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和泉式部日記 第12章

霜枯れの風と初雪

宮の訪れが少ないまま、嵐の夕べに女が「霜枯れ」の歌を送ると、宮からも同じ思いの文が届いていた。物忌の宮に招かれて二日を共に過ごした女は、別れた翌日を「昨日ぞものは思はざりける」と惜しむ。風邪を患い、十一月の初雪を迎え、宮の漢詩の会や霜の朝をめぐって、歌のやりとりが続く。

  1. 1かくかくかくのみのみのみ絕た絕たたえええずずずののの給たま給たまたまははわすれすれすれどどど、、、おはしますおはしますおわします事こと事ことことはははかたしかたしかたし。。。雨あめ雨あめあめ風かぜ風かぜかぜなどなどなどいたういたういとう降ふ降ふふりりり吹ふ吹ふふくくく日ひ日ひひしもしもしも音おと音おとおとづれづれづれさせさせさせ給たま給たまたまははわねねねばばば、、、人ひと人ひとひとずくなずくなずくななるなるなる所ところ所ところところののの風かぜ風かぜかぜののの音おと音おとおとおぼしおぼしおぼしやらやらやらぬぬぬなめりなめりなめりかしかしかしととと思おも思おもおもひひいててて、、、暮くれ暮くれくれつかたつかたつかた聞きこ聞きこきこゆゆゆ、、、
  2. 2「「「霜しも霜しもしも枯がれ枯がれがれはははわびしかりわびしかりわびしかりけりけりけり秋あき秋あきあきかぜかぜかぜののの吹ふ吹ふふくくくにににははは荻をぎ荻をぎおぎのののおとおとおとづれづれづれもももしきしきしき」」」
  3. 3ととと聞きこ聞きこきこえええたれたれたればばば、、、かれかれかれよりよりよりののの給たま給たまたまははわせせせたりたりたりけるけるける御おほん御おほんおおん文ふみ文ふみふみををを見み見みみれれればばば、、、「「「いといといと恐おそろ恐おそろおそろしげしげしげなるなるなる風かぜ風かぜかぜをををいかゞいかゞいかがとととなむなむなんあはれあはれあわれににに、、、枯か枯かかれれれはてはてはてゝゝて我われ我われわれよりよりよりほかほかほかにににとふとふとう人ひと人ひとひともももあらしあらしあらしののの風かぜ風かぜかぜをををいかゞいかゞいかが聞き聞ききくくくらむらむらんととと思おも思おもおもひひいやりやりやり聞きこ聞きこきこへへえるるるこそこそこそいみじけれいみじけれいみじけれ」」」とととぞぞぞあるあるある。。。
  4. 4ののの給たま給たまたまははわせせせけるけるけるををを見み見みみるるるもももをかしうをかしうおかしゅうててて所ところ所ところところ違たが違たがたがへへえたるたるたる御おほん御おほんおおん物もの物ものもの忌いみ忌いみいみにににててて、、、忍しの忍しのしのびびびたるたるたる所ところ所ところところにににおはしますおはしますおわしますとてとてとて例れい例れいれいののの御み御みみ車くるま車くるまくるまあれあれあればばば、、、今いま今いまいまははは唯ただ唯ただただともかくもともかくもともかくもののの給たま給たまたまははわむむんににに從したが從したがしたがひひいてててととと思おも思おもおもへへえばばば參まゐ參まゐまいりりりぬぬぬ。。。
  5. 5心こころ心こころこころのどかのどかのどかににに御おほん御おほんおおん物もの物ものもの語がたり語がたりがたりおきおきおき臥ふ臥ふふししし聞きこ聞きこきこえええてててつれづれつれづれつれづれもももまぎるれまぎるれまぎるればばばぞぞぞ、、、ましましましててて參まゐ參まゐまいりりりなななまほしきまほしきまほしきににに、、、御おほん御おほんおおん物もの物ものもの忌いみ忌いみいみ過す過すすぎぎぎぬれぬれぬればばば、、、例れい例れいれいののの處ところ處ところところににに歸かへ歸かへかえりりりててて、、、今日けふ今日けふきょうははは常つね常つねつねよりよりよりももも名な名なな殘ごり殘ごりごり戀こひ戀こひこいしうしうしゅう思おも思おもおもひひい出い出いいでででられられられわりなうわりなうわりのう覺おぼ覺おぼおぼゆれゆれゆればばば聞きこ聞きこきこゆゆゆ、、、
  6. 6「「「つれづれつれづれつれづれととと今日けふ今日けふきょうかぞふれかぞふれかぞうればばば年とし年としとし月つき月つきつきにににきのふきのふきのうぞぞぞものものものははは思おも思おもおもははわざりざりざりけるけるける」」」。。。
