源氏物語 第53帖 手習(17)
小鷹狩の訪れ
妹尼は「移し植えて思い乱れております、女郎花は。憂き世を背く草の庵に」と返歌した。中将は、今回はそれも当然だろうと許して帰った。手紙などをわざわざ送るのもさすがに初々しく、ほのかに見た姿は忘れられず、物思いをしているらしい筋は何事とも知らないが哀れなので、八月十日過ぎごろに小鷹狩のついでにおいでになった。いつもの少将の尼を呼び出して、「一目見てから落ち着かない心で」などとおっしゃった。浮舟がお答えになるはずもないので、妹尼が「待乳の山の、と拝見しております」と言い出しなさる。対面なさった時にも、中将は「心苦しい様子でいらっしゃると聞きました方の御身の上が、その後どうなったか知りたいのです。何事も思い通りにならない心地ばかりしますので、山住みもしたい気持ちがありながら、お許しにならないはずの人々に妨げられて過ごしておりますが、世に気楽そうな人には、このように沈んでいる私の心からか、似つかわしくないのです。物思いをしているらしい人に、私の思うことを申し上げたいものです」などと心を留めた様子で語らいなさる。妹尼は「気楽そうでないお望みは、お話を交わしなさるのに不似合いでない様子に見えますが、並の人ではいまいと、うたてあるほどに世を恨んでいるようですので、残り少ない齢の私でさえ、今はと世を背きました時はたいそう心細く思われましたのに、行く末長い盛りの身では、結局どうなるかと見ております」と親ぶって言う。妹尼は奥に入って、浮舟に「あまりに情けないことです。やはり少しでもお返事申し上げなさい。このようなお住まいでは、ちょっとしたことにも情けを知るのが世の常のことです」などとなだめて言うが、浮舟は「人にものを申し上げるすべも知りません。何事も言う甲斐もないばかりで」とたいそうそっけなく臥していらっしゃる。中将は「客人はどうしたのですか。ああつらい、秋を約束したのは、だましなさったのですね」などと恨みながら、「松虫の声を尋ねて来たけれど、また荻原の露に迷ってしまった」と詠む。
- 1うつしうつしうつしうゑうゑうえててて思思おもひひいみだれみだれみだれぬぬぬをみなへしをみなへしおみなえしうきうきうき世世よをををそむくそむくそむく草草くさののの庵庵いおりににに」」」とととありありあり。。。こたみこたみこたみはははさもさもさもありありありぬぬぬべしべしべしととと思思おもひひいゆるしゆるしゆるしててて歸歸かえりりりぬぬぬ。。。文文ふみなどなどなどわざとわざとわざとやらやらやらむむんもももさすがさすがさすがにににうひうひしううひうひしうういういしゅうほのかほのかほのかににに見見みしししさまさまさまははは忘忘わすれれれずずず物物もの思思おもふふうらむらむらんすぢすぢすじ何何なに事事ことととと知知しらららねねねどどどあはれあはれあわれなれなれなればばば八八はち月月がつ十十とお日日かあまりあまりあまりのののほどほどほどににに小小こ鷹鷹たか狩狩がりのののついでついでついでにににおはしおはしおわしたりたりたり。。。例例れいののの尼尼あま呼呼よびびび出出いでででゝゝて一一ひと目目め見見みしししよりよりより「「「しづしづしず心心こころなくなくなくててて」」」などなどなどのたまへのたまへのたまえりりりいらへいらへいらえ給給たまふふうべくべくべくもももあらあらあらねねねばばば尼尼あま君君ぎみ「「「まつちまつちまつちののの山山やまのののとととなむなむなん見見み給給たまふるふるうる」」」ととといひいひいい出出いだししし給給たまふふう。。。對對たい面面めんししし給給たまへへえるるるにににももも「「「心心こころ苦苦ぐるしきしきしきさまさまさまにてにてにて物物ものししし給給たまふふうととと聞聞きききき侍侍はべりりりししし人人ひとののの御御おん上上うえなむなむなんのこりのこりのこりゆかしくゆかしくゆかしく侍侍はべるるる。。。