思おもおもひひいててておはすれおはすれおわすればばば、、、いとほしういとほしういとおしゅうおぼしおぼしおぼしててて、、、しばしばしばしばしばしばうちうちうちににに入い入いいらららせせせ給たま給たまたまひひいててて、、、
  12. 12「「「人ひと人ひとひとのののいふいふいう事こと事ことことももも聞き聞きききききにくしにくしにくし。。。人ひと人ひとひとののの氣色けしき氣色けしきけしきもももいとほしういとほしういとおしゅうてててこなたこなたこなたにににおはしますおはしますおわします。。。しかじかしかじかしかじかののの事こと事ことことあああなるなるなるはははなどなどなどかかかののの給たま給たまたまははわせせせぬぬぬ。。。制せい制せいせいししし聞きこ聞きこきこゆゆゆべきべきべきにににもももあらあらあらずずず。。。いといといとかうかうこう身み身みみののの人ひと人ひとひとげげげなくなくなく人ひと人ひとひとわらはれわらはれわらわれににに耻はづ耻はづはずかしかるかしかるかしかるべきべきべき事こと事ことこと」」」とととなくなくなくなくなくなく聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまふれふれうればばば
  13. 13「「「人ひと人ひとひとつかはつかはつかわむむんからからからににに御おほん御おほんおおんおぼえおぼえおぼえのののなかるなかるなかるべきべきべき事こと事ことことかかかははは。。。御み御みみ氣色けしき氣色けしきけしきににに隨したが隨したがしたがひひいてててなどなどなどもももにくげにくげにくげににに思おも思おもおもひひいたるたるたるがががむつかしきむつかしきむつかしきににに、、、かしらかしらかしらなどなどなどもももけづらけづらけずらせせせむむんとてとてとて呼よ呼よよびびびたるたるたるなりなりなり。。。こなたこなたこなたなどなどなどにににももも召め召めめしししつかはつかはつかわせせせたまへたまへたまえかしかしかし」」」とととあれあれあればばば、、、いといといと心こころ心こころこころづきづきづきなくなくなくあれあれあれどどど物もの物ものものももものたまはのたまはのたまわせせせずずず。。。
  14. 14かくかくかくててて日ひ日ひひごろごろごろふれふれふればばば、、、やうやうやうやうようよう侍さぶ侍さぶさぶらひらひらいつきつきつきててて、、、晝ひる晝ひるひるもももうへうへうえににに侍さぶら侍さぶらさぶらひひいみぐしみぐしみぐしなどなどなど參まゐ參まゐまいりりりよろづよろづよろずにににつかはつかはつかわせせせ給たま給たまたまふふう。。。更さら更さらさらにににおおおまへまへまえもももさげさげさげさせさせさせ給たま給たまたまははわぬぬぬ程ほど程ほどほどににに、、、うへうへうえなどなどなどももも御おほん御おほんおおん方かた方かたかたににに渡わた渡わたわたらららせせせ給たま給たまたまふふう事こと事ことこともももたまさかたまさかたまさかににになりなりなりもてもてもていくいくいく。。。思おぼ思おぼおぼししし歎なげ歎なげなげくくく事こと事ことこと限かぎり限かぎりかぎりなしなしなし。。。
  15. 15年とし年としとしかへりかへりかえりててて正しやう正しやうしょう月ぐわつ月ぐわつがつ一つい一ついつい日たち日たちたちににに院ゐん院ゐんいんのののににに、、、をのこをのこおのこばらばらばら數かず數かずかずをををつくしつくしつくしててて參まゐ參まゐまいりりり給たま給たまたまへへえるるるににに宮みや宮みやみやももも坐おは坐おはおわしますしますしますををを見み見みみれれればばば、、、いといといと若わか若わかわこううう美うつく美うつくうつくしげしげしげにににててて多おほ多おほおおくくくののの人ひと人ひとひとににに優すぐ優すぐすぐれれれ給たま給たまたまへへえりりり。。。これこれこれにににつけつけつけてててももも我わ我わわががが身み身みみ耻はづ耻はづはずしうしうしゅう覺おぼ覺おぼおぼゆるゆるゆるににに、、、
  16. 16上うへ上うへうえののの御お御おお前まへ前まへまえにににももも女房にようばう女房にようばうにょうぼうたちたちたち出い出いいででで居ゐ居ゐいててて物もの物ものもの見み見みみるるるににに、、、先まづ先まづまず其それ其それそれをををばばば見み見みみでででこのこのこの人ひと人ひとひとををを見み見みみむむむこのこのこの人ひと人ひとひとををを見み見みみむむむととと穴あな穴あなあなをををあけあけあけててて見み見みみ騒さわ騒さわさわくくくぞぞぞいといといとさまさまさま惡あ惡ああしきしきしきややや。。。
  17. 17暮く暮くくれれれぬれぬれぬればばば事こと事ことことはてはてはてゝゝて宮みや宮みやみやももも入い入いいらららせせせ給たま給たまたまひひいぬぬぬ。。。御おほん御おほんおおん送おく送おくおくりりりににに上かん上かんかん達だち達だちだちべべべ數かず數かずかずををを盡つく盡つくつくしししててて御おほん御おほんおおん遊あそび遊あそびあそびなどなどなどありありあり。。。いといといとをかしきをかしきおかしきにににもももつれづれつれづれつれづれなりなりなりししし故ふる故ふるふる鄕さと鄕さとさとまづまづまず思おも思おもおもひひい出い出いいでででらるらるらる。。。
  18. 18かくかくかくてててさぶらふさぶらふさぶらう程ほど程ほどほどににに、、、げすげすげすなどなどなどののの中なか中なかなかにににもももむつかしきむつかしきむつかしき事こと事ことことをををいふいふいうべかべかべかめるめるめるをををきこしめしきこしめしきこしめしててて、、、かくかくかく人ひと人ひとひとののの思おぼ思おぼおぼしししのたまふのたまふのたまうべきべきべきにににももも侍はべ侍はべはべらららずずず、、、うたてうたてうたてもももあるあるあるかなかなかなととと心こころ心こころこころづきづきづきなけれなけれなければばば、、、うちうちうちににに入い入いいらららせせせ給たま給たまたまふふう事こと事ことこと、、、いとゞいとゞいとどまどほまどほまどおなりなりなり。。。
  19. 19かゝるかゝるかかるもももいといといとかたはらかたはらかたわらいたういたういとう覺おぼ覺おぼおぼゆれゆれゆれどどど、、、いかゞいかゞいかがはははせせせむむん、、、唯ただ唯ただただともかくもともかくもともかくも知し知ししらららでででもてなさもてなさもてなさせせせおはしまさおはしまさおわしまさむむんまゝまゝままににに隨したが隨したがしたがひひいてててとてとてとてさぶらふさぶらふさぶらう。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

