伊勢物語 第19章(第107段〜第114段)
身を知る雨
藤原敏行の求婚に、歌の苦手な女に代わって主人の男が返歌を作り、雨の夜、敏行は蓑も笠もつけずに駆けつける。波の打ち寄せる岩のように乾くことのない袖、人こそはかないと友の死を悼む歌、夢に現れる魂結び、下紐の贈答、須磨の塩焼く煙。最後は芹川の行幸で老いを嘆いた翁の歌までを読む。
- 1むかしむかしむかし、、、あてあてあてなるなるなる男男おとこありありありけりけりけり。。。そのそのそのをとこをとこおとこのののもともともとなりなりなりけるけるけるひとひとひとををを內內ないなるなるなる藤藤ふじ原原わらののの敏敏としととといふいふいう人人ひとよばひよばひよばいけりけりけり。。。されどされどされど若若わかけれけれければばば文文ふみもももをさをさしからをさをさしからおさおさしからずずず、、、ことばことばことばもももいひいひいい知知しらららずずず、、、いはむやいはむやいわんや歌歌うたはははよまよまよまざりざりざりけれけれければばば、、、かのかのかのあるじあるじあるじなるなるなる人人ひと、、、案案あんををを書書かきききてててかゝかゝかかせせせてててやりやりやりけりけりけり。。。めでめでめでまどひまどひまどいにににけりけりけり。。。さてさてさて男男おとこのののよめよめよめるるる。。。
- 2「「「つれづれつれづれつれづれのののながめながめながめにににまさるまさるまさる淚淚なみだ川川がわそでそでそでのみのみのみひぢひぢひじててて逢逢あふふうよしよしよしもももなしなしなし」」」。。。
- 3かへしかへしかへし、、、例例れいののの男男おとこ、、、女女おんなにににかはりかはりかわりててて、、、
- 4「「「あさあさあさみみみこそこそこそ袖袖そではははひづひづひずらめらめらめなみだなみだなみだ川川がわ身身みさへさへさえ流流ながるるるととときかきかきかばばばたのまたのまたのまむむん」」」
- 5ととといへいへいえりりりけれけれければばば、、、男男おとこいといといといたういたういとうめでゝめでゝめでていまゝでいまゝでいままでまきまきまきてててふふふばこばこばこににに入入いれれれもてもてもてありありありとととなむなむなんいふいふいうなるなるなる。。。男男おとこ文文ふみおこせおこせおこせたりたりたり。。。えええててて後後のちののの事事ことなりなりなりけりけりけり。。。「「「雨雨あめののの降降ふりりりぬぬぬべきべきべきににになむなむなん見見み煩煩わずらひひい侍侍はべるるる。。。身身みさいはひさいはひさいわいあらあらあらばばばこのこのこの雨雨あめははは降降ふらららじじじ」」」ととといへいへいえりりりけれけれければばば、、、例例れいののの男男おとこ、、、女女おんなににに代代かわりりりてててよみよみよみてててやらやらやらすすす。。。
- 6「「「かずかずかずかずかずかずににに思思おもひひいおもはおもはおもわずずずとひとひといがたがたがたみみみ身身みをををしるしるしる雨雨あめはははふりふりふりぞぞぞまされまされまされるるる」」」
- 7とととよみよみよみてててやれやれやれりりりけれけれければばば、、、簑簑みのももも笠笠かさもももとりとりとりあへあへあえでででしとゝしとゝしととににに濡濡ぬれれれてててまどひまどひまどい來來きにににけりけりけり。。。
- 8むかしむかしむかし、、、女女おんな、、、人人ひとのののこゝろこゝろこころをををうらみうらみうらみててて、、、
- 9「「「風風かぜ吹吹ふけけけばばばとはとはとわににになみなみなみこすこすこす岩岩いわなれなれなれやややわわわがががころもころもころも手手でのののかわくかわくかわくときときときなきなきなき」」」
- 10ととと、、、常常つねのののことことことぐさぐさぐさにににいひいひいいけるけるけるををを、、、聞聞ききききおひおひおいけるけるける男男おとこ、、、
- 11「「「よひよひよいごとごとごとにににかはづかはづかわずのののあまたあまたあまたなくなくなく田田たにににははは水水みずこそこそこそまされまされまされ雨雨あめはははふらふらふらねねねどどど」」」。。。
