和泉式部日記 第12章
霜枯れの風と初雪
宮の訪れが少ないまま、嵐の夕べに女が「霜枯れ」の歌を送ると、宮からも同じ思いの文が届いていた。物忌の宮に招かれて二日を共に過ごした女は、別れた翌日を「昨日ぞものは思はざりける」と惜しむ。風邪を患い、十一月の初雪を迎え、宮の漢詩の会や霜の朝をめぐって、歌のやりとりが続く。
- 1かくかくかくのみのみのみ絕絕たえええずずずののの給給たまははわすれすれすれどどど、、、おはしますおはしますおわします事事ことはははかたしかたしかたし。。。雨雨あめ風風かぜなどなどなどいたういたういとう降降ふりりり吹吹ふくくく日日ひしもしもしも音音おとづれづれづれさせさせさせ給給たまははわねねねばばば、、、人人ひとずくなずくなずくななるなるなる所所ところののの風風かぜののの音音おとおぼしおぼしおぼしやらやらやらぬぬぬなめりなめりなめりかしかしかしととと思思おもひひいててて、、、暮暮くれつかたつかたつかた聞聞きこゆゆゆ、、、
- 2「「「霜霜しも枯枯がれはははわびしかりわびしかりわびしかりけりけりけり秋秋あきかぜかぜかぜののの吹吹ふくくくにににははは荻荻おぎのののおとおとおとづれづれづれもももしきしきしき」」」
- 3ととと聞聞きこえええたれたれたればばば、、、かれかれかれよりよりよりののの給給たまははわせせせたりたりたりけるけるける御御おおん文文ふみををを見見みれれればばば、、、「「「いといといと恐恐おそろしげしげしげなるなるなる風風かぜをををいかゞいかゞいかがとととなむなむなんあはれあはれあわれににに、、、枯枯かれれれはてはてはてゝゝて我我われよりよりよりほかほかほかにににとふとふとう人人ひともももあらしあらしあらしののの風風かぜをををいかゞいかゞいかが聞聞きくくくらむらむらんととと思思おもひひいやりやりやり聞聞きこへへえるるるこそこそこそいみじけれいみじけれいみじけれ」」」とととぞぞぞあるあるある。。。
- 4ののの給給たまははわせせせけるけるけるををを見見みるるるもももをかしうをかしうおかしゅうててて所所ところ違違たがへへえたるたるたる御御おおん物物もの忌忌いみにににててて、、、忍忍しのびびびたるたるたる所所ところにににおはしますおはしますおわしますとてとてとて例例れいののの御御み車車くるまあれあれあればばば、、、今今いまははは唯唯ただともかくもともかくもともかくもののの給給たまははわむむんににに從從したがひひいてててととと思思おもへへえばばば參參まいりりりぬぬぬ。。。
- 5心心こころのどかのどかのどかににに御御おおん物物もの語語がたりおきおきおき臥臥ふししし聞聞きこえええてててつれづれつれづれつれづれもももまぎるれまぎるれまぎるればばばぞぞぞ、、、ましましましててて參參まいりりりなななまほしきまほしきまほしきににに、、、御御おおん物物もの忌忌いみ過過すぎぎぎぬれぬれぬればばば、、、例例れいののの處處ところににに歸歸かえりりりててて、、、今日今日きょうははは常常つねよりよりよりももも名名な殘殘ごり戀戀こいしうしうしゅう思思おもひひい出出いでででられられられわりなうわりなうわりのう覺覺おぼゆれゆれゆればばば聞聞きこゆゆゆ、、、
- 6「「「つれづれつれづれつれづれととと今日今日きょうかぞふれかぞふれかぞうればばば年年とし月月つきにににきのふきのふきのうぞぞぞものものものははは思思おもははわざりざりざりけるけるける」」」。。。