(宮は)どのようにお思いになっているのだろうか。心細いことをいろいろとおっしゃって、「やはりこの世に最後まで生きながらえることはできないのではないか」とおっしゃったので、「呉竹の節(よ)ごとに、昔のことが思われます。その昔語りは、わたしひとりがすることになるのでしょうか」

と申し上げると、「呉竹の節のように、つらいことの多い世の中に生きていまいと思う、しばらくの間も」などとおっしゃって、

(宮は)人知れず(女を)住まわせなさる所なども、(女は宮邸の)しきたりに慣れていない人なので、きまり悪く思っているのだろう、こちら(邸の人々)でも聞き苦しく言うだろう、いっそわたしが行って連れて来ようとお思いになって、

十二月十八日の、月のよいころになったときにいらっしゃった。いつものように「お出なさい」とおっしゃるので、「今夜だけのことでしょう」と思ってひとりで乗ると、

「人を連れていらっしゃい。できることなら明日、あさっても、ゆっくりお話ししたいから」とあるので、いつもはこんなこともおっしゃらないのに、もしやこのまま(邸に住まわせる)とお思いなのだろうかと思って、しかるべき侍女をひとり連れて行く。

いつもの所ではなく、たいそうよく整えて、こっそり人々を伴って住むように、とおしつらえになっていた。やはりそうだったと思って、何事をわざわざ大げさにしたてようか、どうして(改まって)参ったりしよう、いつ参ったのかとかえって人も思えばよい、と思って、夜が明けたので櫛の箱などを取りにやる。