- 12昔昔むかし、、、男男おとこ、、、友友ともだちだちだちののの人人ひとををを失失うしなへへえるるるがががもともともとにににやりやりやりけるけるける、、、
- 13「「「花花はなよりよりよりももも人人ひとこそこそこそあだあだあだににになりなりなりにににけれけれけれいづれいづれいずれをををさきさきさきにににこひこひこいむむんとととかかか見見みししし」」」。。。
- 14昔昔むかし、、、男男おとこ、、、みそかみそかみそかにににかよふかよふかよう女女おんなありありありけりけりけり。。。それそれそれがががもともともとよりよりより、、、「「「今宵今宵こよい夢夢ゆめににになむなむなん見見みえええ給給たまひひいつるつるつる」」」ととといへいへいえりりりけれけれければばば、、、男男おとこ、、、
- 15「「「思思おもひひいあまりあまりあまりいでいでいでにににししし魂魂たまのののあるあるあるならならならむむん夜夜よ深深ぶかくくく見見みえええばばばたまたまたませよせよせよ」」」。。。
- 16昔昔むかし、、、男男おとこ、、、やんごとなきやんごとなきやんごとなき女女おんなのののもともともとににに、、、なくなくなくなりなりなりにににけるけるけるをををとぶらふとぶらふとぶらうやうやうようにににててていひいひいいやりやりやりけるけるける、、、「「「いにしへいにしへいにしえはははありありありもももやややしししけむけむけん今今いまぞぞぞしるしるしるまだまだまだ見見みぬぬぬ人人ひとをををこふるこふるこうるものものものとととははは」」」。。。
- 17かへしかへしかへし、、、
- 18「「「下下した紐紐ひものののしるししるししるしとととするするするもももとけとけとけなくなくなくにににかたるかたるかたるかごとかごとかごとはははこひこひこいずずずぞぞぞあるあるあるべきべきべき」」」。。。
- 19又又またかへしかへしかへし、、、
- 20「「「こひしこひしこいしとととはははさらにさらにさらにもももいはいはいわじじじ下下した紐紐ひものののとけとけとけむむんをををひとひとひとはははそれそれそれととと知知しらららなむなむなん」」」。。。
- 21むかしむかしむかし、、、男男おとこ、、、ねんごろねんごろねんごろにににいひいひいい契契ちぎれれれるるる女女おんなののの、、、ことことことざまざまざまににになりなりなりにににけれけれければばば、、、
- 22「「「須須す磨磨まのののあまあまあまののの鹽鹽しおやくやくやくけぶりけぶりけぶり風風かぜをををいたいたいたみみみ思思おもははわぬぬぬかたかたかたにににたなびきたなびきたなびきにににけりけりけり」」」。。。
- 23むかしむかしむかし、、、男男おとこ、、、やもめやもめやもめにににててて居居いててて、、、
- 24「「「ながゝらながゝらながからぬぬぬ命命いのちのののほどほどほどにににわするゝわするゝわするるはははいかにいかにいかにみじかきみじかきみじかきこゝろこゝろこころなるなるなるらむらむらん」」」。。。
- 25昔昔むかし、、、仁仁にん和和わののの、、、せりせりせりににに行行み幸幸ゆきしししたまひたまひたまいけるけるける時時ときににになまなまなまおきなおきなおきなののの今今いまはははさるさるさることことこと似似にげげげなくなくなく思思おもひひいけれけれけれどどど、、、もともともとつきつきつきにににけるけるけることことことなれなれなればばば、、、大大おお鷹鷹たかののの鷹鷹たか飼飼がいにににててて候候さぶらははわせせせ給給たまひひいけるけるける、、、摺摺すりかりかりかりぎぬぎぬぎぬののの袂袂たもとににに鶴鶴つるのののかたかたかたをををつくりつくりつくりててて書書かきききつけゝるつけゝるつけける、、、
- 26「「「翁翁おきなさびさびさび人人ひとなななとがめとがめとがめそそそかりかりかりごろもごろもごろもけふけふきょうばかりばかりばかりとととぞぞぞたづたづたずもももなくなくなくなるなるなる」」」。。。