- 7御御ご覽覽らんじじじててて哀哀あわれとととおぼしおぼしおぼしててて「「「こゝこゝここにににももも、、、思思おもふふう事事ことなくなくなくてててすぐしすぐしすぐしゝゝしをとゝひをとゝひおとといををを昨日昨日きのうととと今日今日きょうににになすなすなすよしよしよしもももがながながなととと思思おもへへえどどどかひかひかいなくなくなくなむなむなん、、、猶猶なおおぼしおぼしおぼし立立たててて」」」とととあれあれあれどどど、、、いといといとつゝましくつゝましくつつましくてててするするするするするするともともとも思思おもひひいたゝたゝたたぬぬぬ程程ほどははは唯唯ただうちうちうちながめながめながめてててのみのみのみあかしあかしあかしくらすくらすくらす。。。
- 8いろいろいろいろいろいろ見見みえええししし木木こののの葉葉はももものこりのこりのこりなくなくなく、、、空空そらもももあかうあかうあこう晴晴はれれれたるたるたるににに、、、やうやうやうやうようよう入入いりりりはつるはつるはつる日日ひののの影影かげ心心こころぼそうぼそうぼそう見見みゆれゆれゆればばば、、、例例れいののの聞聞きこえええ侍侍はべりりり、、、「「「なぐさむるなぐさむるなぐさむる君君きみもももありありありとととははは思思おもへへえどもどもどもなほなほなお夕夕ゆうぐれぐれぐれはははものものものぞぞぞかなしきかなしきかなしき」」」
- 9とととあれあれあればばば、、、「「「ゆふゆふゆうぐれぐれぐれははは誰誰たれもももさささのみのみのみぞぞぞおもほゆるおもほゆるおもおゆる待待まちちちわぶわぶわぶ君君きみははは人人ひとにににまされまされまされりりりととと思思おもふふうこそこそこそあはれあはれあわれなれなれなれ。。。唯唯ただ今今いま參參まいりりり來來こばやばやばや」」」とととありありあり。。。
- 10又又またののの日日ひのののまたまたまたつとめてつとめてつとめて霜霜しものののいといといと白白しろきききににに、、、「「「さてさてさて今今いまのののまままはははいかゞいかゞいかが」」」とととあれあれあればばば、、、「「「起起おきききながらながらながらあかせあかせあかせるるる霜霜しものののあしたあしたあしたこそこそこそまされまされまされるるるものものものははは世世よににになかりなかりなかりけれけれけれ」」」などなどなど聞聞きこえええかはすかはすかわす。。。
- 11例例れいのののあはれあはれあわれなるなるなる事事ことなどなどなど書書かかかかせせせ給給たまひひいててて、、、「「「われわれわれひとりひとりひとり思思おもふふうはははおもふおもふおもうかひかひかいもももなしなしなしおなじおなじおなじこゝろこゝろこころににに君君きみもももあらあらあらなむなむなん」」」。。。御御おおん返返かえししし、、、「「「君君きみはははきみきみきみわれわれわれはははわれわれわれともともともへだてへだてへだてねねねばばばこゝろこゝろこころごゝろごゝろごころにににあらあらあらむむんものものものかかかははは」」」。。。
- 12かくかくかくててて女女おんな、、、にににややや、、、おどろおどろしうおどろおどろしうおどろおどろしゅうはははあらあらあらねねねどどど惱惱なやましうましうましゅうすれすれすればばば「「「いかにいかにいかにいかにいかにいかに」」」ととと問問とはははせせせ給給たまふふう。。。よろしうよろしうよろしゅうなりなりなりてててあるあるある程程ほどににに「「「いかにいかにいかにぞぞぞ」」」ととと問問とはははせせせ給給たまひひいたれたれたればばば、、、
- 13「「「少少すこしししよろしうよろしうよろしゅうなりなりなりにににててて侍侍はべれれればばば、、、しばししばししばしいきいきいきててて侍侍はべらららばやばやばやととと思思おもひひい給給たまへへえつるつるつるにににぞぞぞ罪罪つみ深深ぶこううう。。。さるさるさるははは、、、絕絕たえええしししころころころ絕絕たえええねねねととと思思おもひひいししし玉玉たまののの緒緒おををを君君きみににによりよりよりまたまたまた惜惜おしまままるゝるゝるるかなかなかな」」」
