源氏物語 第53帖 手習(29)
二度捨てた世
翌朝は、さすがに人の許さないことなので、変わった姿を見られるのもたいそう恥ずかしく、髪の裾が急にばらけたように、しどけなくさえ削がれているのを、厄介なことを言わずに繕ってくれる人がいればよいと、何事につけても気が引けて、部屋を暗くしていらっしゃる。思うことを人に言い続ける言葉は、もとからさえはかばかしくない身なのに、まして親しく理解してくれるはずの人さえいないので、ただ硯に向かって、思いのある折には手習ばかりを精一杯のこととして書きつけなさる。「亡き者と身をも人をも思いながら捨ててしまった世を、さらにまた捨てたことよ。今はこうして終わりにしたのだ」と書いても、やはり自分ではたいそう哀れとご覧になる。「限りと思うようになった世の中を、重ね重ね背いたことよ」。同じ筋のことをあれこれと書きすさんでいらっしゃると、中将からお手紙がある。尼たちは騒がしくあきれた心地でいる時なので、このようなこと(出家)などを言ってしまった。中将はたいそうあっけないと思って、このような心が深くあった人なので、ちょっとした返事もし始めまいと思い離れていたのだったと思う。それにしてもあっけないことだ、たいそう美しく見えた髪の様子をはっきり見せよと先夜も頼んだところ、然るべき折にと言ったのに、とたいそう残念で、折り返し申し上げるのは、「岸遠く漕ぎ離れていくらしい尼舟に、乗り遅れまいと私も急がれることだ」。浮舟はいつになく手に取ってご覧になる。物の哀れな折に、今はこれまでと思うのも哀れではあるものの、どうお思いになるのだろう。たいそうはかない紙の端に、「心こそ憂き世の岸を離れたけれど、行方も知らぬ海人の浮き木のような身であることよ」と、いつもの手習にお書きになったのを包んで差し上げる。少将の尼が「せめて書き写してでも」とおっしゃるが、浮舟は「かえって書き損じてしまいましょう」と言って送った。中将は珍しい返事にも、言いようもなく悲しく思われた。参詣の人(妹尼)がお帰りになって、思い騒ぎなさることはこの上ない。
- 1つとめてつとめてつとめてはははさすがさすがさすがににに人人ひとののの許許ゆるさささぬぬぬことことことなれなれなればばば變變かわりりりたらたらたらむむんさまさまさま見見みえええむむんもももいといといと恥恥はずかしくしくしく、、、髮髮かみのののすそすそすそののの俄俄にわかにににおほどれおほどれおおどれたるたるたるやうやうようにににしどけなくしどけなくしどけなくさへさへさへそがそがそがれれれたるたるたるををを、、、むつかしきむつかしきむつかしき事事ことどもどもどもいはいはいわでででつくろはつくろはつくろわむむん人人ひともももがながながなととと、、、何何なに事事ことにににつけつけつけてててもももつゝましくつゝましくつつましくてててくらうくらうくろうしししなしなしなしててておはすおはすおわす。。。思思おもふふうことことことををを人人ひとにににいひいひいいつゞけつゞけつづけむむん言言ことののの葉葉ははははもともともとよりよりよりだにだにだにはかばかしからはかばかしからはかばかしからぬぬぬ身身みををを、、、まいてまいてまいて懷懷なつかしくかしくかしくことはることはることわるべきべきべき人人ひとさへさへさへなけれなけれなければばば唯唯ただ硯硯すずりににに向向むかひひいててて思思おもひひいあるあるあるをりをりおりにににははは手手て習習ならいをををのみのみのみ、、、たけきたけきたけきことことことゝゝとははは書書かきききつけつけつけ給給たまふふう。。。「「「なきなきなきものものものににに身身みをををももも人人ひとをををももも思思おもひひいつゝつゝつつ捨捨すてててゝゝてししし世世よをををぞぞぞさらにさらにさらにすてすてすてつるつるつる。。。今今いまはははかくかくかくててて限限かぎりりりつるつるつるぞぞぞかしかしかし」」」ととと書書かきききてててももも猶猶なおみづからみづからみずからはははいといといとあはれあはれあわれととと見見み給給たまふふう。。。「「「かぎりかぎりかぎりぞぞぞととと思思おもひひいなりなりなりにににししし世世よののの中中なかをををかへすがへすかへすがへすかえすがえすもももそむきそむきそむきぬるぬるぬるかなかなかな」」」。。。同同おなじじじすぢすぢすじのののことことことをををとかくとかくとかく書書かきききすさびすさびすさび居居い給給たまへへえるるるににに中中ちゅう將將じょうののの御御おん文文ふみありありあり。。。