  7. 7御ご御ごご覽らん覽らんらんじじじててて哀あはれ哀あはれあわれとととおぼしおぼしおぼしててて「「「こゝこゝここにににももも、、、思おも思おもおもふふう事こと事ことことなくなくなくてててすぐしすぐしすぐしゝゝしをとゝひをとゝひおとといををを昨日きのふ昨日きのふきのうととと今日けふ今日けふきょうににになすなすなすよしよしよしもももがながながなととと思おも思おもおもへへえどどどかひかひかいなくなくなくなむなむなん、、、猶なほ猶なほなおおぼしおぼしおぼし立た立たたててて」」」とととあれあれあれどどど、、、いといといとつゝましくつゝましくつつましくてててするするするするするするともともとも思おも思おもおもひひいたゝたゝたたぬぬぬ程ほど程ほどほどははは唯ただ唯ただただうちうちうちながめながめながめてててのみのみのみあかしあかしあかしくらすくらすくらす。。。
  8. 8いろいろいろいろいろいろ見み見みみえええししし木こ木ここののの葉は葉ははももものこりのこりのこりなくなくなく、、、空そら空そらそらもももあかうあかうあこう晴は晴ははれれれたるたるたるににに、、、やうやうやうやうようよう入い入いいりりりはつるはつるはつる日ひ日ひひののの影かげ影かげかげ心こころ心こころこころぼそうぼそうぼそう見み見みみゆれゆれゆればばば、、、例れい例れいれいののの聞きこ聞きこきこえええ侍はべ侍はべはべりりり、、、「「「なぐさむるなぐさむるなぐさむる君きみ君きみきみもももありありありとととははは思おも思おもおもへへえどもどもどもなほなほなお夕ゆふ夕ゆふゆうぐれぐれぐれはははものものものぞぞぞかなしきかなしきかなしき」」」
  9. 9とととあれあれあればばば、、、「「「ゆふゆふゆうぐれぐれぐれははは誰たれ誰たれたれもももさささのみのみのみぞぞぞおもほゆるおもほゆるおもおゆる待ま待ままちちちわぶわぶわぶ君きみ君きみきみははは人ひと人ひとひとにににまされまされまされりりりととと思おも思おもおもふふうこそこそこそあはれあはれあわれなれなれなれ。。。唯ただ唯ただただ今いま今いまいま參まゐ參まゐまいりりり來こ來ここばやばやばや」」」とととありありあり。。。
  10. 10又また又またまたののの日ひ日ひひのののまたまたまたつとめてつとめてつとめて霜しも霜しもしものののいといといと白しろ白しろしろきききににに、、、「「「さてさてさて今いま今いまいまのののまままはははいかゞいかゞいかが」」」とととあれあれあればばば、、、「「「起お起おおきききながらながらながらあかせあかせあかせるるる霜しも霜しもしものののあしたあしたあしたこそこそこそまされまされまされるるるものものものははは世よ世よよににになかりなかりなかりけれけれけれ」」」などなどなど聞きこ聞きこきこえええかはすかはすかわす。。。
  11. 11例れい例れいれいのののあはれあはれあわれなるなるなる事こと事ことことなどなどなど書か書かかかかかせせせ給たま給たまたまひひいててて、、、「「「われわれわれひとりひとりひとり思おも思おもおもふふうはははおもふおもふおもうかひかひかいもももなしなしなしおなじおなじおなじこゝろこゝろこころににに君きみ君きみきみもももあらあらあらなむなむなん」」」。。。御おほん御おほんおおん返かへ返かへかえししし、、、「「「君きみ君きみきみはははきみきみきみわれわれわれはははわれわれわれともともともへだてへだてへだてねねねばばばこゝろこゝろこころごゝろごゝろごころにににあらあらあらむむんものものものかかかははは」」」。。。
  12. 12かくかくかくててて女をんな女をんなおんな、、、にににややや、、、おどろおどろしうおどろおどろしうおどろおどろしゅうはははあらあらあらねねねどどど惱なや惱なやなやましうましうましゅうすれすれすればばば「「「いかにいかにいかにいかにいかにいかに」」」ととと問と問ととはははせせせ給たま給たまたまふふう。。。よろしうよろしうよろしゅうなりなりなりてててあるあるある程ほど程ほどほどににに「「「いかにいかにいかにぞぞぞ」」」ととと問と問ととはははせせせ給たま給たまたまひひいたれたれたればばば、、、
