古典ライブラリー

源氏物語 第53帖 手習(9)

入水の夜の記憶

登場人物:浮舟・匂宮・妹の尼君

浮舟は、以前の世のことを思い出すが、住んでいた所や、誰と言った人だったかさえ、確かにはっきりとも思い出せない。ただ、私はもうこれまでと身を投げた人なのだ、どこに来てしまったのだろうと、無理に思い出すと、たいそうつらいと物を思い嘆いて、皆が寝ていた時に妻戸を開けて出たところ、風が激しく川波も荒く聞こえたのを、一人で何となく恐ろしかったので、過去も未来もわからず簀子の端に足を下ろしながら、行くべき方も迷われて、戻って入るのも中途半端で、気強くこの世から消えてしまおうと思い立ったのに、愚かしく人に見つけられるよりは、鬼でも何でも食って失わせてくれと言いながらつくづくと座っていたところ、たいそう美しい男が寄ってきて、「さあいらっしゃい、私のもとへ」と言って抱く心地がしたのを、宮と申し上げた人がなさるのだと思われた頃から、心が惑ってしまったのだろう、知らない所に据え置いてこの男は消え失せたと見たが、ついにこうして本意のように死ぬこともできなくなったと思いながらひどく泣くと思った頃から、その後のことは全くどうにも思い出せない。人の言うのを聞くと多くの日数がたっていた、どんなにつらい様子を知らない人に世話され見られたのだろうと恥ずかしく、ついにこうして生き返ってしまったのかと思うのも残念なので、ひどく思われて、かえって沈んでいらした日頃は正気もない様子で、物を少し召し上がることもあったのに、露ほどの湯さえ召し上がらない。妹尼は「どうしてこのように頼りなげにばかりいらっしゃるのですか。引き続いていた熱なども冷めなさって、さわやかにお見えになるのでうれしく思い申し上げていますのに」と泣く泣く、怠る時もなく付き添ってお世話申し上げなさる。いる女房たちも、惜しいご様子や容貌を見ると、心を尽くして惜しみ見守った。心の中ではやはり何とかして死のうと思い続けていらっしゃるが、あれほどの状態で生き留まった人の命なので、たいそうしぶとくて、だんだん頭を上げなさると、物を召し上がりなどなさるにつけて、かえって面痩せていく。早くとうれしく思い申し上げていると、浮舟は「尼にしてくださいませ。