- 14とととあれあれあればばば、、、「「「いといといといといといとうれしきうれしきうれしき事事ことかなかなかな」」」とてとてとて、、、「「「玉玉たまののの緒緒おははは絕絕たえええむむんものものものかかかははは契契ちぎりりりてててししし長長ながきききこゝろこゝろこころにににむすびむすびむすびこめこめこめてててききき」」」。。。
- 15かくかくかくいふいふいう程程ほどににに年年としももも殘殘のこりりりなけれなけれなければばば、、、春春はる立立たつつつかたかたかたととと思思おもふふう十一月十一月じゅういちがつついたちついたちついたちごろごろごろ、、、雪雪ゆきのののうちうちうち降降ふるるるつとめてつとめてつとめて、、、「「「神神かみ代代よよりよりよりふりふりふりはてはてはてにににけるけるける雪雪ゆきなれなれなれどどど今日今日きょうははは殊殊ことにににもももめづらしきめづらしきめずらしきかなかなかな」」」。。。
- 16御御おおんかへしかへしかえし、、、「「「初初はつ雪雪ゆきととといはれいはれいわれののの冬冬ふゆももも見見みしししまゝまゝままにににめづらしげめづらしげめずらしげなきなきなき身身みのみのみのみ降降ふりりりつゝつゝつつ」」」などなどなどゝゝと、、、かゝるかゝるかかるよしよしよしなしなしなしごとごとごとにににあかしあかしあかしくらすくらすくらす。。。
- 17御御おおん文文ふみありありあり。。。「「「おぼつかなくおぼつかなくおぼつかなくなりなりなりにににけれけれければばば參參まいりりりてててととと思思おもひひいつるつるつるををを、、、人人ひと々々びと文文ふみ作作つくるるるめれめれめればばば」」」とととなむなむなんののの給給たまははわせせせたれたれたればばば、、、「「「いとまいとまいとまなみなみなみ君君きみきききまさまさまさずずずばばば我我われ行行ゆかかかむむんふみふみふみつくるつくるつくるらむらむらん道道みちををを知知しらららばやばやばや」」」。。。
- 18をかしうをかしうおかしゅうおぼしおぼしおぼしててて、、、「「「我我わががが宿宿やどにににたづねたづねたずねててて來來きませませませふみふみふみつくるつくるつくる道道みちももも敎敎おしへへへむむんあひあひあいももも見見みるるるべくべくべく」」」。。。
- 19又又また常常つねよりよりよりももも霜霜しものののいといといと白白しろきききににに「「「いかゞいかゞいかが見見みるるる」」」とととののの給給たまははわせせせたれたれたればばば、、、「「「さゆるさゆるさゆる夜夜よのののかずかずかずかくかくかく鴫鴫しぎははは我我われなれなれなれやややいくいくいく朝朝あさ霜霜しもをををおきおきおきててて見見みつつつらむらむらん」」」。。。
- 20そのそのそのころころころ雨雨あめなどなどなどのののはげしけれはげしけれはげしければばば、、、「「「雪雪ゆきもももふりふりふり雨雨あめももも降降ふりりりぬるぬるぬるこのこのこのごろごろごろををを朝朝あさしもしもしもとととのみのみのみ起起おきききゐゐいてててははは見見みるるる」」」。。。
現代語訳
このようにいつも絶えずお便りをくださるけれど、いらっしゃることはめったにない。雨や風などがひどく降ったり吹いたりする日に限ってお便りもくださらないので、人の少ない家の風の音を思いやってくださらないのだろうと思って、夕暮れに申し上げる、
「霜枯れのころはわびしいことです。秋風が吹くときには、荻の葉音(あなたの訪れ)も絶えずありましたのに」
と申し上げたところ、あちらからくださっていたお手紙を見ると、「たいそう恐ろしげな風をどうしているかと、しみじみと(思い)、すっかり枯れ果てて、わたしのほかに訪れる人もないのに、嵐の風をどう聞いているだろうと思いやり申し上げるのも、たまらない」とある。
