古典ライブラリー

百人一首 第29首

心あてに

凡河内躬恒(おおしこうちのみつね)

当て推量で折るなら折ってみようか。初霜が一面に降りて、どれが霜でどれが花か見分けがつかなくなっている白菊の花を。

初霜の朝、霜で真っ白に覆われた庭の白菊の前に立ち、花を折ろうと手を伸ばしてためらう歌人(AI生成)
初霜の朝、霜で真っ白に覆われた庭の白菊の前に立ち、花を折ろうと手を伸ばしてためらう歌人
  1. 1心こころ心こころこころににに初句
  2. 2折らをら折らをらおらばばばややや折らをら折らをらおら二句
  3. 3ののの三句
  4. 4おきおきおきるるる四句
  5. 5白菊しらぎく白菊しらぎくしらぎくののの花はな花はなはな結句

引用の仕方

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現代語訳

当て推量で折るならば、折ってみようか。初霜が一面に降りて、どれが霜でどれが花か見分けがつかなくしている、白菊の花を。

意訳

初霜の朝、庭一面が真っ白な霜に覆われ、白菊の花と霜とが見分けられなくなっている。どれが花か分からないから、見当をつけて折ってみようか、という歌である。白一色の世界の、清らかで冷たい美しさをとらえている。

もちろん、実際に霜と白菊の区別がつかないことはない。これは「見分けがつかないほど白い」という誇張の表現で、平安時代の和歌が好んだ「見立て」の技法である。明治時代、正岡子規はこの歌を「嘘の趣向」と厳しく批判したが、実景よりも美の想像を大切にした古今集の歌人の美意識を、よく示す一首である。

語釈・文法注

心あてに
当て推量で。見当をつけて。
折らばや折らん
折るならば、折ってみようか。「や」は疑問の係助詞で、結びの「ん(む)」は意志。
はつしも
「初霜」。その年の冬に初めて降りる霜。
おきまどはせる
霜が「置き」(降りて)、白菊と見分けがつかないように「惑はせ」ている。「る」は存続の助動詞「り」の連体形。

文法

係り結び(や〜ん)
疑問の係助詞「や」を受けて、意志の助動詞「む(ん)」が連体形で結ばれる。二句で切れる。
倒置
「折らばや折らん」と先に言い、何を折るのかを後の「白菊の花」で示す。
体言止め
「白菊の花」と名詞で結ぶ。

和歌

詠者
凡河内躬恒(生没年未詳(9世紀後半〜10世紀前半))
平安時代前期の歌人。身分の低い官人だったが、紀貫之らとともに『古今和歌集』の撰者の一人に選ばれた。宇多・醍醐天皇の御幸や歌合で多くの歌を詠み、即興の歌の名手として知られた。三十六歌仙の一人。
出典
『古今和歌集』巻五・秋下・277(国歌大観番号)
状況
詞書に「白菊の花をよめる」とある。

修辞

見立て・誇張
白菊と初霜を見分けがつかないほど白いものとして描く。
倒置法
二句切れで、折る対象を後に置く。
体言止め
「白菊の花」。

解説

『百人一首一夕話』は、古今集秋下に「白菊の花を見て詠める」とあることを記したうえで、自分の心の推し量りで、花の色が霜と見分けられないので、当て推量で折ろうか、と解いている。

躬恒は身分の低い官人だったが、歌の才能で紀貫之と並ぶ評価を受けた。宇多天皇が「月を弓張というのはなぜか」と尋ねたとき、即座に歌で答えたという逸話が『大和物語』に見える。

正岡子規は『歌よみに与ふる書』(1898年)で、この歌を「一文半文の値打ちも無き駄歌」とまで酷評し、古今集の技巧的な歌風を批判する例として挙げた。

関連

出典

底本
尾崎雅嘉『百人一首一夕話』 天保4年(1833)刊、巻3。国立国会図書館デジタルコレクション
校合
古谷知新編『日本歴史図会』第12輯(百人一首一夕話) 国民図書、大正9–10年。国立国会図書館デジタルコレクション
松下大三郎・渡辺文雄編『国歌大観』歌集部 明治34–36年
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日