古典ライブラリー

方丈記 第6章

日野山の四季と山守の童

庵のまわりには懸樋の水があり、西の眺めは極楽を思う助けになる。春の藤、夏の時鳥、秋のひぐらし、冬の雪を味わい、念仏や読経を怠っても咎める人はいない。麓の山守の子と連れ立って野山を歩き、名所や古跡を訪ね、夜は月や虫や鳥の声に心を寄せる日々が語られる。

紅葉の山道で木の実を集めながら歩く長明と、麓に住む山守の十六歳の少年
麓に住む山守の子は十六歳、長明は六十歳。年齢の隔たる二人は、野山を歩いて木の実や山菜を採り、ときには峰から都の方角を望んだ。四季の風物を味わう日々に、山里でのささやかな交わりが重なっている。
  1. 1そのそのその所ところ所ところところのののさまさまさまをををいはゞいはゞいわば、、、南みなみ南みなみみなみにににありありあり、、、岩いは岩いはいわをををたゝみたゝみたたみててて水みづ水みづみずをををためためためたりたりたり。。。林はやし林はやしはやし軒のき軒のきのき近ちか近ちかちかけれけれければばば、、、つまつまつま木ぎ木ぎぎををを拾ひろ拾ひろひろふふうにににともしからともしからともしからずずず。。。名な名ななををを外と外とと山やま山やまやまととといふいふいう。。。まさきまさきまさきのののかづらかづらかずらあとあとあとをををうづめうづめうずめりりり。。。谷たに谷たにたにしげゝれしげゝれしげけれどどど、、、にしにしにしははは晴は晴ははれれれたりたりたり。。。觀くわん觀くわんかんのののたよりたよりたよりなきなきなきにににしもしもしもあらあらあらずずず。。。
  2. 2春はる春はるはるははは藤ふぢ藤ふぢふじなみなみなみををを見み見みみるるる、、、紫し紫ししのののごとくごとくごとくしてしてして西にし西にしにしのののかたかたかたににに匂にほ匂にほにおふふう。。。夏なつ夏なつなつははは郭ほと郭ほとほと公とぎす公とぎすとぎすをををきくきくきく、、、かたらふかたらふかたらうごとごとごとににに死し死しし出で出ででののの山やま山やまやまをををちぎるちぎるちぎる。。。秋あき秋あきあきははは日ひ日ひひぐらしぐらしぐらしののの聲こゑ聲こゑこえ耳みみ耳みみみみににに充み充みみてててりりり。。。うつせみうつせみうつせみののの世よ世よよをををかなしむかなしむかなしむかかかととと聞きこ聞きこきこゆゆゆ。。。冬ふゆ冬ふゆふゆははは雪ゆき雪ゆきゆきをををあはれむあはれむあわれむ。。。つもりつもりつもりきゆるきゆるきゆるさまさまさま、、、罪ざい罪ざいざい障しやう障しやうしょうにににたとへたとへたとえつつつべしべしべし。。。
  3. 3もしもしもしねんぶつねんぶつねんぶつものものものうくうくうく、、、どきやうどきやうどきょうまめまめまめならならならざるざるざる時とき時ときときははは、、、みづからみづからみずから休やす休やすやすみみみ、、、みづからみづからみずからをこたるをこたるおこたるにににさまたぐるさまたぐるさまたぐる人ひと人ひとひともももなくなくなく、、、またまたまた耻は耻ははづづずべきべきべき友とも友ともとももももなしなしなし。。。殊こと殊ことこと更さら更さらさらににに無む無むむをををせせせざれざれざれどもどもども、、、ひとりひとりひとり居を居をおれれればばばををををさめをさめおさめつつつべしべしべし。。。必かなら必かならかならずずず禁きん禁きんきん戒かい戒かいかいをををまもるまもるまもるとととしもしもしもなけれなけれなけれどもどもども、、、境きやう境きやうきょう界がい界がいがいなけれなけれなければばば何なに何なになににににつけつけつけてててかかか破やぶ破やぶやぶらららむむん。。。
