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百人一首 第94首

みよしのの

参議雅経(飛鳥井雅経)(さんぎまさつね(あすかいまさつね))

吉野の山から秋風が吹き下ろし、夜も更けて、かつて都のあった古い里は寒々としている。その中を、衣を打つ砧の音が聞こえてくる。

晩秋の夜更け、吉野の山から冷たい秋風が吹き下ろす古い里で、月明かりの下、家々から砧で衣を打つ音が響く光景(AI生成)
晩秋の夜更け、吉野の山から冷たい秋風が吹き下ろす古い里で、月明かりの下、家々から砧で衣を打つ音が響く光景
  1. 1ののの初句
  2. 2山やま山やまやまののの秋風あきかぜ秋風あきかぜあきかぜ二句
  3. 3さよさよさよふけふけふけててて三句
  4. 4さむくさむくさむく四句
  5. 5ころもころもころも結句

引用の仕方

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現代語訳

吉野の山の秋風が(吹き下ろし)、夜も更けて、古い都のあったこの里は寒々として、衣を打つ(砧の)音が聞こえてくる。

意訳

晩秋の夜更け、吉野の山から冷たい秋風が吹き下ろしてくる。かつて離宮が置かれ、天皇たちが訪れた吉野の里も、今はさびれて寒々としている。その静けさの中、どこかの家で、冬に備えて衣を砧で打つ音が、トントンと響いてくる。

「衣を打つ」とは、布を木の台にのせて槌でたたき、柔らかくしたり艶を出したりする作業で、秋の夜の女性の仕事だった。目に見えない砧の音を、夜更けの寒さと秋風の中に響かせることで、古里のわびしさと、季節の深まりが身にしみるように伝わってくる。

語釈・文法注

みよしの
吉野(奈良県吉野郡)。「み」は美称の接頭語。
故郷
古い都のあった里。吉野にはかつて離宮があった。生まれ故郷の意ではない。
ころもうつ
衣を打つ。砧(きぬた)という木の台に布をのせ、槌で打って柔らかくし、艶を出すこと。秋の夜の風物。
なり
音を聞いて推し量る推定の助動詞。「(衣を打つ音が)聞こえる」。

文法

本歌取り
『古今和歌集』の坂上是則(第31首)の歌「み吉野の山の白雪つもるらしふるさと寒くなりまさるなり」を踏まえる。
推定の「なり」
砧の音を耳にして「衣を打っているようだ」と推し量る。

和歌

詠者
参議雅経(飛鳥井雅経)(1170–1221)
藤原頼経の子で、和歌と蹴鞠の家・飛鳥井家の祖。蹴鞠の名手として知られた。『新古今和歌集』の撰者の一人。源頼朝・実朝に重んじられ、京と鎌倉を行き来して、鴨長明を実朝に紹介したとも伝えられる。
出典
『新古今和歌集』巻五・秋下・483(国歌大観番号)
状況
詞書に「擣衣の心を」とある。「衣を擣(う)つ」という題で詠んだ。

修辞

本歌取り
坂上是則の「み吉野の山の白雪」の歌を踏まえる。
聴覚
砧の音で晩秋の夜を表す。

解説

本歌の坂上是則(第31首の作者)の歌は、冬の吉野の雪を詠んだものだった。雅経は、それを秋の夜の砧の音へと詠みかえ、季節と情景を一新している。

砧の音は、中国の詩で、遠く離れた夫を思う妻の悲しみを表すものとして詠まれた。李白の「長安一片の月、万戸衣を擣つの声」はよく知られている。

雅経は、蹴鞠の家・飛鳥井家の祖となり、その家は和歌と蹴鞠の家として長く続いた。

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歌に詠まれた場所

出典

底本
尾崎雅嘉『百人一首一夕話』 天保4年(1833)刊、巻8。国立国会図書館デジタルコレクション
校合
古谷知新編『日本歴史図会』第12輯(百人一首一夕話) 国民図書、大正9–10年。国立国会図書館デジタルコレクション
松下大三郎・渡辺文雄編『国歌大観』歌集部 明治34–36年
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日