源氏物語 第53帖 手習(32)
法服を贈る僧都
僧都が「その女は、このような人が世に生きているとも知られまいと、良くない敵めいた人もいるように仕向けて隠れ忍んでおりますのを、事の様子が不思議なので申し上げるのです」と、なかば隠す様子なので、宰相の君は人にも語らない。中宮は「それかもしれない。大将に聞かせたい」と、この宰相の君にはおっしゃるが、どちらにも隠すべき事情があるのだろうと考え、そうであるとも分からないまま、気の置ける大将に打ち明けておっしゃるのも気が引けるとお思いになって、そのままになった。姫宮(一品の宮)がすっかり快復なさって、僧都も山に上った。小野にお寄りになると、妹尼はひどく恨んで、「かえってこのようなお姿で罪も得るはずのことを、ご相談もなさらずになってしまったのが、たいそう不審です」などとおっしゃるが、甲斐もない。僧都は浮舟に「今はただ勤行をなさい。老いた者も若い者も定めない世です。はかないものと悟りなさったのも、もっともなお身の上ですね」とおっしゃるにつけても、浮舟はたいそう恥ずかしく思われた。「法服を新しくお召しなさい」と言って、綾、羅、絹などという物を差し上げて置きなさる。「私がおります限りはお世話いたしましょう。何をお悩みになることがありましょう。無常の世に生まれ出て、世間の栄華に願いまといつかれている限りは、窮屈で捨てがたく、自分も人もお思いになるようですが、このような林の中で勤行なさる身は、何を恨めしくも恥ずかしくもお思いになることがありましょう。この命は葉の薄いようなもの(はかないもの)です」と言い聞かせて、「松門に暁到りて月徘徊す」と、法師ながらたいそう由緒ありげで気の置ける様子でおっしゃることどもを、浮舟は、思うとおりに言い聞かせてくださるものだと聞いている。今日は一日中吹く風の音もたいそう心細いのに、おいでになった僧都も「ああ、山伏はこのような日にこそ声をあげて泣くということだ」と言うのを聞いて、浮舟は、私も今は山伏なのだ、もっともなことで止まらない涙なのだと思いながら、端の方に出て見ると、遥かな軒端から、狩衣姿の人々がさまざまの色で入り交じって見える。
- 1僧僧そう都都ずもももかゝるかゝるかかる人人ひと世世よにににあるあるあるものものものともともとも知知しららられれれじじじとととよくよくよくもももあらあらあらぬぬぬかたきかたきかたきだちだちだちたるたるたる人人ひともももあるあるあるやうやうようにににおもむけおもむけおもむけてててかくしかくしかくし忍忍しのびびび侍侍はべるるるををを、、、事事ことのののさまさまさまののの怪怪あやしけれしけれしければばばけいしけいしけいし侍侍はべるるるなりなりなりととと、、、なまなまなまがくすがくすがくす氣色氣色けしきなれなれなればばば人人ひとにににももも語語かたらららずずず「「「宮宮みやはははそれそれそれにににもももこそこそこそあれあれあれ。。。大大だい將將しょうににに聞聞きかかかせせせばやばやばや」」」とととこのこのこの人人ひとにににぞぞぞのたまはすれのたまはすれのたまわすれどどど、、、いづいづいずかたかたかたにににももも隱隱かくすすすべきべきべき事事ことををを定定さだめめめててて、、、さささならならならむむんともともとも知知しらららずずずながらながらながら耻耻はずかしげしげしげなるなるなる人人ひとにににうちうちうち出出いでででのたまはのたまはのたまわせせせむむんもももつゝましくつゝましくつつましくおぼしおぼしおぼしてててやみやみやみにににけりけりけり。。。姫姫ひめ宮宮みやをこたりをこたりおこたりはてはてはてさせさせさせ給給たまひひいててて僧僧そう都都ずももものぼりのぼりのぼりぬぬぬ。。。