宮が(北の方のもとへ)いらっしゃるというので、しばらくこちらの格子なども上げない。恐ろしいことではないけれど、気づまりである。(宮が)「そのうち北の方のほうへお移しいたしましょう。ここは(わたしの居所に)近いので、気が許せない」などとおっしゃるので、(格子を)下ろしこめてひそかに聞いていると、

「昼は人々や院の殿上人などが参り集まって(騒がしいが)、どうだね、こうしていられそうかね。(近くで見て)見劣りしたらどうしようと思うと、気が気でない」とおっしゃるので、「それをこそ(わたしも)思っております」と申し上げる。

(宮は)お笑いになって、「本当のところは、夜など、あちら(北の方の方)にいるときは用心なさい。不届きな者たちがのぞいたりするといけない。もうしばらくたったら、昼などはあの宣旨のいる所にいらっしゃい。わたしが昼いる所には人も寄りつかないよ」などとおっしゃって、

二、三日して、(宮が)北の方の対の屋にお渡りになったところ、人々が驚いて北の方に申し上げたので、(北の方は)「こんなことがなくてさえ(宮のふるまいは)おかしかったのに、(相手は)何の高貴な人でもない。こんなことを」などとおっしゃって、

わざわざ(宮が)仰せになったからこそ、こっそり連れていらっしゃったのだろうとお思いになると、たいそう不快でいらっしゃるので、いつもより何となく機嫌が悪そうに思っていらっしゃるので、(宮は)気の毒にお思いになって、たびたび(北の方の)部屋にお入りになると、

(北の方は)「人の言うことも聞き苦しいのです。(女房たちの)様子も気の毒で、こちら(の対)にいらっしゃるのです。しかじかのことがあるそうなのを、どうしておっしゃってくださらないのですか。お止め申し上げるわけでもありません。たいそうこのように(わたしの)身が人並みでなく、人に笑われて恥ずかしいことになりそうです」と泣く泣く申し上げなさるので、

(宮は)「人を召し使うからといって、(あなたへの)ご愛情がなくなるはずがありましょうか。(あなたの)ご機嫌に従って、中将なども(わたしを)憎らしげに思っているのが面倒なので、髪などもとかさせようと思って呼んだのです。こちらなどでも召し使いなさい」とあるので、たいそう不快だけれど、何もおっしゃらない。

こうして日がたつと、(女は)しだいにお仕えするのに慣れて、昼も宮のおそばに控えて、御髪のお世話などをして、(宮は)何事にもお使いになる。まったくおそばから下がらせなさらないので、北の方のもとへお渡りになることも、まれになってゆく。(北の方が)お嘆きになることは限りない。

年が改まって、正月一日に院への拝礼に、男たちが数を尽くして参りなさったが、宮もいらっしゃるのを見ると、たいそう若く美しく、多くの人よりすぐれていらっしゃる。それにつけても、わが身が恥ずかしく思われるが、

北の方の御前でも女房たちが出て見物していると、まず北の方ではなく、この人(女)を見よう、この人を見ようと、(障子に)穴をあけて見て騒ぐのは、まったくみっともないことだ。

日が暮れたので行事が終わって、宮も(邸に)お入りになった。お送りに上達部が大勢やって来て、管弦の遊びなどがある。たいそう趣深いにつけても、所在なかった(以前の)ふるさとの家がまず思い出される。

こうしてお仕えしているうちに、下仕えの者などの中にも不快なことを言っているらしいのを(宮は)お聞きになって、このように人(北の方)がお思いになったりおっしゃったりすべきことでもないのに、いやなことだと不快なので、(北の方の)部屋にお入りになることはいっそう間遠になった。

このようなことも(女には)たいそう心苦しく思われるけれど、どうしようもない、ただどうなりとも、(北の方のことは)知らないふりをして、(宮が)お扱いになるままに従っていようと思ってお仕えしている。

意訳

宮はなおも「この世に長くはいられまい」と心細いことを言う。女は呉竹の歌で「昔語りをするのはわたしだけになるのか」と応じ、宮も「つらい世にしばらくもいるまい」と返す。死を予感するような贈答の直後、宮は迎えの準備を周到に整え、自ら女を迎えに行く。

