源氏物語 第53帖 手習(27)
髪を下ろす
僧都は、不思議なことに、このような容貌や有様の人が、どうして身を厭わしく思い始めなさったのだろう、物の怪もそのように言っていたなと思い合わせると、然るべきわけがあるのだろう、今まで生きているはずの人だっただろうか、悪いものが見つけ始めたのに、たいそう恐ろしく危ないことだとお思いになって、「ともかくもお思い立ちになっておっしゃるのを、三宝がたいそう尊くお褒めになることです。法師として反対申し上げるべきことではありません。御戒はたいそうたやすくお授け申し上げられますが、急なことで下山しましたので、今夜はあの一品の宮に参上しなければなりません。明日から御修法が始まるでしょう。七日が終わって退出する時にお勤めしましょう」とおっしゃるので、浮舟は、あの妹尼がいらっしゃったら必ず言って妨げるだろうとたいそう残念で、気分の悪かった時のようなふりをして、「たいそう苦しゅうございますので、重くなったら戒を受けても甲斐がなくなりましょう。やはり今日は嬉しい折と存じます」と言ってひどくお泣きになるので、僧都は聖の心にたいそう気の毒に思って、「夜も更けたでしょう。山から下りますことを、昔は何とも思いませんでしたが、年が老いるにつれては堪えがたくなりましたので、一休みして内裏には参上しようと思いますが、そのようにお急ぎになることなので、今日お勤めしましょう」とおっしゃるので、浮舟はたいそう嬉しくなった。鋏を取って櫛の箱の蓋を差し出すと、僧都は「どこにいる、大徳たち、ここへ」と呼ぶ。初めに浮舟を見つけ申し上げた二人がともに来ていたので、呼び入れて「御髪をお下ろし申し上げよ」と言う。本当にひどかった人の御有様なので、俗人として世にいらっしゃるのもつらいことだろうと、この阿闍梨ももっともに思うが、几帳の帷子のほころびから御髪をかき出しなさったのが、たいそう惜しく美しげなので、しばらくは鋏を持ってためらっていた。
- 1怪怪あやしくしくしくかゝるかゝるかかるかたちかたちかたち有有あり樣樣さまをををなどなどなどててて身身みををを厭厭いとははわしくしくしく思思おもひひいはじめはじめはじめ給給たまひひいけむけむけん、、、ものものものゝゝのけけけもももさささこそこそこそいふいふいうなりなりなりしかしかしかととと思思おもひひいあはするあはするあわするににに、、、さるさるさるやうやうようこそこそこそはははあらあらあらめめめ、、、今今いままでまでまで生生いきききたるたるたるべきべきべき人人ひとかかかははは悪悪あしきしきしきものものものゝゝの見見みつけつけつけそめそめそめたるたるたるにににいといといと恐恐おそろしくしくしく危危あやうききき事事ことなりなりなりとととおぼしおぼしおぼしててて「「「とまれとまれとまれかくまれかくまれかくまれおぼしおぼしおぼし立立たちちちてててのたまふのたまふのたまうををを三三さん寳寳ぼうのののいといといとかしこくかしこくかしこくほめほめほめ給給たまふふうことことことなりなりなり。。。法法ほう師師しにてにてにて聞聞きこえええ返返かえすすすべきべきべき事事ことにににあらあらあらずずず。。。御御おん忌忌いむむむことことことはははいといといと易易やすくくく授授さずけけけ奉奉たてまつるるるべきべきべきををを急急きゅうなるなるなることことことにてにてにて罷罷まか出出でたれたれたればばば今今こ宵宵よいはははかのかのかの宮宮みやににに參參まいるるるべくべくべく侍侍はべりりり。。。明日明日あすよりよりよりややや御御み修修ず法法ほうはじまるはじまるはじまるべくべくべく侍侍はべらららむむん。。。七七なの日日かはてはてはてゝゝてまかでまかでまかでむむんににに仕仕つこうううまつらまつらまつらむむん」」」とととのたまへのたまへのたまえばばば、、、かのかのかの尼尼あま君君ぎみおはしおはしおわしなななばばば必必かならずずずいひいひいい妨妨さまたげげげてててむむんととといといといと口口くち惜惜おしくしくしくててて、、、みだりみだりみだり心地心地ここちあしかりあしかりあしかりししし程程ほどにににしししたるたるたるやうやうようにてにてにて「「「いといといと苦苦くるしくしくしく侍侍はべれれればばば重重おもくくくならならならばばば忌忌いむむむことことことかひかひかいなくなくなくややや侍侍はべらららむむん。。。猶猶なお今日今日きょうははは嬉嬉うれしきしきしき折折おりとととこそこそこそ思思おもひひい侍侍はべれれれ」」」とてとてとていみじくいみじくいみじく泣泣なききき給給たまへへえばばば聖聖ひじり心心こころにににいといといといとほしくいとほしくいとおしく思思おもひひいててて「「「夜夜よややや更更ふけけけ侍侍はべりりりぬぬぬらむらむらん。。。山山やまよりよりよりおりおりおり侍侍はべるるることことこと昔昔むかしはははことことこととととももも覺覺おぼえええ給給たまははわざりざりざりしししををを、、、年年としののの老老おゆるゆるゆるまゝまゝままにににははは堪堪たへへえ難難がたくくく侍侍はべりりりけれけれければばばうちうちうち休休やすみみみててて內內うちにににははは參參まいらららむむんととと思思おもひひい侍侍はべるるるををを、、、しかしかしかおぼしおぼしおぼし急急いそぐぐぐことことことなれなれなればばば今日今日きょう仕仕つこうううまつりまつりまつりてててむむん」」」とととのたまふのたまふのたまうにににいといといと嬉嬉うれしくしくしくなりなりなりぬぬぬ