- 27おほやけおほやけおおやけののの御御み氣色氣色けしきあしかりあしかりあしかりけりけりけり。。。おのおのおのがががよはひよはひよわいををを思思おもひひいけれけれけれどどど、、、若若わかからからからぬぬぬ人人ひとははは聞聞ききききおひおひおいけりけりけりとととややや。。。
現代語訳
〔第107段〕昔、身分の高い男がいた。その男のもとに仕えていた女に、内記であった藤原敏行という人が求婚した。けれども女は若いので、手紙もろくに書けず、言葉づかいも知らず、まして歌は詠めなかったので、あの主人である男が、下書きを書いて女に書かせて送った。敏行はすっかり感心してしまった。そこで敏行が詠んだ。
「所在なく物思いにふける長雨にまさって、涙の川の水かさが増し、袖ばかりが濡れて、あなたに逢うすべもありません」。
返歌は、いつものようにあの男が、女に代わって、
「涙川が浅いから、袖だけが濡れるのでしょう。身まで流れるほどだと聞いたなら、あなたを頼りにしましょう」
と言ったので、敏行はたいそう感心して、今まで手紙を巻いて文箱に入れて持っているということだ。(その後)敏行が手紙を寄こした。女を得たあとのことであった。「雨が降りそうなので、出かけようかどうか、空模様を見て思い悩んでおります。わが身に幸運があるなら、この雨は降らないでしょう」と言ってきたので、いつものように男が女に代わって詠んで贈らせる。
「あなたが私を思ってくださるのか、思ってくださらないのか、尋ねにくいので、わが身の程を知らせる雨が、ますます降りまさることです」
と詠んで贈ったところ、敏行は蓑も笠も取るものも取りあえず、びっしょり濡れてあわてて駆けつけて来た。
〔第108段〕昔、ある女が、男の心を恨んで、
「風が吹くといつも波が打ち越す岩なのだろうか、私の袖の乾くときがないのは」
と、いつも口癖のように言っていたのを、自分のことだと思って聞いていた男が、
「毎夜、蛙がたくさん鳴く田には、雨は降らないけれど、水が増すことだ(あなたの涙が多いのは、あなたが泣いてばかりいるからでしょう)」。
〔第109段〕昔、ある男が、友人で恋人を亡くした人のもとに贈った、
「花よりも人のほうがはかなくなってしまった。花と人と、どちらを先に恋しく思うことになると思っていたでしょうか」。
〔第110段〕昔、ある男に、ひそかに通っている女がいた。その女のもとから、「今夜、夢にあなたが現れました」と言ってきたので、男は、
「思いあまって、私の体から抜け出した魂があるのでしょう。夜更けにまた見えたら、魂結びをしてください」。
〔第111段〕昔、ある男が、高貴な女のもとに、亡くなった人を弔うように見せかけて言い贈った、「昔はあったのだろうか。今こそ知った、まだ見ぬ人を恋い慕うものだとは」。
女の返歌、
「下紐がひとりでに解けるのが恋しく思われているしるしだといいますが、それも解けないのですから、あなたのおっしゃる恋は、口実にすぎないのでしょう」。
男がまた返した、
「恋しいとは、今さら言いますまい。下紐が解けたら、それが私の思いのしるしだと知ってください」。
〔第112段〕昔、ある男が、心をこめて約束を交わした女が、ほかの男に心を移してしまったので、
「須磨の海人が塩を焼く煙が、風が激しいので思いもよらない方へたなびいてしまったことだ」。
〔第113段〕昔、ある男が、ひとり身でいて、
「長くもない命のうちに、人を忘れてしまうとは、なんと短い心なのだろう」。
〔第114段〕昔、仁和の帝が芹川に行幸なさったときに、年老いた男が、今はそのような役目は似つかわしくないと思ったけれど、もともとその役についていたことなので、大鷹の鷹飼としてお供をさせなさった。その摺り狩衣の袂に鶴の模様を描いて、書きつけた歌、
「年寄りじみていると、人々よ、とがめないでくれ。狩衣を着るのも今日限りと、鶴も鳴いている(私も泣いている)」。
帝のご機嫌が悪かった。男は自分の年齢のことを思って詠んだのだが、若くない帝は、自分のことを言われたと思ってお聞きになったとか。