  13. 13「「「少すこ少すこすこしししよろしうよろしうよろしゅうなりなりなりにににててて侍はべ侍はべはべれれればばば、、、しばししばししばしいきいきいきててて侍はべ侍はべはべらららばやばやばやととと思おも思おもおもひひい給たま給たまたまへへえつるつるつるにににぞぞぞ罪つみ罪つみつみ深ぶか深ぶかぶこううう。。。さるさるさるははは、、、絕た絕たたえええしししころころころ絕た絕たたえええねねねととと思おも思おもおもひひいししし玉たま玉たまたまののの緒を緒をおををを君きみ君きみきみににによりよりよりまたまたまた惜をし惜をしおしまままるゝるゝるるかなかなかな」」」
  14. 14とととあれあれあればばば、、、「「「いといといといといといとうれしきうれしきうれしき事こと事ことことかなかなかな」」」とてとてとて、、、「「「玉たま玉たまたまののの緒を緒をおははは絕た絕たたえええむむんものものものかかかははは契ちぎ契ちぎちぎりりりてててししし長なが長ながながきききこゝろこゝろこころにににむすびむすびむすびこめこめこめてててききき」」」。。。
  15. 15かくかくかくいふいふいう程ほど程ほどほどににに年とし年としとしももも殘のこ殘のこのこりりりなけれなけれなければばば、、、春はる春はるはる立た立たたつつつかたかたかたととと思おも思おもおもふふう十一月じふいちぐわつ十一月じふいちぐわつじゅういちがつついたちついたちついたちごろごろごろ、、、雪ゆき雪ゆきゆきのののうちうちうち降ふ降ふふるるるつとめてつとめてつとめて、、、「「「神かみ神かみかみ代よ代よよよりよりよりふりふりふりはてはてはてにににけるけるける雪ゆき雪ゆきゆきなれなれなれどどど今日けふ今日けふきょうははは殊こと殊ことことにににもももめづらしきめづらしきめずらしきかなかなかな」」」。。。
  16. 16御おほん御おほんおおんかへしかへしかえし、、、「「「初はつ初はつはつ雪ゆき雪ゆきゆきととといはれいはれいわれののの冬ふゆ冬ふゆふゆももも見み見みみしししまゝまゝままにににめづらしげめづらしげめずらしげなきなきなき身み身みみのみのみのみ降ふ降ふふりりりつゝつゝつつ」」」などなどなどゝゝと、、、かゝるかゝるかかるよしよしよしなしなしなしごとごとごとにににあかしあかしあかしくらすくらすくらす。。。
  17. 17御おほん御おほんおおん文ふみ文ふみふみありありあり。。。「「「おぼつかなくおぼつかなくおぼつかなくなりなりなりにににけれけれければばば參まゐ參まゐまいりりりてててととと思おも思おもおもひひいつるつるつるををを、、、人ひと人ひとひと々びと々びとびと文ふみ文ふみふみ作つく作つくつくるるるめれめれめればばば」」」とととなむなむなんののの給たま給たまたまははわせせせたれたれたればばば、、、「「「いとまいとまいとまなみなみなみ君きみ君きみきみきききまさまさまさずずずばばば我われ我われわれ行ゆ行ゆゆかかかむむんふみふみふみつくるつくるつくるらむらむらん道みち道みちみちををを知し知ししらららばやばやばや」」」。。。
  18. 18をかしうをかしうおかしゅうおぼしおぼしおぼしててて、、、「「「我わ我わわががが宿やど宿やどやどにににたづねたづねたずねててて來き來ききませませませふみふみふみつくるつくるつくる道みち道みちみちももも敎をし敎をしおしへへへむむんあひあひあいももも見み見みみるるるべくべくべく」」」。。。
  19. 19又また又またまた常つね常つねつねよりよりよりももも霜しも霜しもしものののいといといと白しろ白しろしろきききににに「「「いかゞいかゞいかが見み見みみるるる」」」とととののの給たま給たまたまははわせせせたれたれたればばば、、、「「「さゆるさゆるさゆる夜よ夜よよのののかずかずかずかくかくかく鴫しぎ鴫しぎしぎははは我われ我われわれなれなれなれやややいくいくいく朝あさ朝あさあさ霜しも霜しもしもをををおきおきおきててて見み見みみつつつらむらむらん」」」。。。
  20. 20そのそのそのころころころ雨あめ雨あめあめなどなどなどのののはげしけれはげしけれはげしければばば、、、「「「雪ゆき雪ゆきゆきもももふりふりふり雨あめ雨あめあめももも降ふ降ふふりりりぬるぬるぬるこのこのこのごろごろごろををを朝あさ朝あさあさしもしもしもとととのみのみのみ起お起おおきききゐゐいてててははは見み見みみるるる」」」。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