  4. 4もしもしもしあとあとあとののの白しら白しらしら波なみ波なみなみににに身み身みみをををよするよするよするあしたあしたあしたにににははは、、、岡をか岡をかをかのののやややににに行ゆ行ゆゆきききかふかふかう船ふね船ふねふねをををながめながめながめててて、、、滿まん滿まんまん沙しや沙しやしゃががが風ふ風ふふ情ぜい情ぜいぜいをををぬすみぬすみぬすみ、、、もしもしもし桂かつら桂かつらかつらののの風かぜ風かぜかぜ、、、葉は葉ははをををならすならすならすゆふべゆふべゆうべにににははは、、、潯じん潯じんじん陽やう陽やうようののの江え江ええをををおもひおもひおもいやりやりやりててて、、、源げん源げんげん都と都ととのののながれながれながれをををならふならふならう。。。
  5. 5もしもしもしあまりあまりあまりののの興きよう興きようきょうあれあれあればばば、、、しばしばしばしばしばしば松まつ松まつまつのののひゞきひゞきひびきににに秋しう秋しうしゅう風ふう風ふうふうののの樂がく樂がくがくをををたぐへたぐへたぐえ、、、水みづ水みづみずののの音おと音おとおとににに流りう流りうりゅう泉せん泉せんせんのののをををあやつるあやつるあやつる。。。藝げい藝げいげいはははこれこれこれつたなけれつたなけれつたなけれどもどもども、、、人ひと人ひとひとののの耳みみ耳みみみみををを悅よろこ悅よろこよろこばばばしめしめしめむむんとととにににもももあらあらあらずずず。。。ひとりひとりひとりしらべしらべしらべ、、、ひとりひとりひとり詠えい詠えいえいじじじててて、、、みづからみづからみずから心こころ心こころこころををを養やしな養やしなやしなふふうばかりばかりばかりなりなりなり。。。
  6. 6またまたまた麓ふもと麓ふもとふもとににに、、、一ひと一ひとひとつつつののの柴しば柴しばしばののの庵いほり庵いほりいおりありありあり。。。すなはちすなはちすなわちこのこのこの山やま山やまやまもりもりもりががが居を居をおるるる所ところ所ところところなりなりなり。。。かしこかしこかしこににに小こ小ここ童わらは童わらはわらわありありあり、、、時とき時ときとき々どき々どきどき來きた來きたきたりりりてててあひあひあいとぶらふとぶらふとぶらう。。。もしもしもしつれづれつれづれつれづれなるなるなる時とき時ときときははは、、、これこれこれををを友とも友ともともとしてとしてとしてあそびあそびあそびありくありくありく。。。かれかれかれははは十じふ十じふじゅう六ろく六ろくろく歲さい歲さいさい、、、われわれわれははは六ろく六ろくろく十じふ十じふじゅう、、、そのそのその齡よはひ齡よはひよわいことことことののの外ほか外ほかほかなれなれなれどどど、、、心こころ心こころこころををを慰なぐさ慰なぐさなぐさむるむるむることことことはははこれこれこれおなじおなじおなじ。。。
  7. 7あるあるあるはははつばなつばなつばなをををぬきぬきぬき、、、いはなしいはなしいわなしをををとるとるとる。。。またまたまたぬかごぬかごぬかごをををもりもりもり、、、芹せり芹せりせりをををつむつむつむ。。。或あるい或あるいあるいはははすそわすそわすそわののの田た田たた井ゐ井ゐいににに至いた至いたいたりりりててて、、、おちおちおちほほほををを拾ひろ拾ひろひろひひいてててほぐみほぐみほぐみをををつくるつくるつくる。。。もしもしもし日ひ日ひひうらゝかうらゝかうららかなれなれなればばば、、、嶺みね嶺みねみねににによぢよぢよじのぼりのぼりのぼりててて、、、はるかはるかはるかにににふるふるふるさとさとさとののの空そら空そらそらををを望のぞ望のぞのぞみみみ。。。木こ木ここ幡はた幡はたはた山やま山やまやま、、、伏ふし伏ふしふし見み見みみののの里さと里さとさと、、、鳥と鳥とと羽ば羽ばば、、、羽は羽はは束つか束つかつか師し師ししををを見み見みみるるる。。。勝しよう勝しようしょう地ち地ちちはははぬしぬしぬしなけれなけれなければばば、、、心こころ心こころこころををを慰なぐさ慰なぐさなぐさむるむるむるにににさはりさはりさわりなしなしなし。。。
