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伊勢物語 第20章(第115段〜第125段)

つひにゆく道

陸奥の女の都島の別れの歌、旅先から都へ送る浜びさしの歌、住吉の神が帝の歌に応える神詠、形見を見て嘆く女、筑摩の祭、梅壺の鶯の笠、井出の玉水。深草の里の女の「鶉となりて」の歌を経て、誰にも言えぬ思いをうたう歌、そして「つひにゆく道」の辞世の歌で物語を閉じる十一の段。

  1. 1昔むかし昔むかしむかし、、、みちみちみちののの國くに國くにくににににててて男をとこ男をとこおとこ女をんな女をんなおんなすみすみすみけりけりけり。。。男をとこ男をとこおとこ「「「京きやう京きやうきょうへへへいないないなむむん」」」ととといふいふいう。。。このこのこの女をんな女をんなおんないといといと悲かな悲かなかなしうしうしゅうててて、、、馬むま馬むまうまのののはなむけはなむけはなむけをををだにだにだにせせせむむんとてとてとて、、、興おき興おきおきののの井ゐ井ゐい都みやこ都みやこみやこととといふいふいう所ところ所ところところにににててて酒さけ酒さけさけのまのまのませせせてててよめよめよめるるる、、、
  2. 2「「「おきおきおきのののゐゐいててて身み身みみををを燒や燒ややくくくよりよりよりもももかなしきかなしきかなしきははは都みやこ都みやこみやこ島じま島じまじまべべべのののわかれわかれわかれなりなりなりけりけりけり」」」。。。
  3. 3とととよめよめよめりりりけるけるけるににに、、、めでゝめでゝめでてとまりとまりとまりにににけりけりけり。。。
  4. 4昔むかし昔むかしむかし、、、男をとこ男をとこおとこ、、、すゞろすゞろすずろにににみちみちみちののの國くに國くにくにまでまでまで惑まど惑まどまどひひいいにいにいにけりけりけり。。。京きやう京きやうきょうにににおもふおもふおもう人ひと人ひとひとにににいひいひいいやるやるやる。。。
  5. 5「「「浪なみ浪なみなみ間ま間ままよりよりより見み見みみゆるゆるゆるこここ島じま島じまじまののの濱はま濱はまはまひさしくひさしくひさしくなりなりなりぬぬぬ君きみ君きみきみにににあひあひあいみみみででで。。。
  6. 6何なに何なになに事ごと事ごとごとももも皆みな皆みなみなよくよくよくなほりなほりなおりにににけりけりけり」」」とととなむなむなんいひいひいいやりやりやりけるけるける。。。
  7. 7昔むかし昔むかしむかし、、、みかどみかどみかど、、、住すみ住すみすみ吉よし吉よしよしににに行み行みみ幸ゆき幸ゆきゆきしししたまひたまひたまいけりけりけり。。。
  8. 8「「「我わ我わわれれれ見み見みみてててもももひさしくひさしくひさしくなりなりなりぬぬぬ住すみ住すみすみ吉よし吉よしよしのののきしきしきしのののひめひめひめ松まつ松まつまついくいくいく代よ代よよへへへぬぬぬらむらむらん」」」。。。おほんおほんおおん神かみ神かみかみげげげしししたまひたまひたまいててて、、、
  9. 9「「「むつまじむつまじむつまじととと君きみ君きみきみはははしらしらしらなみなみなみ瑞みづ瑞みづみず垣がき垣がきがきののの久ひさ久ひさひさしきしきしき世よ世よよよりよりよりいはひいはひいわいそめそめそめてててききき」」」。。。
  10. 10昔むかし昔むかしむかし、、、男をとこ男をとこおとこ、、、久ひさ久ひさひさしくしくしく音おと音おとおともももせせせででで忘わす忘わすわするゝるゝるる心こころ心こころこころもももなしなしなし。。。「「「參まゐ參まゐまいりりり來こ來ここむむん」」」ととといへいへいえりりりけれけれければばば、、、女をんな女をんなおんな、、、「「「玉たま玉たまたまかづらかづらかずらはふはふはう木き木ききあまたあまたあまたににになりなりなりぬれぬれぬればばば絕た絕たたえええぬぬぬこゝろこゝろこころのののうれしうれしうれしげげげもももなしなしなし」」」。。。
  11. 11むかしむかしむかし、、、女をんな女をんなおんなのののあだあだあだなるなるなる男をとこ男をとこおとこのののかたみかたみかたみとてとてとて、、、おきおきおきたるたるたるものものものどもどもどもををを見み見みみててて、、、
  12. 12「「「かたみかたみかたみこそこそこそ今いま今いまいまはははあだあだあだなれなれなれこれこれこれなくなくなくばばば忘わす忘わすわするゝるゝるるときときときもももあらあらあらましましましものものものををを」」」