このようにいつも絶えずお便りをくださるけれど、いらっしゃることはめったにない。雨や風などがひどく降ったり吹いたりする日に限ってお便りもくださらないので、人の少ない家の風の音を思いやってくださらないのだろうと思って、夕暮れに申し上げる、

「霜枯れのころはわびしいことです。秋風が吹くときには、荻の葉音(あなたの訪れ)も絶えずありましたのに」

と申し上げたところ、あちらからくださっていたお手紙を見ると、「たいそう恐ろしげな風をどうしているかと、しみじみと(思い)、すっかり枯れ果てて、わたしのほかに訪れる人もないのに、嵐の風をどう聞いているだろうと思いやり申し上げるのも、たまらない」とある。

(そう)おっしゃったのを見るのも趣深くて、(宮が)方角を変えての御物忌で、人目を忍んだ所にいらっしゃるというので、いつものお車が(迎えに)来たので、今はただどうなりともおっしゃることに従おうと思うので、参った。

ゆっくりとお話をし、起きたり寝たりしてお相手をして、所在なさもまぎれるので、いっそう(宮邸に)参りたいと思うが、御物忌が過ぎたので、いつもの家に帰って、今日はいつもより名残が恋しく思い出されて、たまらなく思われるので申し上げる、

「所在なく今日(までの日々を)数えてみると、長い年月の中で、昨日だけは物思いをしなかったのですね」。

(宮は)ご覧になってしみじみとお思いになって、「わたしも、物思いなく過ごしたおとといを、昨日と今日にしてしまう(もう一度くり返す)手立てがあればと思うけれど、かいがない。やはり(邸へ来る)決心をしなさい」とあるけれど、たいそう気がねで、すらすらとは決心がつかないあいだは、ただ物思いにふけって明かし暮らしている。

いろいろに色づいて見えた木の葉も残りなく散り、空も明るく晴れているところに、しだいに沈んでゆく日の光が心細く見えるので、いつものように申し上げました、「慰めてくださるあなたもいるとは思うけれど、やはり夕暮れはもの悲しいことです」

とあるので、「夕暮れは誰もそのようにばかり思われるのだ。(でも)待ちわびているあなたは、人にまさっていると思うと、いとおしい。今すぐ参りたいものだ」とある。

翌日の、さらに翌朝、霜がたいそう白いので、「さて、今朝はどうですか」とあるので、「起きたまま夜を明かした霜の朝ほど、(つらさの)まさるものは世にありません」などと(歌を)交わし合う。

いつものようにしみじみとしたことなどをお書きになって、「わたしひとりが思っているのは思うかいもない。同じ心であなたもいてほしい」。お返しに、「あなたはあなた、わたしはわたしと隔てていないのだから、別々の心であるはずがありましょうか」。

こうして女は、風邪なのか、大げさではないけれど具合が悪いので、(宮は)「どうですか、どうですか」とお尋ねになる。少しよくなってきたころに「どうですか」とお尋ねになったので、

「少しよくなってまいりましたので、しばらく生きていたいものと思いましたのは罪深いことで。とはいえ、絶えてしまったころ(亡き宮を失ったころ)は絶えてしまえと思った命を、あなたのおかげでまた惜しく思うことです」

とあるので、「とてもとてもうれしいことだ」と言って、「玉の緒(命)は絶えるものか。約束した長い心に結びこめてしまったのだから」。

こうしているうちに年も残り少なくなったので、春が近いと思う十一月の初めごろ、雪の降った翌朝、「神代から降り古した雪だけれど、今日はとりわけ珍しいことだ」。

お返しに、「初雪といって、どの冬も見てきたままで、珍しくもないわが身ばかりが古びてゆきます」などと、このようなとりとめもないことで明かし暮らしている。

お手紙がある。「すっかり間があいてしまったので、参ろうと思っていたが、人々が漢詩を作っているようなので」とおっしゃったので、「お暇がなくてあなたがいらっしゃらないなら、わたしが行きましょう。詩文を作るという道(文の道)を知りたいものです」。