(そう)おっしゃったのを見るのも趣深くて、(宮が)方角を変えての御物忌で、人目を忍んだ所にいらっしゃるというので、いつものお車が(迎えに)来たので、今はただどうなりともおっしゃることに従おうと思うので、参った。
ゆっくりとお話をし、起きたり寝たりしてお相手をして、所在なさもまぎれるので、いっそう(宮邸に)参りたいと思うが、御物忌が過ぎたので、いつもの家に帰って、今日はいつもより名残が恋しく思い出されて、たまらなく思われるので申し上げる、
「所在なく今日(までの日々を)数えてみると、長い年月の中で、昨日だけは物思いをしなかったのですね」。
(宮は)ご覧になってしみじみとお思いになって、「わたしも、物思いなく過ごしたおとといを、昨日と今日にしてしまう(もう一度くり返す)手立てがあればと思うけれど、かいがない。やはり(邸へ来る)決心をしなさい」とあるけれど、たいそう気がねで、すらすらとは決心がつかないあいだは、ただ物思いにふけって明かし暮らしている。
いろいろに色づいて見えた木の葉も残りなく散り、空も明るく晴れているところに、しだいに沈んでゆく日の光が心細く見えるので、いつものように申し上げました、「慰めてくださるあなたもいるとは思うけれど、やはり夕暮れはもの悲しいことです」
とあるので、「夕暮れは誰もそのようにばかり思われるのだ。(でも)待ちわびているあなたは、人にまさっていると思うと、いとおしい。今すぐ参りたいものだ」とある。
翌日の、さらに翌朝、霜がたいそう白いので、「さて、今朝はどうですか」とあるので、「起きたまま夜を明かした霜の朝ほど、(つらさの)まさるものは世にありません」などと(歌を)交わし合う。
いつものようにしみじみとしたことなどをお書きになって、「わたしひとりが思っているのは思うかいもない。同じ心であなたもいてほしい」。お返しに、「あなたはあなた、わたしはわたしと隔てていないのだから、別々の心であるはずがありましょうか」。
こうして女は、風邪なのか、大げさではないけれど具合が悪いので、(宮は)「どうですか、どうですか」とお尋ねになる。少しよくなってきたころに「どうですか」とお尋ねになったので、
「少しよくなってまいりましたので、しばらく生きていたいものと思いましたのは罪深いことで。とはいえ、絶えてしまったころ(亡き宮を失ったころ)は絶えてしまえと思った命を、あなたのおかげでまた惜しく思うことです」
とあるので、「とてもとてもうれしいことだ」と言って、「玉の緒(命)は絶えるものか。約束した長い心に結びこめてしまったのだから」。
こうしているうちに年も残り少なくなったので、春が近いと思う十一月の初めごろ、雪の降った翌朝、「神代から降り古した雪だけれど、今日はとりわけ珍しいことだ」。
お返しに、「初雪といって、どの冬も見てきたままで、珍しくもないわが身ばかりが古びてゆきます」などと、このようなとりとめもないことで明かし暮らしている。
お手紙がある。「すっかり間があいてしまったので、参ろうと思っていたが、人々が漢詩を作っているようなので」とおっしゃったので、「お暇がなくてあなたがいらっしゃらないなら、わたしが行きましょう。詩文を作るという道(文の道)を知りたいものです」。
(宮は)趣深くお思いになって、「わたしの宿に訪ねていらっしゃい。詩文を作る道も教えよう。逢うこともできるように」。
また、いつもより霜がたいそう白いので、「どう見ていますか」とおっしゃったので、「冴えた夜に羽をしきりにかく鴫はわたしなのでしょうか。いく朝、霜を置いて(起きて)見たことでしょう」。
そのころ雨などが激しかったので、「雪も降り、雨も降ったこのごろを、朝の霜とばかり思って、起きていて見ています」。