  13. 13昔むかし昔むかしむかし、、、男をとこ男をとこおとこ、、、女をんな女をんなおんなのののまだまだまだ世よ世よよにににへへへずずずとととおぼえおぼえおぼえたるたるたるががが、、、人ひと人ひとひとののの御おほん御おほんおおんもともともとにににしのびしのびしのびててて、、、物もの物ものもの聞きこ聞きこきこえええててて後のち後のちのちほどほどほどへへへててて、、、「「「近あふ近あふおう江み江みみなるなるなる筑つく筑つくつく摩ま摩ままのののとくとくとくせせせなむなむなんつれなきつれなきつれなき人ひと人ひとひとのののなべなべなべのののかずかずかずみみみむむん」」」
  14. 14昔むかし昔むかしむかし、、、男をとこ男をとこおとこ、、、梅うめ梅うめうめよりよりより雨あめ雨あめあめにににぬれぬれぬれててて人ひと人ひとひとのののまかりまかりまかり出い出いいづるづるずるををを見み見みみててて、、、
  15. 15「「「うぐひすうぐひすうぐいすののの花はな花はなはなをををぬふぬふぬうてふてふちょう笠かさ笠かさかさもももがながながなぬるぬるぬるめるめるめる人ひと人ひとひとにににきせきせきせてててかへさかへさかえさむむん」」」。。。かへしかへしかへし、、、
  16. 16「「「鶯うぐひす鶯うぐひすうぐいすのののはなはなはなをををぬふぬふぬうてふてふちょうかさかさかさはははいないないなおもひおもひおもいををを告つ告つつげげげよよよほしほしほしてててかへさかへさかえさむむん」」」。。。
  17. 17昔むかし昔むかしむかし、、、男をとこ男をとこおとこ、、、契ちぎ契ちぎちぎれれれるるることことことあやまれあやまれあやまれるるる人ひと人ひとひとににに、、、
  18. 18「「「山やま山やまやま城しろ城しろしろののの井ゐ井ゐいのののたまたまたま水みづ水みづみず手て手ててにににむすびむすびむすびたのみたのみたのみしししかひかひかいもももなきなきなき世よ世よよなりなりなりけりけりけり」」」。。。ととといひいひいいやれやれやれどどど、、、いらへいらへいらえもももせせせずずず。。。
  19. 19昔むかし昔むかしむかし、、、男をとこ男をとこおとこありありありけりけりけり。。。深ふか深ふかふかにににすみすみすみけるけるける女をんな女をんなおんなををを、、、やうやうやうやうようようあきあきあきがたがたがたにににややや思おも思おもおもひひいけむけむけん、、、かゝるかゝるかかる歌うた歌うたうたをををよみよみよみけりけりけり。。。「「「年とし年としとしををを經へ經へへてててすみすみすみこしこしこしさとさとさとをををいでゝいでゝいでていないないなばばばいとゞいとゞいとど深ふか深ふかふか草くさ草くさくさ野の野ののとととやややなりなりなりなななむむん」」」。。。女をんな女をんなおんな、、、かへしかへしかへし、、、
  20. 20「「「野の野ののとととならならならばばば鶉うづら鶉うづらうずらとととなりなりなりてててなきなきなきをらをらおらむむんかりかりかりにににだにだにだにやややははは君きみ君きみきみはははござらござらござらむむん」」」
  21. 21とととよめよめよめりりりけるけるけるにににめでゝめでゝめでて、、、ゆかゆかゆかむむんととと思おも思おもおもふふう心こころ心こころこころなくなくなくなりなりなりにににけりけりけり。。。
  22. 22昔むかし昔むかしむかし、、、男をとこ男をとこおとこ、、、いかなりいかなりいかなりけるけるけることことことををを思おも思おもおもひひいけるけるけるをりをりおりにににかかか、、、よめよめよめるるる、、、
  23. 23「「「おもふおもふおもうことことこといはいはいわでででぞぞぞたゞたゞただににに止や止ややみみみぬぬぬべきべきべき我われ我われわれとととひとしきひとしきひとしき人ひと人ひとひとしししなけれなけれなければばば」」」。。。
  24. 24昔むかし昔むかしむかし、、、男をとこ男をとこおとこわづらひわづらひわずらいててて、、、心ここ心ここここちちち死し死ししぬぬぬべくべくべくおぼえおぼえおぼえけれけれければばば、、、
  25. 25「「「つひつひついにににゆくゆくゆく道みち道みちみちとととはははかねてかねてかねて聞き聞きききききしかしかしかどどどきのふきのふきのうけふけふきょうとととははは思おも思おもおもははわざりざりざりしししををを」」」。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