- 2鋏鋏はさみとりとりとりててて櫛櫛くしののの箱箱はこののの蓋蓋ふたさしさしさし出出いでででたれたれたればばば、、、「「「いづらいづらいずら大大だい德德とこ達達たちこゝこゝここににに」」」ととと呼呼よぶぶぶ。。。初初はじめめめ見見みつけつけつけ奉奉たてまつりりりししし二二ふた人人りながらながらながら共共ともにににありありありけれけれければばば呼呼よびびび入入いれれれててて「「「御御み髮髮ぐしおろしおろしおろし奉奉たてまつれれれ」」」ととといふいふいう。。。げにげにげにいみじかりいみじかりいみじかりししし人人ひとののの御御おん有有あり樣樣さまなれなれなればばばうつしうつしうつし人人びとにてにてにてははは世世よにににおはせおはせおわせむむんもももうたてうたてうたてこそこそこそあらあらあらめめめとととこのこのこの阿阿あ闍闍ざ梨梨りもももことわりことわりことわりににに思思おもふふうににに、、、几几き帳帳ちょうののの帷帷かた子子びらのののほころびほころびほころびよりよりより御御み髮髮ぐしをををかきかきかきいだしいだしいだし給給たまへへえるるるがががいといといとあたらしくあたらしくあたらしくをかしげをかしげおかしげなるなるなるににになむなむなん、、、しばししばししばしははは鋏鋏はさみをををもてもてもてやすらひやすらひやすらいけるけるける。。。
現代語訳
不思議なことに、このような容貌や有様の人が、どうして身を厭わしく思い始めなさったのだろう、物の怪もそのように言っていたなと思い合わせると、然るべきわけがあるのだろう、今まで生きているはずの人だっただろうか、悪いものが見つけ始めたのに、たいそう恐ろしく危ないことだとお思いになって、「ともかくもお思い立ちになっておっしゃるのを、三宝がたいそう尊くお褒めになることです。法師として反対申し上げるべきことではありません。御戒はたいそうたやすくお授け申し上げられますが、急なことで下山しましたので、今夜はあの宮に参上しなければなりません。明日から御修法が始まるでしょう。七日が終わって退出する時にお勤めしましょう」とおっしゃるので、あの尼君がいらっしゃったら必ず言って妨げるだろうとたいそう残念で、気分の悪かった時のようなふりをして、「たいそう苦しゅうございますので、重くなったら戒を受けても甲斐がなくなりましょう。やはり今日は嬉しい折と存じます」と言ってひどくお泣きになるので、聖の心にたいそう気の毒に思って、「夜も更けたでしょう。山から下りますことを、昔は何とも思いませんでしたが、年が老いるにつれては堪えがたくなりましたので、一休みして内裏には参上しようと思いますが、そのようにお急ぎになることなので、今日お勤めしましょう」とおっしゃるので、たいそう嬉しくなった。
鋏を取って櫛の箱の蓋を差し出すと、「どこにいる、大徳たち、ここへ」と呼ぶ。初めに見つけ申し上げた二人がともに来ていたので、呼び入れて「御髪をお下ろし申し上げよ」と言う。本当にひどかった人の御有様なので、俗人として世にいらっしゃるのもつらいことだろうと、この阿闍梨ももっともに思うが、几帳の帷子のほころびから御髪をかき出しなさったのが、たいそう惜しく美しげなので、しばらくは鋏を持ってためらっていた。
意訳
僧都は、物の怪の言葉を思い合わせ、浮舟の出家にはわけがあるのだろうと考える。僧都は、今夜は一品の宮のもとに参上しなければならないので、受戒は七日の修法の後にしようと言う。浮舟は妹尼が戻れば妨げられると思い、重病になってからでは甲斐がないと泣いて訴える。僧都は気の毒に思い、今日戒を授けることにする。浮舟が鋏と櫛の箱の蓋を差し出すと、僧都は弟子の阿闍梨たちを呼ぶ。浮舟が几帳のほころびから髪をかき出すと、そのあまりの美しさに、阿闍梨はしばらく鋏を入れるのをためらう。
語釈・文法注
文法
- 「三寳」(三寳のいとかしこくほめ給ふことなり)
- 三宝。仏・法・僧。
- 「うつし人」(うつし人にては世におはせむもうたてこそあらめ)
- 現し人。正気の人、俗世の人。
- 「帷子」(几帳の帷子のほころびより)
- 几帳に掛ける布。
解説
浮舟は、妹尼の不在を好機として、強く出家を迫る。重病を装ってまで受戒を急ぐ姿に、浮舟の固い決意が表れている。
几帳のほころびからかき出された黒髪の美しさに、阿闍梨さえ鋏をためらう。浮舟の美しさが、出家の痛ましさをいっそう際立たせている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1218–1221頁(コマ320–321)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日