  8. 8あゆみあゆみあゆみわづらひわづらひわずらいなくなくなく、、、志こころざし志こころざしこころざし遠とほ遠とほとおくくくいたるいたるいたる時とき時ときときははは、、、これこれこれよりよりより峯みね峯みねみねつゞきつゞきつづき炭すみ炭すみすみ山やま山やまやまををを越こ越ここえええ、、、笠かさ笠かさかさ取とり取とりとりををを過す過すすぎぎぎててて、、、岩いは岩いはいわ間ま間ままにににまうでまうでもうで、、、或あるい或あるいあるいははは石いし石いしいし山やま山やまやまををををがむをがむおがむ。。。もしはもしはもしは粟あは粟あはあわ津づ津づづののの原はら原はらはらををを分わ分わわけけけててて、、、蟬せみ蟬せみせみ丸まる丸まるまる翁おきな翁おきなおきなががが迹あと迹あとあとをををとぶらひとぶらひとぶらい、、、田た田たた上なかみ上なかみなかみ川がは川がはがわをををわたりわたりわたりててて、、、猿さる猿さるさる丸まる丸まるまる大だ大だだ夫いふ夫いふゆうががが墓はか墓はかはかをををたづぬたづぬたずぬ。。。
  9. 9歸かへ歸かへかえるるるさささにににははは、、、をりをりおりにににつけつけつけつゝつゝつつ櫻さくら櫻さくらさくらをををかりかりかり、、、紅もみ紅もみもみ葉ぢ葉ぢじをををもとめもとめもとめ、、、わらびわらびわらびををを折を折をおりりり、、、木こ木ここののの實み實みみををを拾ひろ拾ひろひろひひいててて、、、かつかつかつははは佛ほとけ佛ほとけほとけににに奉たてまつ奉たてまつたてまつりりりかつかつかつははは家いへ家いへいえづとづとづとにににすすす。。。
  10. 10もしもしもし夜よ夜よよしづかしづかしずかなれなれなればばば、、、窓まど窓まどまどののの月つき月つきつきににに故こ故ここ人じん人じんじんををを忍しの忍しのしのびびび、、、猿さる猿さるさるののの聲こゑ聲こゑこえににに袖そで袖そでそでをををうるほすうるほすうるおす。。。くさむらくさむらくさむらののの螢ほたる螢ほたるほたるははは、、、遠とほ遠とほとおくくく眞ま眞まま木き木ききののの島しま島しましまののの篝かゞり篝かゞりかがり火び火びびにににまがひまがひまがい、、、曉あかつき曉あかつきあかつきののの雨あめ雨あめあめははは、、、おのづからおのづからおのずから木こ木ここののの葉は葉はは吹ふ吹ふふくくくあらしあらしあらしににに似に似ににたりたりたり。。。
  11. 11山やま山やまやま鳥どり鳥どりどりのののほろほろほろほろほろほろととと鳴な鳴ななくくくををを聞き聞きききききてててももも、、、父ちゝ父ちゝちちかかか母はゝ母はゝははかかかとととうたがひうたがひうたがい、、、みねみねみねのののののの近ちか近ちかちかくくくなれなれなれたるたるたるにににつけつけつけてててももも、、、世よ世よよにににとほざかるとほざかるとおざかる程ほど程ほどほどををを知し知ししるるる。。。或あるい或あるいあるいははは埋うづみ埋うづみうずみ火び火びびをををかきかきかきおこしおこしおこしててて、、、老おい老おいおいののの寐ね寐ねね覺ざめ覺ざめざめののの友とも友ともともとととすすす。。。
  12. 12おそろしきおそろしきおそろしき山やま山やまやまならならならねねねどどど、、、ふくろふふくろふふくろうののの聲こゑ聲こゑこえをををあはれむあはれむあわれむにににつけつけつけてててももも、、、山さん山さんさん中ちゆう中ちゆうちゅうののの景けい景けいけい氣き氣きき、、、折をり折をりおりにににつけつけつけてててつくるつくるつくることことことなしなしなし。。。いはむやいはむやいわんや深ふか深ふかふかくくく思おも思おもおもひひい、、、深ふか深ふかふかくくく知し知ししれれれらむらむらん人ひと人ひとひとのののためためためにににははは、、、これこれこれにににしもしもしもかぎるかぎるかぎるべからべからべからずずず。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