〔第115段〕昔、陸奥の国で、男と女が暮らしていた。男が「京へ帰ろう」と言う。この女はたいそう悲しくて、せめて送別の宴だけでもしようと、おきのい都島という所で酒を飲ませて詠んだ、

「熾火(おき)が身に付いて身を焼くよりも悲しいのは、この都島のほとりでの、都へ帰るあなたとの別れです」。

と詠んだのに感じ入って、男は都へ帰るのをやめてとどまった。

〔第116段〕昔、ある男が、あてもなく陸奥の国までさまよって行ってしまった。京に恋しく思う人に言い贈る。

「波間から見える小島の浜の庇(ひさし)ではないが、ひさしく(長いあいだ)なってしまった、あなたに会わないで。

何事もみな、すっかりよくなりました」と言い贈ったのだった。

〔第117段〕昔、帝が住吉に行幸なさった。

「私が見てからでも、ずいぶん長い年月がたった。住吉の岸の姫松は、いったい幾代を経てきたのだろう」。住吉の神が姿を現されて、

「親しい仲だと、あなたはご存じないのでしょうか。神の瑞垣の久しい昔から、私はあなたの御代を祝いはじめてきたのです」。

〔第118段〕昔、ある男が、長いあいだ便りもしないで、「忘れる心もない。参上しましょう」と言ってきたので、女が、「玉かずらが這いかかる木がたくさんあるように、あなたの通う女がたくさんいるのですから、絶えることのない心と言われても、うれしくもありません」。

〔第119段〕昔、女が、浮気な男が形見として置いていった品々を見て、

「形見こそ、今はかえって恨めしい。これがなければ、あの人を忘れるときもあるだろうに」

〔第120段〕昔、ある男が、まだ男女の仲を知らないと思われていた女が、ある人のもとにひそかに通じて、その後しばらくたって、「近江の筑摩の祭を早くしてほしいものだ。つれない人のかぶる鍋の数を見よう」

〔第121段〕昔、ある男が、梅壺から雨に濡れて人が退出して来るのを見て、

「鶯が梅の花を縫って作るという笠があればよいのに。濡れているらしい人に着せて帰そう」。女の返歌、

「鶯が花を縫って作るという笠はいりません。それより、あなたの思い(火)を告げてください。それで乾かしてお返ししましょう」。

〔第122段〕昔、ある男が、約束をたがえた人に、

「山城の井出の玉水を手ですくって飲むように、頼りにしたかいもない仲だったことだ」。と言い贈ったけれど、返事もしない。

〔第123段〕昔、ある男がいた。深草に住んでいた女に、しだいに飽きてきたのだろうか、このような歌を詠んだ。「長年住み慣れてきたこの里を私が出て行ったら、ますます草深い野になってしまうのだろうか」。女の返歌、

「ここが野となったなら、私は鶉となって鳴いていましょう。せめて狩り(仮)にでも、あなたは来てくださらないでしょうか」

と詠んだのに感じ入って、男は出て行こうと思う心がなくなってしまった。

〔第124段〕昔、ある男が、どのようなことを思ったときであろうか、詠んだ、

「思うことは、口に出さずにそのまま終わらせてしまうのがよいだろう。私と同じ心の人などいないのだから」。

〔第125段〕昔、ある男が、病気になって、死にそうな気持ちになったので、

「最後には行く死出の道だとは、前から聞いていたけれど、それが昨日今日のこととは思わなかったなあ」。

意訳

〔第115〜119段〕都へ帰ろうとする男を、陸奥の女は送別の歌で引き留める。旅先からは「何事もよくなった」と都の人に便りを送る。住吉の行幸では、帝の歌に神みずから姿を現して応える。久しく訪れない男の「忘れない」という言葉を信じない女、形見があるからこそ忘れられないと嘆く女。別れと待つことの歌が続く。

