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源氏物語 第53帖 手習(39)

小宰相の打ち明け

登場人物:薫・明石の中宮・小宰相の君・匂宮

薫が「聖の住まいと思われました」と申し上げなさると、中宮はあのこと(僧都の話)をお思い出しになって、たいそう気の毒なので、「そこに恐ろしいものが住んでいるのでしょうか。どのようにしてあの人は亡くなったのですか」とお尋ねになるのを、薫は、やはり大君に続いて亡くなったことをお思い寄りになったのかと思って、「そうでございましょう。そのような人里離れた所には、良くないものが必ず住みつきますが、亡くなりました様子がたいそう不思議でございます」と言って、詳しくは申し上げなさらない。中宮は、やはりこのように薫が忍んでいる筋のことを聞き知ってしまったとお思いになるのが気の毒にお思いになり、また宮(匂宮)が物思いばかりなさって、その頃病気になりなさったのを思い合わせるにつけても、さすがに心苦しくて、どちらの方にも口を挟みにくい人の身の上だとお思いとどまった。中宮は小宰相に忍んで、「大将があの人のことをたいそう哀れと思っておっしゃったので、気の毒で打ち明けるべきだったけれど、その人でもないかもしれないのにと気が引けて。あなたこそ詳しく聞き合わせたのだから、不都合なことは隠して、こういうことがあったと、大方の話のついでに僧都が言ったことを語りなさい」とおっしゃる。小宰相は「御前でさえ遠慮なさることを、まして他人がどうして」と申し上げるが、中宮が「事情はさまざまなのです。また私には気の毒なこと(匂宮のこと)があるのですよ」とおっしゃるのも、小宰相は合点して、趣深いと拝見する。薫が立ち寄って話などをなさるついでに、小宰相は言い出した。どうして珍しく不思議なことと驚かれないことがあろうか。中宮がお尋ねになったのも、このことにうすうすお気づきになっていたからだった、どうしてすっかりおっしゃってくださらなかったのかとつらいが、自分もまた初めからありのままのことを申し上げていなかったので、聞いた後もやはり愚かしい心地がして、人に全く漏らさないのに、かえって他所では噂されていることもあるのだろう、現実の人々の中で忍ぶことでさえ隠れることのある世の中だろうかなどと深く思って、この人にも、こういうことがあったと打ち明けなさるのはやはり口が重い心地がして、「やはり不思議だと思った人のことに似ている人の有様だな。

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引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

「聖の住まいと思われました」と申し上げなさると、あのことをお思い出しになって、たいそう気の毒なので、「そこに恐ろしいものが住んでいるのでしょうか。どのようにしてあの人は亡くなったのですか」とお尋ねになるのを、やはり続いて亡くなったことをお思い寄りになったのかと思って、「そうでございましょう。そのような人里離れた所には、良くないものが必ず住みつきますが、亡くなりました様子がたいそう不思議でございます」と言って、詳しくは申し上げなさらない。やはりこのように忍んでいる筋のことを聞き知ってしまったとお思いになるのが気の毒にお思いになり、宮が物思いばかりなさって、その頃病気になりなさったのを思い合わせるにつけても、さすがに心苦しくて、どちらの方にも口を挟みにくい人の身の上だとお思いとどまった。小宰相に忍んで、「大将があの人のことをたいそう哀れと思っておっしゃったので、気の毒で打ち明けるべきだったけれど、その人でもないかもしれないのにと気が引けて。あなたこそ事情を聞き合わせたのだから、不都合なことは隠して、こういうことがあったと、大方の話のついでに僧都が言ったことを語りなさい」とおっしゃる。

「御前でさえ遠慮なさることを、まして他人がどうして」と申し上げるが、「事情はさまざまなのです。また私には気の毒なことがあるのですよ」とおっしゃるのも、合点して、趣深いと拝見する。立ち寄って話などをなさるついでに言い出した。どうして珍しく不思議なことと驚かれないことがあろうか。宮がお尋ねになったのも、このことにうすうすお気づきになっていたからだった、どうしてすっかりおっしゃってくださらなかったのかとつらいが、自分もまた初めからありのままのことを申し上げていなかったので、聞いた後もやはり愚かしい心地がして、人に全く漏らさないのに、かえって他所では噂されていることもあるのだろう、現実の人々の中で忍ぶことでさえ隠れることのある世の中だろうかなどと深く思って、この人にも、こういうことがあったと打ち明けなさるのはやはり口が重い心地がして、「やはり不思議だと思った人のことに似ている人の有様だな。

意訳

中宮は、宇治で浮舟がどう亡くなったのかを尋ねるが、薫は詳しくは語らない。中宮は、薫と匂宮の双方に関わることなので口を挟みにくいと思い、小宰相の君に、僧都の話をそれとなく薫に伝えるよう命じる。小宰相が話すと、薫は驚き、中宮が尋ねたのもこのためだったと知る。薫は、自分も浮舟とのことをありのままに話していなかったので、小宰相にも詳しく打ち明けにくく思う。

語釈・文法注

文法

「うちつゞきたる」(猶うちつゞきたるをおぼしよるか)
大君に続いて浮舟も亡くなったこと。
「口入れにくき」(かたがたに口入れにくき人のうへ)
口出ししにくい。薫と匂宮の双方に関わる。
「まろはいとほしき事ぞある」(又まろはいとほしき事ぞあるや)
中宮は匂宮の母なので、匂宮の過ちに触れることになるのが気の毒である。

解説

中宮は、薫と匂宮の双方への配慮から、自ら浮舟のことを伝えず、小宰相の君を介する。宮廷の人間関係の機微が描かれている。

薫は浮舟の生存を知って驚くが、自分の恋の秘密を守るため、小宰相の君にも口が重い。浮舟をめぐる真実は、人々の思惑の中で少しずつ明らかになっていく。

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出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1232–1233頁(コマ327)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日