その場所の様子を言えば、南に懸樋があり、岩を積み上げて水をためている。林が軒に近いので、焚き木を拾うのに不自由しない。この地の名を外山という。まさきのかずらが道を覆い隠している。谷は木が茂っているけれど、西は開けている。(西方浄土を思う)観念の手がかりがないわけでもない。

春は藤の花が波打つのを見る。紫の雲のように西の方に美しく咲いている。夏はほととぎすを聞く。鳴くたびに、死出の山路の道案内を約束する。秋はひぐらしの声が耳に満ちている。はかない世を悲しんでいるかのように聞こえる。冬は雪をしみじみと味わう。積もっては消えるさまは、(積もっては消える)罪障にたとえることができよう。

もし念仏をするのがおっくうで、読経に身が入らないときは、自分から休み、自分から怠けても、妨げる人もなく、また恥ずかしく思う友もいない。ことさらに無言の行をするわけではないが、独りでいるので、口から出る罪は自然と慎むことになる。必ず戒律を守ろうとするわけでもないが、(破らせるような)環境がないので、何によって戒を破ることがあろうか。

もし、船の通ったあとの白波に身を寄せて(世のはかなさを思う)朝には、岡の屋(宇治川の船着き場)に行き交う船をながめて、満沙弥の歌の風情をまね、もし、桂の木に吹く風が葉を鳴らす夕べには、潯陽の江を思いやって、源都督(源経信)の琵琶の流儀をまねる。

もし興が余れば、たびたび松風の響きに合わせて「秋風楽」を弾き、水の音に合わせて「流泉」の曲を奏でる。芸はつたないけれど、人の耳を喜ばせようというのでもない。独りで弾き、独りで歌って、自分で自分の心を養うだけである。

また麓に、一軒の柴の庵がある。この山の番人が住んでいる所である。そこに小さな男の子がいて、ときどきやって来ては訪ねてくれる。もし何もすることがなく退屈なときは、この子を友として遊び歩く。その子は十六歳、私は六十歳で、その年齢はたいへん違っているけれど、心を慰めることでは同じである。

あるときはつばなを抜き、岩梨をとる。またむかごを採り、芹を摘む。あるときは山すその田に行って、落ち穂を拾って穂組みを作る。もし日がうららかなときは、峰によじ登って、はるかに故郷の都の空を望み、木幡山・伏見の里・鳥羽・羽束師を見る。景色のよい土地には持ち主がないので、心を慰めるのに差し障りがない。

歩くのに苦労がなく、遠くまで行こうという気持ちのときは、ここから峰続きに炭山を越え、笠取を過ぎて、岩間寺に参詣し、あるいは石山寺を拝む。またあるときは粟津の原を分けて行き、蝉丸翁の旧跡を訪ね、田上川を渡って、猿丸大夫の墓を訪ねる。

帰り道には、季節に応じて桜を狩り、紅葉を探し、わらびを折り、木の実を拾って、一方では仏に供え、一方では家への土産にする。

もし夜が静かなときは、窓から月を見て昔の友をしのび、猿の声を聞いて涙で袖をぬらす。草むらの蛍は、遠く槙の島の篝火と見まちがえるほどで、明け方の雨の音は、まるで木の葉を吹き散らす嵐のように聞こえる。

山鳥がほろほろと鳴くのを聞いても、父の声か母の声かと思い、峰の鹿が近くまで寄って来て慣れているのにつけても、世間から遠ざかっている度合いを知る。あるいは埋み火をかき起こして、老人の夜中の寝覚めの友とする。

恐ろしい山ではないけれど、ふくろうの声をしみじみと聞くにつけても、山の中の景色は、季節ごとに尽きることがない。まして深く思い、深く物事を知っている人にとっては、これだけに限るはずもない。