何何なに事事ことももも心心こころにににかなはかなはかなわぬぬぬ心地心地ここちのみのみのみししし侍侍はべれれればばば山山やま住住ずみもももししし侍侍はべらららまほしきまほしきまほしき心心こころありありありながらながらながらゆるいゆるいゆるい給給たまふふうまじきまじきまじき人々人々ひとびとににに思思おもひひいさはりさはりさわりてててなむなむなん過過すぐししし侍侍はべるるるににに、、、世世よににに心心こころちちここちよげよげよげなるなるなる人人ひとのののうへうへうえはははかくかくかくくしくしくしたるたるたる人人ひとののの心心こころからからからにににやややふさはしからふさはしからふさわしからずずずなむなむなん。。。物物もの思思おもふふうらむらむらん人人ひとににに思思おもふふう事事ことををを聞聞きこえええばやばやばや」」」などなどなど心心こころ留留とどめめめたるたるたるさまさまさまににに語語かたらひらひらい給給たまふふう。。。
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現代語訳
「移し植えて思い乱れております、女郎花は。憂き世を背く草の庵に」とあった。今回はそれも当然だろうと許して帰った。手紙などをわざわざ送るのもさすがに初々しく、ほのかに見た姿は忘れられず、物思いをしているらしい筋は何事とも知らないが哀れなので、八月十日過ぎごろに小鷹狩のついでにおいでになった。いつもの尼を呼び出して、一目見てから「落ち着かない心で」などとおっしゃった。お答えになるはずもないので、尼君が「待乳の山の、と拝見しております」と言い出しなさる。対面なさった時にも、「心苦しい様子でいらっしゃると聞きました方の御身の上が、その後どうなったか知りたいのです。何事も思い通りにならない心地ばかりしますので、山住みもしたい気持ちがありながら、お許しにならないはずの人々に妨げられて過ごしておりますが、世に気楽そうな人には、このように沈んでいる私の心からか、似つかわしくないのです。物思いをしているらしい人に、私の思うことを申し上げたいものです」などと心を留めた様子で語らいなさる。
「気楽そうでないお望みは、お話を交わしなさるのに不似合いでない様子に見えますが、並の人ではいまいと、うたてあるほどに世を恨んでいるようですので、残り少ない齢の私でさえ、今はと世を背きました時はたいそう心細く思われましたのに、行く末長い盛りの身では、結局どうなるかと見ております」と親ぶって言う。「奥に入っても情けないことです。やはり少しでもお返事申し上げなさい。このようなお住まいでは、ちょっとしたことにも情けを知るのが世の常のことです」などとなだめて言うが、「人にものを申し上げるすべも知りません。何事も言う甲斐もないばかりで」とたいそうそっけなく臥していらっしゃる。「客人はどうしたのですか。ああつらい、秋を約束したのは、だましなさったのですね」などと恨みながら、「松虫の声を尋ねて来たけれど、また荻原の露に迷ってしまった」。
意訳
妹尼は、浮舟は世を背いた庵に移し植えた女郎花だと返歌する。八月十日過ぎ、中将は小鷹狩のついでに再び小野を訪れ、物思いをしているらしい女に自分の思いを話したいと言う。妹尼は、女は並々でなく世を恨んでいて、若い身で行く末が心配だと話す。妹尼は浮舟に返事をするよう勧めるが、浮舟は臥したまま答えない。中将は、松虫の声を尋ねて来たのに荻原の露に迷ったと恨みの歌を詠む。
語釈・文法注
文法
- 「小鷹狩」(八月十日あまりのほどに小鷹狩のついでにおはしたり)
- 秋に小型の鷹を使って小鳥を捕る狩り。
- 「まつちの山」(「まつちの山のとなむ見給ふる」)
- 「誰をかもまつちの山の女郎花秋と契れる人ぞあるらし」(小町集)による。浮舟には待つ人がいるらしいとほのめかす。
- 「うたゝ」(いとうたゝあるまで世を恨み侍るめれば)
- うたて。ひどく、異様なほど。
解説
妹尼は「まつちの山」の古歌を引いて、浮舟には待つ人がいるらしいとかわす。中将の求愛をはぐらかしつつ、関心をつなぎとめる巧みな応対である。
中将の「松むしの聲をたづねて」の歌は、「まつちの山」の古歌が「秋と契れる」と詠むのを受け、待っていてくれるはずの人に会えない恨みを訴えている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1208–1209頁(コマ315)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日