かしこかしこかしこににに寄寄よりりり給給たまへへえれれればばばいみじくいみじくいみじく恨恨うらみみみててて「「「なかなかなかなかなかなかかゝるかゝるかかる御御おん有有あり樣樣さまにてにてにて罪罪つみももも得得えぬぬぬべきべきべきとととをををのたまひのたまひのたまいもももあはせあはせあわせずずずなりなりなりにににけるけるけることことことをををなむなむなん、、、いといといと怪怪あやしきしきしき」」」などなどなどのたまへのたまへのたまえどどどかひかひかいなしなしなし。。。「「「今今いまははは唯唯ただ御御おん行行おこなひひいをををししし給給たまへへえ、、、老老おいいいたるたるたる若若わかききき定定さだめめめなきなきなき世世よなりなりなり。。。はかなきはかなきはかなきものものものにににおぼしおぼしおぼしとりとりとりたるたるたるもももことわりことわりことわりなるなるなる御御おん身身みをををややや」」」とととのたまふのたまふのたまうにににもももいといといと恥恥はずかしくしくしくなむなむなん覺覺おぼえええけるけるける。。。
- 2「「「御御おん法法ほう服服ぶく新新あたらしくしくしくききき給給たまへへえ」」」とてとてとて綾綾あや、、、羅羅うすもの、、、衣衣きぬなどなどなどいふいふいう物物もの奉奉たてまつりりりおきおきおき給給たまふふう。。。「「「某某なにがしががが侍侍はべらららむむんかぎりかぎりかぎりははは仕仕つこうううまつりまつりまつりなななむむん。。。なになになにかかかおぼしおぼしおぼし煩煩わずらふふうべきべきべき。。。常常つねなきなきなき世世よににに生生おひひい出出いでででゝゝて世世せ間間けんののの榮榮えい花花がににに願願ねがひひいまつはるゝまつはるゝまつわるるかぎりかぎりかぎりなむなむなん所所ところせくせくせく捨捨すてててがたくがたくがたく我我われれれももも人人ひともももおぼすおぼすおぼすべかべかべかめるめるめることことことなななめるめるめる。。。かゝるかゝるかかる林林はやしののの中中なかににに行行おこなひひい勤勤つとめめめ給給たまははわむむん身身みははは何何なに事事ことかかかはははうらめしくうらめしくうらめしくももも恥恥はずかしくしくしくもももおぼすおぼすおぼすべきべきべき。。。このこのこのあらあらあらむむん命命いのちははは葉葉はののの薄薄うすきききががが如如ごとししし」」」ととといひいひいい知知しらせらせらせててて「「「松松しょう門門もんににに曉曉あかつきいたりいたりいたりててて月月つき徘徘はい徊徊かいすすす」」」ととと法法ほう師師しなれなれなれどどどいといといとよしよししうよしよししうよしよししゅう恥恥はずかしげしげしげなるなるなるさまさまさまにてにてにてのたまふのたまふのたまう事事ことどもどもどもををを、、、思思おもふふうやうやうようにににもももいひいひいい聞聞きかせかせかせ給給たまふふうかなかなかなととと聞聞きききき居居いたりたりたり。。。今日今日きょうはははひねもすひねもすひねもすににに吹吹ふくくく風風かぜののの音音おともももいといといと心心こころぼそきぼそきぼそきにににおはしおはしおわしたるたるたる人人ひとももも「「「あはれあはれあわれ山山やま伏伏ぶしはははかゝるかゝるかかる日日ひにににぞぞぞねねねはははなかなかなかるるるなるなるなるかしかしかし」」」ととといふいふいうををを聞聞ききききててて、、、我我われれれももも今今いまははは山山やま伏伏ぶしぞぞぞかしかしかし、、、ことわりことわりことわりにににとまらとまらとまらぬぬぬ淚淚なみだなりなりなりけりけりけりととと思思おもひひいつゝつゝつつ端端はしののの方方かたににに立立たちちちいでいでいでゝゝて見見みれれればばば、、、遙遙はるかなるなるなる軒軒のき端端ばよりよりより狩狩かり衣衣ぎぬ姿姿すがたいろいろいろいろいろいろにににたちたちたちまじりまじりまじりててて見見みゆゆゆ。。。