意訳

方丈の庵での暮らしが、四季の景物とともに語られる。春の藤は阿弥陀如来が来迎するときの紫雲に、夏のほととぎすは死出の山路の案内人に、秋のひぐらしははかない世を悲しむ声に、冬の雪は積もっては消える罪障に、とそれぞれ仏教的な意味が重ねられている。自然を楽しむことが、そのまま仏道の修行につながるという考え方である。

しかし作者は、念仏や読経をさぼっても咎める人がいないことも、正直に書いている。独りだから口の罪を犯さず、誘惑がないから戒を破らない、という言い方には、自分の修行が環境のおかげであることを認める、自嘲まじりのユーモアがある。そして朝夕には和歌や琵琶を楽しみ、「人の耳を悅ばしめむとにもあらず」、自分の心を養うためだけに奏でる。

後半は、麓の山守の少年と連れ立って野山を歩く場面である。十六歳と六十歳という年の差を越えて、つばなを抜き、岩梨をとり、落ち穂を拾う。足がよければ炭山や笠取を越えて、石山寺や蝉丸・猿丸大夫ゆかりの地まで出かける。「勝地はぬしなければ」――景色には持ち主がいないから、誰に気兼ねすることもなく楽しめるという一句に、所有から自由になった者の喜びがある。

語釈・文法注

かけひ
懸樋。竹や木をつないで、遠くから水を引く樋。
觀念
心を静めて仏や浄土の姿を思い浮かべる修行。西が開けていることが、西方浄土を思う助けになる。
紫雲
紫色の雲。阿弥陀如来が臨終の人を迎えに来るとき、紫の雲に乗って来るとされた。
死出の山路
死後に越えるという険しい山の道。ほととぎすはその道を往来する鳥とされた。
無言
一定の期間、ものを言わずに過ごす修行。
くごふ
口業。口による罪。うそ・悪口・二枚舌・飾りことばの四つ。
滿沙彌
奈良時代の僧、沙弥満誓。『拾遺和歌集』の「世の中を何にたとへむ朝ぼらけこぎ行く舟のあとの白波」で知られる。
源都督
平安後期の歌人・琵琶の名手、源経信。大宰権帥(都督)として大宰府で没した。
流泉の曲
琵琶の秘曲の一つ。前の「秋風の樂」も琵琶の曲名。
かせき
鹿。

文法

「罪障にたとへつべし」
「つべし」は、完了(強意)の助動詞「つ」の終止形+推量の助動詞「べし」で、きっと…できる、…してしまうにちがいない、の意。
「何につけてか破らむ」
「か」は反語。何によって破ることがあろうか、破ることはない。
「はるかにふるさとの空を望み。」
底本は「望み」のあとに句点を置く。文脈からは「望み、木幡山…を見る」と続けて読む。
「深く知れらむ人」
「らむ」は完了・存続の助動詞「り」の未然形「ら」+推量の助動詞「む」の連体形。深く物事を知っているような人。

解説

庵の周りの名所として挙げられる木幡山・伏見・鳥羽・羽束師は、日野山から西に見下ろせる京都南部の地名で、炭山・笠取・岩間・石山・粟津・田上川は、東の山を越えた近江(滋賀県)方面の地名である。作者は日野を起点に、宇治・醍醐から近江の石山寺あたりまで、かなりの距離を歩いていたことになる。

蝉丸は逢坂の関に住んだという琵琶の名手で、百人一首にも「これやこの行くも帰るも別れては」の歌がある。猿丸大夫も百人一首の「奥山に紅葉ふみわけ鳴く鹿の」の作者とされる。琵琶をたしなみ、和歌を詠んだ作者にとって、二人の旧跡を訪ねることは特別な意味があったのだろう。

「山鳥のほろほろと鳴くを聞きても、父か母かとうたがひ」は、行基の作と伝える「山鳥のほろほろと鳴く声聞けば父かとぞ思ふ母かとぞ思ふ」(『玉葉和歌集』)を踏まえている。このように、この章には和歌や漢詩の引用が数多く織り込まれていて、作者の教養の深さがうかがえる。

関連

出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(方丈記) 板倉屋書房、明治36年(1903)、550–551頁(コマ287)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日