(宮は)趣深くお思いになって、「わたしの宿に訪ねていらっしゃい。詩文を作る道も教えよう。逢うこともできるように」。

また、いつもより霜がたいそう白いので、「どう見ていますか」とおっしゃったので、「冴えた夜に羽をしきりにかく鴫はわたしなのでしょうか。いく朝、霜を置いて(起きて)見たことでしょう」。

そのころ雨などが激しかったので、「雪も降り、雨も降ったこのごろを、朝の霜とばかり思って、起きていて見ています」。

意訳

嵐の夕べ、女は「霜枯れの今は荻の便りもない」と宮を恨む歌を送るが、宮からはちょうど「わたしのほかに訪れる人もないあなたは、嵐をどう聞いているか」という文が届いていた。行き違いではなく、同じ時に同じことを思っていたのである。

物忌の宮に招かれて二日を共に過ごした女は、帰ったあと「長い年月の中で、昨日だけは物思いをしなかった」と詠む。宮も「おとといを昨日と今日にしたい」と応じる。満ち足りた時間の短さが、かえって恋しさを募らせる。

夕暮れのもの悲しさ、霜の朝、「君は君、我は我と隔てないのだから、心は一つ」という贈答と、二人の心はいっそう寄り添ってゆく。女が風邪で寝込むと、宮は何度も見舞う。女は「亡き宮のころは絶えよと思った命を、あなたのおかげでまた惜しむ」と詠み、喪失の悲しみから立ち直りつつあることを宮に伝える。

十一月、初雪の歌、詩会の歌、鴫の歌と、冬の景物を織り込んだ軽やかな贈答が続く。宮邸へ移る日が近づいていることが、そのあたたかな調子からもうかがえる。

語釈・文法注

風
風邪。当時は「風病(ふうびょう)」と呼ばれ、風に当たってかかる病と考えられた。

文法

「荻のおとづれもしき」
底本のまま。「しき」は「頻(し)き」で、しきりにあった、の意に解した。通行本文は「荻のおとづれもせぬ」。
「思ひやり聞へるこそ」
底本は「聞へ」の脇に異本の字を小字で注記する。本文は底本の大字に従った。
「所違へたる御物忌」
方違えを兼ねた物忌。宮は自邸を離れた所で物忌をしていて、そこへ女を呼んだ。
「待ちわぶ君は人にまされり」
底本は「は」「り」の脇に異本の字を小字で注記する。本文は底本の大字に従った。
「春立つかたと思ふ十一月」
十一月は冬至の月で、陽気が生じ始めるとされたので、春に向かう月と言った。
「初雪といはれの冬も」
底本のまま。通行本文は「初雪といづれの冬も」。
「人々文作るめれば」
宮の邸で漢詩を作る会が開かれている。宮は漢詩文にも通じていた。