  1. 1ありありありししし世よ世よよののの事こと事ことこと思おも思おもおもひひい出い出いいづれづれずれどどど、、、住す住すすみみみけむけむけん所ところ所ところところ誰たれ誰たれたれととといひいひいいししし人ひと人ひとひととととだにだにだにたしかたしかたしかにににはかばかしうはかばかしうはかばかしゅうももも覺おぼ覺おぼおぼえええずずず。。。唯たゞ唯たゞただ、、、我わ我わわはははかぎりかぎりかぎりとてとてとて身み身みみををを投な投ななげげげししし人ひと人ひとひとぞぞぞかしかしかし、、、いづくいづくいずくににに來き來ききにににけるけるけるにににかかかとととせめてせめてせめて思おも思おもおもひひい出い出いいづれづれずればばばいといといといみじいみじいみじととと物もの物ものものををを思おも思おもおもひひいなげきなげきなげきててて皆みな皆みなみな人ひと人ひとひとののの寢ね寢ねねたりたりたりしししににに妻つま妻つまつま戶ど戶どどををを放はな放はなはなちちちててて出い出いいでででたりたりたりしししににに風かぜ風かぜかぜ烈はげ烈はげはげしうしうしゅう川かは川かはかわ波なみ波なみなみももも荒あら荒あらあろううう聞きこ聞きこきこえええしししををを一ひと一ひとひと人り人りり物もの物ものもの恐おそろ恐おそろおそろしかりしかりしかりしかしかしかばばばきききしししかたかたかたゆくゆくゆくさきさきさきももも覺おぼ覺おぼおぼえええずずずすのこすのこすのこののの端はし端はしはしににに足あし足あしあしをををさしさしさしおろしおろしおろしながらながらながら行ゆ行ゆゆくくくべきべきべき方かた方かたかたももも惑まど惑まどまどははわれれれててて、、、歸かへ歸かへかえりりり入い入いいらららむむんももも中なか中なかなか空ぞら空ぞらぞらにてにてにて心こころ心こころこころ强つよ强つよつよくくくこのこのこの世よ世よよにににうせうせうせなななむむんととと思おも思おもおもひひいたちたちたちしししををををこがましうをこがましうおこがましゅうててて人ひと人ひとひとににに見み見みみつけつけつけられられられむむんよりよりよりははは鬼おに鬼おにおにももも何なに何なになにもももくひくひくいててて失うしな失うしなうしなひひいてててよよよととといひいひいいつゝつゝつつつくづくつくづくつくずくととと居ゐ居ゐいたりたりたりしししををを、、、いといといと淸きよ淸きよきよげげげなるなるなる男をとこ男をとこおとこのののよりよりよりきききててて、、、いざいざいざたまへたまへたまえおのおのおのがががもともともとへへへととといひいひいいててて抱いだ抱いだいだくくく心こころ心こころこころちちここちのののせせせしししををを、、、宮みや宮みやみやととと聞きこ聞きこきこえええししし人ひと人ひとひとのののししし給たま給たまたまふふうととと覺おぼ覺おぼおぼえええしししほどほどほどよりよりより心こころ心こころこころ惑まど惑まどまどひひいにににけるけるけるなななめりめりめり、、、知し知ししらららぬぬぬ所ところ所ところところにににすゑすゑすえおきおきおきてててこのこのこの男をとこ男をとこおとこははは消き消ききええよ失う失ううせせせぬぬぬととと見み見みみしししををを、、、遂つひ遂つひついにににかくかくかくほほほ意い意いいのののごとごとごともももせせせずずずなりなりなりぬるぬるぬるととと思おも思おもおもひひいつゝつゝつついみじういみじういみじゅう泣な泣ななくくくととと思おも思おもおもひひいしししほどほどほどににに、、、そのそのその後のち後のちのちののの事こと事ことことははは絕た絕たたえええててていかにいかにいかにもももいかにいかにいかにもももおぼえおぼえおぼえずずず、、、
  2. 2人ひと人ひとひとのののいふいふいうををを聞き聞ききけけけばばば多おほ多おほおおくくくののの日ひ日ひひ比ごろ比ごろごろももも經へ經へへにににけりけりけり、、、いかにいかにいかに憂う憂ううきききさまさまさまををを知し知ししらららぬぬぬ人ひと人ひとひとにににあつかはあつかはあつかわれれれ見み見みみえええつつつらむらむらんとととはづかしうはづかしうはずかしゅう遂つひ遂つひついにににかくかくかくててて生い生いいきききかへりかへりかえりぬるぬるぬるかかかととと思おも思おもおもふふうももも口くち口くちくち惜を惜をおしけれしけれしければばばいみじいみじいみじおぼえおぼえおぼえてててなかなかなかなかなかなかしづみしづみしずみ給たま給たまたまへへえるるる日ひ日ひひ比ごろ比ごろごろはははうつしうつしうつしごゝろごゝろごころもももなきなきなきさまさまさまにてにてにて物もの物ものものいさゝかいさゝかいささか參まゐ參まゐまいるるることことこともももありありありつるつるつるををを露つゆ露つゆつゆばかりばかりばかりののの湯ゆ湯ゆゆをををだにだにだにまゐらまゐらまいらずずず。。。「「「いかいかいかなれなれなればばばかくかくかくたのもしげたのもしげたのもしげなくなくなくのみのみのみはははおはするおはするおわするぞぞぞ。。。うちうちうちはへはへはえぬるみぬるみぬるみなどなどなどししし給たま給たまたまへへえるるることことことはははさめさめさめ給たま給たまたまひひいてててさはやかさはやかさわやかににに見み見みみえええ給たま給たまたまへへえばばば嬉うれ嬉うれうれしうしうしゅう思おも思おもおもひひい聞きこ聞きこきこゆるゆるゆるををを」」」とととなくなくなくなくなくなくたゆむたゆむたゆむをりをりおりなくなくなくそひそひそい居ゐ居ゐいてててあつかひあつかひあつかい聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまふふう。。。あるあるある人々ひとびと人々ひとびとひとびともももあたらしきあたらしきあたらしき御おん御おんおんさまさまさまかたちかたちかたちををを見み見みみれれればばば心こころ心こころこころををを盡つく盡つくつくしししてててぞぞぞ惜をし惜をしおしみみみまもりまもりまもりけるけるける心こころ心こころこころにににははは猶なほ猶なほなおいかでいかでいかで死し死ししなななむむんとととぞぞぞ思おも思おもおもひひいわたりわたりわたり給たま給たまたまへへえどどど、、、さばかりさばかりさばかりにてにてにていきいきいきとまりとまりとまりたるたるたる人ひと人ひとひとののの命いのち命いのちいのちなれなれなればばばいといといとしふねくしふねくしゅうねくてててやうやうやうやうようよう頭かしら頭かしらかしらもたげもたげもたげ給たま給たまたまへへえばばば物もの物ものものまゐりまゐりまいりなどなどなどししし給たま給たまたまふふうにににぞぞぞなかなかなかなかなかなかおもおもおも瘠や瘠ややせせせもてもてもて行ゆ行ゆゆきききいつしかいつしかいつしかととと嬉うれ嬉うれうれしうしうしゅう思おも思おもおもひひい聞きこ聞きこきこゆるゆるゆるににに「「「尼あま尼あまあまににになしなしなし給たま給たまたまひひいてててよよよ。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