現代語訳
「このような人が世に生きているとも知られまいと、良くない敵めいた人もいるように仕向けて隠れ忍んでおりますのを、事の様子が不思議なので申し上げるのです」と、なかば隠す様子なので、人にも語らない。「それかもしれない。大将に聞かせたい」と、この人にはおっしゃるが、どちらにも隠すべき事情があるのだろうと考え、そうであるとも分からないまま、気の置ける人に打ち明けておっしゃるのも気が引けるとお思いになって、そのままになった。姫宮がすっかり快復なさって、僧都も山に上った。あちらにお寄りになると、ひどく恨んで、「かえってこのようなお姿で罪も得るはずのことを、ご相談もなさらずになってしまったのが、たいそう不審です」などとおっしゃるが、甲斐もない。「今はただ勤行をなさい。老いた者も若い者も定めない世です。はかないものと悟りなさったのも、もっともなお身の上ですね」とおっしゃるにつけても、たいそう恥ずかしく思われた。
「法服を新しくお召しなさい」と言って、綾、羅、絹などという物を差し上げて置きなさる。「私がおります限りはお世話いたしましょう。何をお悩みになることがありましょう。無常の世に生まれ出て、世間の栄華に願いまといつかれている限りは、窮屈で捨てがたく、自分も人もお思いになるようですが、このような林の中で勤行なさる身は、何を恨めしくも恥ずかしくもお思いになることがありましょう。この命は葉の薄いようなものです」と言い聞かせて、「松門に暁到りて月徘徊す」と、法師ながらたいそう由緒ありげで気の置ける様子でおっしゃることどもを、思うとおりに言い聞かせてくださるものだと聞いている。今日は一日中吹く風の音もたいそう心細いのに、おいでになった人も「ああ、山伏はこのような日にこそ声をあげて泣くということだ」と言うのを聞いて、私も今は山伏なのだ、もっともなことで止まらない涙なのだと思いながら、端の方に出て見ると、遥かな軒端から、狩衣姿の人々がさまざまの色で入り交じって見える。
意訳
僧都は、女が身を隠しているらしいとほのめかし、中宮は薫に知らせたいと思うが、確証もなく気が引けて言い出せない。一品の宮が快復し、僧都は山へ帰る途中で小野に寄る。妹尼は相談もなく出家させたことを恨む。僧都は浮舟に、ただ勤行に励むよう説き、法服の布を贈る。無常の世で林の中に勤める身に恨みも恥もないと諭し、白楽天の詩を口ずさむ。浮舟は、自分も今は山伏なのだと思って涙する。端近に出ると、遠くに狩衣姿の人々が見える。
語釈・文法注
文法
- 「なまがくす」(なまがくす氣色なれば人にも語らず)
- なかば隠す。
- 「松門に曉いたりて月徘徊す」(「松門に曉いたりて月徘徊す」と)
- 白楽天「陵園妾」の一節。松の門に暁が来て月がさまよう。幽閉された宮女の境遇を詠む。
- 「山伏はかゝる日にぞねはなかるなる」(あはれ山伏はかゝる日にぞねはなかるなるかし)
- 「山伏」は山野で修行する僧。出典の古歌があるとされる。
解説
中宮は薫に知らせることをためらう。薫への遠慮と確証のなさが、浮舟の生存の発覚を遅らせる。
僧都は「陵園妾」の詩句を引いて浮舟を慰める。俗世から隔てられた浮舟の境遇は、陵墓に幽閉された宮女の境遇に重ねられている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1224–1225頁(コマ323)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日