和歌

霜枯はわびしかりけり秋かぜの吹くには荻のおとづれもしき

詠者
女
状況
嵐の夕べ、訪れの少ない宮を恨んで送った歌。

修辞

掛詞
「おとづれ」に荻の葉の「音」と宮の「訪れ」を掛ける。
対比
秋の荻風のころと、霜枯れの今を比べる。

枯れはてゝ我よりほかにとふ人もあらしの風をいかゞ聞くらむ

詠者
帥宮
状況
女の歌と同じころ、宮から届いていた文の歌。

修辞

掛詞
「あらし」に「嵐」と「(訪ふ人も)あらじ」を掛ける。

つれづれと今日かぞふれば年月にきのふぞものは思はざりける

詠者
女
状況
物忌の宮のもとで二日を過ごし、帰った翌日の歌。

修辞

対比
長い「年月」と、ただ一日の「きのふ」を対比する。

思ふ事なくてすぐしゝをとゝひを昨日と今日になすよしもがな

詠者
帥宮
状況
女の歌への返事。

修辞

言葉の受け
女の「きのふ」を受けて、「をととひ」「昨日」「今日」と日をたどる。

なぐさむる君もありとは思へどもなほ夕ぐれはものぞかなしき

詠者
女
状況
晴れた夕暮れ、沈む日を見て送った歌。

修辞

逆接
慰める人がいても夕暮れは悲しいと、恋の心細さを言う。

ゆふぐれは誰もさのみぞおもほゆる待ちわぶ君は人にまされり

詠者
帥宮
状況
女の夕暮れの歌への返事。

修辞

言葉の受け
女の「夕ぐれ」を受け、待つあなたの悲しみはひとしおだと思いやる。

起きながらあかせる霜のあしたこそまされるものは世になかりけれ

詠者
女
状況
霜の白い朝、宮の問いに答えた歌。

修辞

掛詞
「起き」に霜が「置き」を響かせる。

われひとり思ふはおもふかひもなしおなじこゝろに君もあらなむ

詠者
帥宮
状況
しみじみとした文に添えた歌。

修辞

願望
「あらなむ」で、同じ心であってほしいと願う。

君はきみわれはわれともへだてねばこゝろごゝろにあらむものかは

詠者
女
状況
宮の歌への返事。

修辞

反語
「ものかは」で、別々の心であるはずがない、と言う。
対句
「君は君」「我は我」を重ねる。

絕えしころ絕えねと思ひし玉の緒を君によりまた惜まるゝかな

詠者
女
状況
風邪が治りかけたころ、見舞いの宮に答えた歌。

修辞

縁語
「絶え」「玉の緒」「惜しまる」は命の縁語。玉の緒は命のこと。
回想
「絶えしころ」は為尊親王を失ったころを指す。

玉の緒は絕えむものかは契りてし長きこゝろにむすびこめてき

詠者
帥宮
状況
女の歌への返事。

修辞

縁語
「玉の緒」「絶え」「長き」「結び」は緒(ひも)の縁語。

神代よりふりはてにける雪なれど今日は殊にもめづらしきかな

詠者
帥宮
状況
十一月初め、雪の朝に送った歌。

修辞

掛詞
「ふり」に「降り」と「古り」を掛ける。

初雪といはれの冬も見しまゝにめづらしげなき身のみ降りつゝ

詠者
女
状況
宮の雪の歌への返事。

修辞

掛詞
「降り」に「古り」を掛け、年を重ねてゆく身を嘆く。

いとまなみ君きまさずば我行かむふみつくるらむ道を知らばや

詠者
女
状況
詩会のために来られないという宮への返事。

修辞

掛詞
「ふみ」に「文(詩文)」と「踏み」を掛け、「道」の縁語とする。

我が宿にたづねて來ませふみつくる道も敎へむあひも見るべく

詠者
帥宮
状況
女の歌への返事。

修辞

言葉の受け
女の「ふみつくる道」を受けて、教えようと応じ、邸へ来るよう誘う。

さゆる夜のかずかく鴫は我なれやいく朝霜をおきて見つらむ

詠者
女
状況
霜の白い朝、宮の問いに答えた歌。

修辞

本歌
『古今和歌集』「暁の鴫の羽がき百羽がき君が来ぬ夜は我ぞ数かく」をふまえ、眠れぬ夜を数える身を鴫に重ねる。
掛詞
「おき」に霜が「置き」と人が「起き」を掛ける。

雪もふり雨も降りぬるこのごろを朝しもとのみ起きゐては見る

詠者
女
状況
雨の激しいころに送った歌。

修辞

掛詞
「朝しも」に「朝霜」と「朝(なのに)しも」を響かせ、霜の歌の続きとして詠む。

解説

嵐の夕べ、女の恨みの歌と宮の見舞いの文が同時に交わされていたという場面は、第9章の霜の朝と同じく、離れていても二人の心が同じ時に動いていたことを描く。こうした一致が重なるほど、女は宮邸へ移る決心を固めてゆく。

「昨日ぞものは思はざりける」は、一日の幸福を長い年月の物思いと対比して、その短さを惜しむ名歌である。宮の「をとといを昨日と今日に」という返歌も軽妙で、二人の機知がよく響き合っている。

病を見舞われて「絶えねと思ひし玉の緒を、君によりまた惜しまるるかな」と詠む歌は、亡き為尊親王の死以来の絶望から、宮への恋によって生きる気持ちを取り戻したことを語る、日記の中でも重い意味をもつ一首である。

関連

出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(和泉式部日記) 板倉屋書房、明治36年(1903)、447–450頁(コマ235–237)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日