意訳
嵐の夕べ、女は「霜枯れの今は荻の便りもない」と宮を恨む歌を送るが、宮からはちょうど「わたしのほかに訪れる人もないあなたは、嵐をどう聞いているか」という文が届いていた。行き違いではなく、同じ時に同じことを思っていたのである。
物忌の宮に招かれて二日を共に過ごした女は、帰ったあと「長い年月の中で、昨日だけは物思いをしなかった」と詠む。宮も「おとといを昨日と今日にしたい」と応じる。満ち足りた時間の短さが、かえって恋しさを募らせる。
夕暮れのもの悲しさ、霜の朝、「君は君、我は我と隔てないのだから、心は一つ」という贈答と、二人の心はいっそう寄り添ってゆく。女が風邪で寝込むと、宮は何度も見舞う。女は「亡き宮のころは絶えよと思った命を、あなたのおかげでまた惜しむ」と詠み、喪失の悲しみから立ち直りつつあることを宮に伝える。
十一月、初雪の歌、詩会の歌、鴫の歌と、冬の景物を織り込んだ軽やかな贈答が続く。宮邸へ移る日が近づいていることが、そのあたたかな調子からもうかがえる。
語釈・文法注
- 風
- 風邪。当時は「風病(ふうびょう)」と呼ばれ、風に当たってかかる病と考えられた。
文法
- 「荻のおとづれもしき」
- 底本のまま。「しき」は「頻(し)き」で、しきりにあった、の意に解した。通行本文は「荻のおとづれもせぬ」。
- 「思ひやり聞へるこそ」
- 底本は「聞へ」の脇に異本の字を小字で注記する。本文は底本の大字に従った。
- 「所違へたる御物忌」
- 方違えを兼ねた物忌。宮は自邸を離れた所で物忌をしていて、そこへ女を呼んだ。
- 「待ちわぶ君は人にまされり」
- 底本は「は」「り」の脇に異本の字を小字で注記する。本文は底本の大字に従った。
- 「春立つかたと思ふ十一月」
- 十一月は冬至の月で、陽気が生じ始めるとされたので、春に向かう月と言った。
- 「初雪といはれの冬も」
- 底本のまま。通行本文は「初雪といづれの冬も」。
- 「人々文作るめれば」
- 宮の邸で漢詩を作る会が開かれている。宮は漢詩文にも通じていた。
和歌
霜枯はわびしかりけり秋かぜの吹くには荻のおとづれもしき
- 詠者
- 女
- 状況
- 嵐の夕べ、訪れの少ない宮を恨んで送った歌。
修辞
- 掛詞
- 「おとづれ」に荻の葉の「音」と宮の「訪れ」を掛ける。
- 対比
- 秋の荻風のころと、霜枯れの今を比べる。
枯れはてゝ我よりほかにとふ人もあらしの風をいかゞ聞くらむ
- 詠者
- 帥宮
- 状況
- 女の歌と同じころ、宮から届いていた文の歌。
修辞
- 掛詞
- 「あらし」に「嵐」と「(訪ふ人も)あらじ」を掛ける。
つれづれと今日かぞふれば年月にきのふぞものは思はざりける
- 詠者
- 女
- 状況
- 物忌の宮のもとで二日を過ごし、帰った翌日の歌。
修辞
- 対比
- 長い「年月」と、ただ一日の「きのふ」を対比する。
思ふ事なくてすぐしゝをとゝひを昨日と今日になすよしもがな
- 詠者
- 帥宮
- 状況
- 女の歌への返事。
修辞
- 言葉の受け
- 女の「きのふ」を受けて、「をととひ」「昨日」「今日」と日をたどる。
なぐさむる君もありとは思へどもなほ夕ぐれはものぞかなしき
- 詠者
- 女
- 状況
- 晴れた夕暮れ、沈む日を見て送った歌。
修辞
- 逆接
- 慰める人がいても夕暮れは悲しいと、恋の心細さを言う。
ゆふぐれは誰もさのみぞおもほゆる待ちわぶ君は人にまされり
- 詠者
- 帥宮
- 状況
- 女の夕暮れの歌への返事。
修辞
- 言葉の受け
- 女の「夕ぐれ」を受け、待つあなたの悲しみはひとしおだと思いやる。
起きながらあかせる霜のあしたこそまされるものは世になかりけれ
- 詠者
- 女
- 状況
- 霜の白い朝、宮の問いに答えた歌。