〔第120〜123段〕近江の筑摩の祭(女が関係した男の数だけ鍋をかぶるという)にこと寄せて、うぶに見えた女の秘密をからかう歌。梅壺の鶯の笠の贈答、約束をたがえた人への恨みの歌。そして深草の段では、去ろうとする男に、女が「野になったら鶉となって鳴いて待つ」と応え、その心に打たれた男はとどまる。

〔第124・125段〕物語の最後に置かれた二首。誰にも分かってもらえない思いは口に出さずにおこうという孤独の歌と、死を前にした辞世の歌である。いつかは行く道と知ってはいたが、それが昨日今日のこととは思わなかった――。元服の日の「いちはやきみやび」に始まった男の一代は、この率直な驚きの一首で幕を閉じる。

語釈・文法注

興の井都嶋
おきのい・みやこじま。陸奥国の地名とされる(今の宮城県)。歌では「熾(おき)」「都」を掛ける。
濱びさし
浜庇。浜辺の家の庇。同音で「ひさしく」を導く。
げぎやう
現形(げぎょう)。神仏が姿を現すこと。
筑摩のまつり
近江国筑摩神社(今の滋賀県米原市)の祭。女性が関係した男の数だけ鍋をかぶって参詣したという。
梅壺
凝花舎(ぎょうかしゃ)。内裏の殿舎の一つで、庭に梅が植えられていた。
井で
井出。山城国綴喜郡(今の京都府井手町)。玉水(清らかな湧き水)と山吹の名所。
深草
山城国紀伊郡(今の京都市伏見区)。草深い、さびれた里として歌に詠まれた。

文法

「めでゝとまりにけり」
(女の歌に)感じ入って、京へ帰るのをやめてとどまった。
「君にあひみで。何事も…」
底本は歌の末に句点を打ち、続けて「何事も皆よくなほりにけり」までを鉤括弧に入れる。
「我れ見ても」
「我(われ)」に送りがな「れ」を添えた表記。
「しらなみ」
「知らな」と「白波」を掛ける。
「まだ世にへず」
まだ男女の仲を経験していない。
「とくせなむ」
「なむ」は他に対する願望。早くしてほしい。
「ぬるめる人」
「める」は推定。濡れているらしい人。
「君はござらむ」
底本の表記。通行本文は「来(こ)ざらむ」で、来てくれないだろうか。
「我とひとしき人しなければ」
「し」は強意。私と同じ心の人はいないので。
「つひにゆく道」
最後には誰もが行く道、つまり死出の道。