意訳
〔第107段〕若くて歌も詠めない侍女に代わって、主人の男が歌を作り、求婚者の藤原敏行を夢中にさせる。雨を口実に来るのをためらう敏行に、「身を知る雨」――あなたの真心の程が分かる雨――と詠んで送ると、敏行は蓑も笠もつけずにずぶ濡れで駆けつけた。歌の力で恋を動かす、ほほえましい話である。
〔第108〜111段〕袖が乾く間もないと嘆く女に、蛙の鳴く田は雨が降らなくても水が増すと、からかうように返す男。恋人を亡くした友には、花よりも人のほうがはかないと悼む。夢に現れた自分の魂を結びとめてほしいと願う歌、まだ見ぬ人への恋を下紐に託して交わす贈答と、恋のしるしをめぐる歌が続く。
〔第112〜114段〕心変わりした女を、風に流される須磨の塩焼く煙にたとえ、人を忘れる心の短さを嘆く。芹川の行幸では、老いた鷹飼が「今日限りの狩衣」と老いを嘆く歌を詠むが、同じく若くない帝は、自分への当てこすりと受け取って機嫌を損ねたという。歌の言葉の受けとめ方のおかしさで、この章を結ぶ。
語釈・文法注
- 內記
- 中務省の官。詔勅などの文書の起草にあたった。
- 藤原の敏行
- 藤原敏行(?〜901?)。歌人・能書家として知られ、百人一首第18首の作者。業平の妻の姉妹を妻とした。
- たまむすび
- 魂結び。身から抜け出した魂を結びとめるまじない。人の夢に現れるのは、思う人の魂が抜け出して来るからだと考えられていた。
- 仁和の帝
- 光孝天皇(830〜887)。仁和は在位中の年号。即位したのは五十五歳のときであった。
- せり川
- 芹川。山城国紀伊郡(今の京都市伏見区)の川。仁和二年(886)に光孝天皇の行幸があった。
文法
- 「をさをさしからず」
- 「をさをさし」は、しっかりしている。手紙もしっかり書けず。
- 「いはむや」
- まして。
- 「えて後の事なりけり」
- 「え」は「得」。女を得たあとのことであった。
- 「見煩ひ侍る」
- 空模様を見て(出かけるか)思い悩んでおります。
- 「とひがたみ」
- 「がたし」の語幹+「み」で、尋ねにくいので。
- 「聞きおひける」
- 「聞き負ふ」は、自分のことだと思って聞く。
- 「いづれをさきにこひむとか見し」
- 花と人と、どちらを先に恋しく思うことになると思っていただろうか。
- 「ことざまになりにければ」
- 「異様(ことざま)」は、ほかの様子。ほかの男に心を移してしまったので。
- 「人なとがめそ」
- 「な…そ」で禁止。人々よ、とがめないでくれ。
- 「若からぬ人は聞きおひけりとや」
- 若くない人(老齢の帝)は、自分のことだと受け取ったとか。
和歌
つれづれのながめにまさる淚川そでのみひぢて逢ふよしもなし
- 詠者
- 藤原敏行
- 状況
- 主人の男が代筆した女の手紙に感心し、女に贈った歌。『古今和歌集』恋三に敏行の歌として載る。
修辞
- 掛詞
- 「ながめ」に「長雨」と「眺め(物思い)」を掛ける。
- 縁語
- 「長雨」「淚川」「ひぢ」が縁語。
あさみこそ袖はひづらめなみだ川身さへ流るときかばたのまむ
- 詠者
- 男(女に代わって)
- 状況
- 敏行の歌への返歌を、主人の男が女に代わって詠んだもの。『古今和歌集』恋三に在原業平の歌として載る。
修辞
- 対応
- 敏行の「淚川」を受けて、浅いから袖だけが濡れるのだと切り返す。
かずかずに思ひおもはずとひがたみ身をしる雨はふりぞまされる
- 詠者
- 男(女に代わって)
- 状況
- 雨を口実に来るのをためらう敏行に、女に代わって詠んだ歌。『古今和歌集』恋四に在原業平の歌として載る。
修辞
- 表現
- 「身を知る雨」は、わが身の程(相手に思われているかどうか)を知らせる雨。涙の雨を重ねる。
風吹けばとはになみこす岩なれやわがころも手のかわくときなき
- 詠者
- 女
- 状況
- 男の心を恨んで、いつも口ずさんでいた歌。『古今和歌集』恋五に載る。
修辞
- 比喩