以前の世のことを思い出すが、住んでいた所や、誰と言った人だったかさえ、確かにはっきりとも思い出せない。ただ、私はもうこれまでと身を投げた人なのだ、どこに来てしまったのだろうと、無理に思い出すと、たいそうつらいと物を思い嘆いて、皆が寝ていた時に妻戸を開けて出たところ、風が激しく川波も荒く聞こえたのを、一人で何となく恐ろしかったので、過去も未来もわからず簀子の端に足を下ろしながら、行くべき方も迷われて、戻って入るのも中途半端で、気強くこの世から消えてしまおうと思い立ったのに、愚かしく人に見つけられるよりは、鬼でも何でも食って失わせてくれと言いながらつくづくと座っていたところ、たいそう美しい男が寄ってきて、「さあいらっしゃい、私のもとへ」と言って抱く心地がしたのを、宮と申し上げた人がなさるのだと思われた頃から、心が惑ってしまったのだろう、知らない所に据え置いてこの男は消え失せたと見たが、ついにこうして本意のようにもできなくなったと思いながらひどく泣くと思った頃から、その後のことは全くどうにも思い出せない。

人の言うのを聞くと多くの日数がたっていた、どんなにつらい様子を知らない人に世話され見られたのだろうと恥ずかしく、ついにこうして生き返ってしまったのかと思うのも残念なので、ひどく思われて、かえって沈んでいらした日頃は正気もない様子で、物を少し召し上がることもあったのに、露ほどの湯さえ召し上がらない。「どうしてこのように頼りなげにばかりいらっしゃるのですか。引き続いていた熱なども冷めなさって、さわやかにお見えになるのでうれしく思い申し上げていますのに」と泣く泣く、怠る時もなく付き添ってお世話申し上げなさる。いる人々も、惜しいご様子や容貌を見ると、心を尽くして惜しみ見守った。心の中ではやはり何とかして死のうと思い続けていらっしゃるが、あれほどの状態で生き留まった人の命なので、たいそうしぶとくて、だんだん頭を上げなさると、物を召し上がりなどなさるにつけて、かえって面痩せていく。早くとうれしく思い申し上げていると、「尼にしてくださいませ。

意訳

正気に戻った浮舟は、身を投げようとした夜を思い出す。皆が寝静まった後、妻戸を開けて簀子の端に出たが、風も川波も荒く恐ろしくて、鬼にでも食われたいと座っていると、美しい男が来て抱いて連れ去った。匂宮かと思ったところから記憶が途絶え、知らない所に置き去りにされて泣いていた。浮舟は生き返ってしまったことを恥じて湯も飲まなくなる。妹尼は泣きながら看病し、浮舟は死を願いながらも命はしぶとく、回復するにつれ、尼にしてほしいと頼む。

語釈・文法注

文法

「中空にて」(歸り入らむも中空にて)
中途半端で、どっちつかずで。
「しふねくて」(いとしふねくてやうやう頭もたげ給へば)
執念く。しぶとく、執拗に。
「おも瘠せ」(なかなかおも瘠せもて行き)
面痩せ。顔がやつれること。

解説

浮舟の回想によって、入水の夜の真相が明かされる。浮舟は川に身を投げたのではなく、その直前に物の怪に連れ去られたのであった。死にきれなかった浮舟の無念が、ここから始まる。

物の怪を「宮」と思ったという浮舟の記憶は、匂宮への思いがなお浮舟の心に深く残っていたことを示している。

関連

出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1198–1201頁(コマ310–311)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日