和歌

おきのゐて身を燒くよりもかなしきは都島べのわかれなりけり

詠者
陸奥の女
状況
京へ帰る男に、送別の酒をすすめて詠んだ歌。『古今和歌集』墨滅歌に小野小町の歌として載る。

修辞

掛詞
「おきのゐ」に地名と「熾(おき)居て」、「都島」に地名と「都」を掛ける。

浪間より見ゆるこ島の濱びさしひさしくなりぬ君にあひみで

詠者
男
状況
陸奥まで来て、京の恋しい人に贈った歌。『新古今和歌集』恋五に載る。

修辞

序詞
「浪間より見ゆるこ島の濱びさし」が同音の「ひさしく」を導く。

我れ見てもひさしくなりぬ住吉のきしのひめ松いく代へぬらむ

詠者
帝
状況
住吉に行幸したときに詠んだ歌。『古今和歌集』雑上によみ人しらずとして載る。

修辞

擬人法
岸の松を「姫松」と呼び、長い年月を思いやる。

むつまじと君はしらなみ瑞垣の久しき世よりいはひそめてき

詠者
住吉の神
状況
帝の歌に応えて、住吉の神が姿を現して詠んだ歌。『新古今和歌集』神祇に載る。

修辞

掛詞
「しらなみ」に「知らな(知らないのか)」と「白波」を掛ける。
縁語
「白波」「岸」が縁語。

玉かづらはふ木あまたになりぬれば絕えぬこゝろのうれしげもなし

詠者
女
状況
長く訪れなかった男が「忘れない」と言ってきたのに返した歌。『古今和歌集』恋四に載る。

修辞

比喩
多くの木に這いかかる玉かずらに、多くの女のもとに通う男をたとえる。

かたみこそ今はあだなれこれなくば忘るゝときもあらましものを

詠者
女
状況
浮気な男が残していった形見の品々を見て詠んだ歌。『古今和歌集』恋四によみ人しらずとして載る。

修辞

反実仮想
「なくば…まし」で、形見がなければ忘れられるのに、と言う。

近江なる筑摩のまつりとくせなむつれなき人のなべのかずみむ

詠者
男
状況
うぶに見えた女が、ひそかに人と通じていたと知って詠んだ歌。『拾遺和歌集』雑恋に載る。

修辞

風習
関係した男の数だけ鍋をかぶるという筑摩の祭の風習を持ち出してからかう。

うぐひすの花をぬふてふ笠もがなぬるめる人にきせてかへさむ

詠者
男
状況
梅壺から雨に濡れて退出する女を見て詠んだ歌。

修辞

典拠
鶯が梅の花を縫って笠にするという、催馬楽「青柳」などに見える発想による。

鶯のはなをぬふてふかさはいなおもひを告げよほしてかへさむ

詠者
女
状況
男の歌への返歌。

修辞

掛詞
「おもひ」の「ひ」に「火」を掛け、その火で濡れた衣を干して返そうと言う。

山城の井でのたま水手にむすびたのみしかひもなき世なりけり

詠者
男
状況
約束をたがえた人に贈った歌。『新古今和歌集』恋五に載る。

修辞

序詞
「山城の井でのたま水手にむすび」が「たのみ(手飲み)」を導く。
掛詞
「たのみ」に「手飲み」と「頼み」を掛ける。

年を經てすみこしさとをいでゝいなばいとゞ深草野とやなりなむ

詠者
男
状況
深草に住む女に飽きて、去ろうとして詠んだ歌。『古今和歌集』雑下に在原業平の歌として載る。

修辞

掛詞
「深草」に地名と「草深い」を掛ける。

野とならば鶉となりてなきをらむかりにだにやは君はござらむ

詠者
女
状況
男の歌への返歌。『古今和歌集』雑下によみ人しらずとして載る。

修辞

掛詞
「かり」に「狩り」と「仮(かりそめ)」、「なき」に「鳴き」と「泣き」を掛ける。

おもふこといはでぞたゞに止みぬべき我とひとしき人しなければ

詠者
男
状況
何を思ってか分からないが、ある折に詠んだ歌。『新勅撰和歌集』雑二に在原業平の歌として載る。

修辞

孤独
自分と同じ心の人はいないという思いを率直に述べる。

つひにゆく道とはかねて聞きしかどきのふけふとは思はざりしを

詠者
男
状況
病気になり、死を前にして詠んだ辞世の歌。『古今和歌集』哀傷に在原業平の歌として載る。

修辞

対比
「かねて」と「きのふけふ」を対比し、予期していた死が突然訪れた驚きを表す。

解説

第125段の「つひにゆく道とはかねて聞きしかどきのふけふとは思はざりしを」は、『古今和歌集』哀傷に「病して弱くなりにける時よめる」という詞書で業平の歌として載る。飾らずに死への驚きを述べた辞世の歌として名高く、『伊勢物語』は、元服の日の第1段からこの辞世の歌まで、一人の男の生涯をたどる形で結ばれている。

第117段の住吉の神詠は、帝の歌に神みずからが応えるという神話的な場面である。和歌は神をも感動させるという考えは、『古今和歌集』仮名序の「力をも入れずして天地を動かし、目に見えぬ鬼神をもあはれと思はせ」という言葉にも通じる。

第123段の深草の贈答は、『古今和歌集』雑下に並んで載る。のちに藤原俊成が「夕されば野辺の秋風身にしみて鶉鳴くなり深草の里」と詠んで本歌取りの名歌とし、深草の里は鶉とともに詠まれる歌枕となった。

関連

出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部三 雑上(伊勢物語) 板倉屋書房、明治36年(1903)、72–74頁(コマ40–41)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日