- 波の打ち越す岩に、涙で濡れる袖をたとえる。
よひごとにかはづのあまたなく田には水こそまされ雨はふらねど
- 詠者
- 男
- 状況
- 女の歌を自分のことだと思って聞き、返した歌。『古今和歌集』恋五に載る。
修辞
- 掛詞
- 「なく」に「(蛙が)鳴く」と「(女が)泣く」を掛ける。
花よりも人こそあだになりにけれいづれをさきにこひむとか見し
- 詠者
- 男
- 状況
- 恋人を亡くした友人に贈った弔いの歌。『古今和歌集』哀傷に紀茂行の歌として載る。
修辞
- 対比
- 散る花と、はかなく亡くなった人を比べる。
思ひあまりいでにし魂のあるならむ夜深く見えばたまむすびせよ
- 詠者
- 男
- 状況
- 夢に現れたと言ってきた女に返した歌。
修辞
- 発想
- 恋しさのあまり自分の魂が抜け出して女の夢に現れたと考える。
いにしへはありもやしけむ今ぞしるまだ見ぬ人をこふるものとは
- 詠者
- 男
- 状況
- 高貴な女に、亡くなった人を弔うふりをして贈った歌。『新古今和歌集』恋一に載る。
修辞
- 倒置
- 「今ぞしる…とは」で、知った内容を最後に置く。
下紐のしるしとするもとけなくにかたるかごとはこひずぞあるべき
- 詠者
- 女
- 状況
- 男の歌への返歌。
修辞
- 習俗
- 人に恋しく思われると下紐がひとりでに解けるという言い伝えを踏まえる。
こひしとはさらにもいはじ下紐のとけむをひとはそれと知らなむ
- 詠者
- 男
- 状況
- 女の返歌に、さらに返した歌。
修辞
- 習俗
- 同じく下紐の言い伝えを踏まえ、解けたら自分の思いのしるしと知れ、と言う。
須磨のあまの鹽やくけぶり風をいたみ思はぬかたにたなびきにけり
- 詠者
- 男
- 状況
- 約束を交わした女がほかの男に心を移したときに詠んだ歌。『古今和歌集』恋四によみ人しらずとして載る。
修辞
- 比喩
- 風に流される塩焼く煙に、ほかの男になびいた女の心をたとえる。
- 表現
- 「いたみ」は「いたし」の語幹+「み」で、激しいので。
ながゝらぬ命のほどにわするゝはいかにみじかきこゝろなるらむ
- 詠者
- 男
- 状況
- ひとり身でいて、人の心変わりを嘆いた歌。
修辞
- 対比
- 「ながゝらぬ命」と「みじかきこゝろ」を対比する。
翁さび人なとがめそかりごろもけふばかりとぞたづもなくなる
- 詠者
- 鷹飼の翁
- 状況
- 光孝天皇の芹川行幸に鷹飼として供奉し、狩衣の袂に鶴の模様を描いて書きつけた歌。『後撰和歌集』雑一に在原行平の歌として載る。
修辞
- 掛詞
- 「なく」に「(鶴が)鳴く」と「泣く」、「かりごろも」の「かり」に「狩」と「仮」を重ねる。
解説
第107段の藤原敏行は、「秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる」(『古今和歌集』秋上)で知られる歌人である。敏行と業平は、ともに紀有常の娘を妻とした相婿の関係にあった。『古今和歌集』では、この段の三首がそれぞれ敏行と業平の歌として載り、物語はそのやりとりを一つの恋の話に仕立てている。
第114段の芹川の行幸は仁和二年(886)のことで、業平はすでに亡くなっていた(元慶四年、880没)。『後撰和歌集』ではこの歌を兄の行平の歌としており、物語が業平以外の人物の歌も取りこんでいることを示す例とされる。
第110段の「魂結び」は、夢に人が現れるのは、その人の魂が恋しさのあまり体から抜け出して来るからだ、という当時の考え方にもとづく。『源氏物語』葵の巻で、六条御息所の生霊が「なげきわび空に乱るるわが魂を結びとどめよしたがひのつま」と詠むのも、同じ考え方による。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部三 雑上(伊勢物語) 板倉屋書房、明治36年(1903)、70–72頁(コマ39–40)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日