十二月十八日、月のよい夜。宮は「侍女を連れておいで、明日もあさってもゆっくり話そう」と言い、女はそれが宮邸入りの合図だと悟る。改まって参るのではなく、いつの間にか住みついたように見せようと、女は翌朝、櫛の箱を取りにやる。さりげない一文に、女の覚悟と周到さがのぞく。

宮は「見劣りしたら困る」と冗談を言いながら、北の方の側に用心せよと気づかう。二、三日後、宮が北の方の対に渡ると、事はすでに知れていた。北の方は「身分の低い女を、わざわざ」と嘆き、宮は「髪をとかさせるために呼んだ召使いだ」と言いくるめる。北の方と女の、直接顔を合わせない対立が始まる。

女は宮の身辺の世話をするようになり、宮は北の方のもとへ足を運ばなくなる。正月の院の拝礼で、女は宮の晴れ姿に見とれる一方、北の方の女房たちは障子に穴をあけて女をのぞき見する。華やかな宴の中で、女はかつての孤独な家を思い出す。宮の寵愛を受けるほど、周囲の視線は厳しくなる。

語釈・文法注

せし
宣旨(せんじ)。宮家に仕える上席の女房の呼び名。宮が昼に使う居所の近くにいる女房で、そこに隠れていればよいと言う。
中將
北の方に仕える女房の呼び名。北の方の気持ちを汲んで宮を快く思っていない。
はいらい
拝礼。正月一日、親王や公卿たちが院(冷泉院)の御所に参って新年の拝賀をする儀式。

文法

「人知れずすゑさせ給ふべき所なども…唯我いきてゐてこむ」
宮の心中の思い。女を迎える場所の用意はできたが、女は慣れないので気後れするだろう、いっそ自分が迎えに行こう、と考える。
「今宵ばかりにこそあめ」
「あめ」は「あらめ」の撥音便の無表記「あんめ」。今夜だけのことでしょう。
「いつ參りしぞとなかなか人も思へかし」
改まって参ったのではなく、いつの間にか住みついたと人に思われたい、という女の配慮。
「ちかおとり」
近劣り。近くで見るとかえって見劣りすること。宮の冗談。
「人つかはむからに御おぼえのなかるべき事かは」
宮の北の方への言い訳。召使いを置いたからといって、北の方への愛情が薄れるはずはない。
「先其をば見でこの人を見む」
北の方の女房たちが、拝礼の行列そっちのけで、新参の女のほうを見ようとする。

和歌

くれ竹のよゝのふる事おもほゆるむかしがたりは我のみぞせむ

詠者
女
状況
「この世に長くいられまい」と言う宮への返事。

修辞

掛詞
「よ」に竹の「節(よ)」と「世」、「ふる」に「古る」と竹の「経る」を掛ける。
枕詞
「くれ竹の」は「よ」「ふし」にかかる。

吳竹のうきふし繁き世の中にあらじとぞ思ふしばしばかりも

詠者
帥宮
状況
女の呉竹の歌への返事。

修辞

掛詞
「ふし」に竹の「節」と「(憂き)ふし(事柄)」を掛ける。
言葉の受け
女の「くれ竹」をそのまま受ける。

解説

女が宮邸に入るのは、長保五年(1003)十二月十八日。正式な妻としてではなく、宮の身辺に仕える「召人」としてである。宮は北の方に「髪をとかさせるために呼んだ」と説明するが、実際には女を片時もそばから離さず、北の方の対へ渡ることもまれになってゆく。

北の方は、藤原済時の娘。姉の娍子は東宮(のちの三条天皇)の女御で、名門の出である。北の方の嘆き、女房たちののぞき見、下仕えの者たちの陰口と、女を取り巻く宮邸の空気が生々しく描かれる。女はそれを「知らでもてなさせおはしまさむままに」受け流そうとする。

正月の院の拝礼で、宮の美しさに見とれながら「つれづれなりし故郷」を思い出す女の心は複雑である。かつては宮の訪れを待つだけの孤独な日々だったが、宮邸での暮らしは、愛されることと引きかえに、多くの人の視線の中に身を置くことでもあった。

関連

出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(和泉式部日記) 板倉屋書房、明治36年(1903)、452–454頁(コマ238–239)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日