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現代語訳
翌朝は、さすがに人の許さないことなので、変わった姿を見られるのもたいそう恥ずかしく、髪の裾が急にばらけたように、しどけなくさえ削がれているのを、厄介なことを言わずに繕ってくれる人がいればよいと、何事につけても気が引けて、部屋を暗くしていらっしゃる。思うことを人に言い続ける言葉は、もとからさえはかばかしくない身なのに、まして親しく理解してくれるはずの人さえいないので、ただ硯に向かって、思いのある折には手習ばかりを精一杯のこととして書きつけなさる。「亡き者と身をも人をも思いながら捨ててしまった世を、さらにまた捨てたことよ。今はこうして終わりにしたのだ」と書いても、やはり自分ではたいそう哀れとご覧になる。「限りと思うようになった世の中を、重ね重ね背いたことよ」。同じ筋のことをあれこれと書きすさんでいらっしゃると、中将からお手紙がある。
騒がしくあきれた心地でいる時なので、このようなことなどを言ってしまった。たいそうあっけないと思って、このような心が深くあった人なので、ちょっとした返事もし始めまいと思い離れていたのだった。それにしてもあっけないことだ、たいそう美しく見えた髪の様子をはっきり見せよと先夜も頼んだところ、然るべき折にと言ったのに、とたいそう残念で、折り返し申し上げるのは、「岸遠く漕ぎ離れていくらしい尼舟に、乗り遅れまいと私も急がれることだ」。いつになく手に取ってご覧になる。物の哀れな折に、今はこれまでと思うのも哀れではあるものの、どうお思いになるのだろう。たいそうはかない紙の端に、「心こそ憂き世の岸を離れたけれど、行方も知らぬ海人の浮き木のような身であることよ」と、いつもの手習にお書きになったのを包んで差し上げる。「せめて書き写してでも」とおっしゃるが、「かえって書き損じてしまいましょう」と言って送った。珍しい返事にも、言いようもなく悲しく思われた。参詣の人がお帰りになって、思い騒ぎなさることはこの上ない。
意訳
出家した翌朝、浮舟は不揃いに削がれた髪を恥ずかしく思い、部屋を暗くしている。思いを語る相手もない浮舟は、硯に向かって、二度も世を捨てたと手習に書きつける。中将から手紙が来て、尼たちが出家を知らせると、中将は落胆し、尼舟に乗り遅れまいと急がれると詠む。浮舟はいつになく手紙を手に取り、心は憂き世を離れたが行方も知れぬ浮き木のような身だと返す。初瀬から帰った妹尼は大いに嘆き騒ぐ。
語釈・文法注
文法
- 「おほどれたる」(髮のすその俄におほどれたるやうに)
- ばらける、乱れる。
- 「たけきこと」(手習をのみ、たけきことゝは書きつけ給ふ)
- 精一杯できること。
- 「あま船」(岸遠くこぎはなるらむあま船に)
- 海人の舟に「尼」を掛ける。
- 「あまのうき木」(行くへも知らぬあまのうき木を)
- 海に漂う流木。「あま」に「尼」を掛け、行方定めぬ身を喩える。
解説
浮舟は「捨てゝし世をぞさらにすてつる」と詠む。入水によって一度捨てた世を、出家によって再び捨てた浮舟の心境が、手習の歌に凝縮されている。
浮舟は中将の歌に初めて返事をする。出家した今は、恋の筋から離れて、心を交わすことができるようになったのである。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1220–1223頁(コマ321–322)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日