修辞
- 掛詞
- 「起き」に霜が「置き」を響かせる。
われひとり思ふはおもふかひもなしおなじこゝろに君もあらなむ
- 詠者
- 帥宮
- 状況
- しみじみとした文に添えた歌。
修辞
- 願望
- 「あらなむ」で、同じ心であってほしいと願う。
君はきみわれはわれともへだてねばこゝろごゝろにあらむものかは
- 詠者
- 女
- 状況
- 宮の歌への返事。
修辞
- 反語
- 「ものかは」で、別々の心であるはずがない、と言う。
- 対句
- 「君は君」「我は我」を重ねる。
絕えしころ絕えねと思ひし玉の緒を君によりまた惜まるゝかな
- 詠者
- 女
- 状況
- 風邪が治りかけたころ、見舞いの宮に答えた歌。
修辞
- 縁語
- 「絶え」「玉の緒」「惜しまる」は命の縁語。玉の緒は命のこと。
- 回想
- 「絶えしころ」は為尊親王を失ったころを指す。
玉の緒は絕えむものかは契りてし長きこゝろにむすびこめてき
- 詠者
- 帥宮
- 状況
- 女の歌への返事。
修辞
- 縁語
- 「玉の緒」「絶え」「長き」「結び」は緒(ひも)の縁語。
神代よりふりはてにける雪なれど今日は殊にもめづらしきかな
- 詠者
- 帥宮
- 状況
- 十一月初め、雪の朝に送った歌。
修辞
- 掛詞
- 「ふり」に「降り」と「古り」を掛ける。
初雪といはれの冬も見しまゝにめづらしげなき身のみ降りつゝ
- 詠者
- 女
- 状況
- 宮の雪の歌への返事。
修辞
- 掛詞
- 「降り」に「古り」を掛け、年を重ねてゆく身を嘆く。
いとまなみ君きまさずば我行かむふみつくるらむ道を知らばや
- 詠者
- 女
- 状況
- 詩会のために来られないという宮への返事。
修辞
- 掛詞
- 「ふみ」に「文(詩文)」と「踏み」を掛け、「道」の縁語とする。
我が宿にたづねて來ませふみつくる道も敎へむあひも見るべく
- 詠者
- 帥宮
- 状況
- 女の歌への返事。
修辞
- 言葉の受け
- 女の「ふみつくる道」を受けて、教えようと応じ、邸へ来るよう誘う。
さゆる夜のかずかく鴫は我なれやいく朝霜をおきて見つらむ
- 詠者
- 女
- 状況
- 霜の白い朝、宮の問いに答えた歌。
修辞
- 本歌
- 『古今和歌集』「暁の鴫の羽がき百羽がき君が来ぬ夜は我ぞ数かく」をふまえ、眠れぬ夜を数える身を鴫に重ねる。
- 掛詞
- 「おき」に霜が「置き」と人が「起き」を掛ける。
雪もふり雨も降りぬるこのごろを朝しもとのみ起きゐては見る
- 詠者
- 女
- 状況
- 雨の激しいころに送った歌。
修辞
- 掛詞
- 「朝しも」に「朝霜」と「朝(なのに)しも」を響かせ、霜の歌の続きとして詠む。
解説
嵐の夕べ、女の恨みの歌と宮の見舞いの文が同時に交わされていたという場面は、第9章の霜の朝と同じく、離れていても二人の心が同じ時に動いていたことを描く。こうした一致が重なるほど、女は宮邸へ移る決心を固めてゆく。
「昨日ぞものは思はざりける」は、一日の幸福を長い年月の物思いと対比して、その短さを惜しむ名歌である。宮の「をとといを昨日と今日に」という返歌も軽妙で、二人の機知がよく響き合っている。
病を見舞われて「絶えねと思ひし玉の緒を、君によりまた惜しまるるかな」と詠む歌は、亡き為尊親王の死以来の絶望から、宮への恋によって生きる気持ちを取り戻したことを語る、日記の中でも重い意味をもつ一首である。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(和泉式部日記) 板倉屋書房、明治36年(1903)、447–450頁(コマ235–237)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日