源氏物語 第53帖 手習(4)
妹尼と女
僧都は「鬼にも神にも取り憑かれ、人に追われ、人に騙されても、これは横死をすべき者なのだろう。仏が必ずお救いになるはずの者だ。やはり試しにしばらく湯を飲ませなどして助けてみよう。ついに死ぬならば言うまでもない」とおっしゃって、この大徳に抱き入れさせなさるのを、弟子たちは「とんでもないことだ。ひどく患っていらっしゃる方のおそばに、よくない物を取り入れて、穢れが必ず出てくるだろう」と非難する者もいる。また「物の変化であっても、目の前で生きている人をこのような雨に死なせるのはひどいことだから」などと、思い思いに言う。下衆などはたいそう騒がしく物を悪く言いなすものなので、人の騒がしくない隠れた方に寝かせた。母尼君がお車を寄せて降りなさる時、「ひどく苦しがっていらっしゃる」と騒ぐ。少し静まって、僧都は「先ほどの人はどうなったか」とお尋ねになる。「なよなよとして物も言わず、息もしておりません。何かの物に気を取られた人でございましょう」と言うのを、妹の尼君が聞いて「何事ですか」と尋ねる。僧都が「これこれのことを、六十歳余りの年になって珍しいものを見ました」とおっしゃる。妹尼は聞くとすぐに「私が寺で見た夢がありました。どのような人か、まずその様子を見たい」と泣いておっしゃる。「ただこの東の遣戸にいます。早くご覧なさい」と言うので、急いで行って見ると、人も寄りつかずに捨て置いてあった。たいそう若く美しい女で、白い綾の衣一襲に紅の袴を着ている。香りはたいそうよく匂って、上品な気配はこの上ない。ただ私が恋い悲しむ娘が帰っていらしたのだろうと言って、泣く泣く女房たちを出して抱き入れさせる。どうだったのかも様子を見ていない人は恐ろしくなく抱き入れた。生きているようでもなく、それでも目をほのかに見上げたので、妹尼が「何かおっしゃってください。どのような人で、このようにしていらっしゃるのか」と言うが、何もわからない様子である。
- 1鬼鬼おににににももも神神かみにににももも領領りょうぜぜぜられられられ人人ひとににに追追おははわれれれ人人ひとにににはかりごたはかりごたはかりごたれれれてててもももこれこれこれよこよこよこざまざまざまののの死死しにににをををすすすべきべきべきものものものにににこそこそこそあああめれめれめれ。。。佛佛ほとけののの必必かならずずず救救すくひひい給給たまふふうべきべきべききはきはきわなりなりなり。。。猶猶なお試試こころみにににしばししばししばし湯湯ゆをををのまのまのませせせなどなどなどしししててて助助たすけけけ試試こころみみみむむん。。。遂遂ついににに死死しぬぬぬべくべくべくばばばいふいふいう限限かぎりにににあらあらあらずずず」」」とととのたまひのたまひのたまいてててこのこのこの大大だいとことことこしししててて抱抱いだききき入入いれれれさせさせさせ給給たまふふうををを弟弟で子子しどもどもども「「「たいたいしきたいたいしきたいたいしきわざわざわざかなかなかな。。。いたういたういとう煩煩わずらひひい給給たまふふう人人ひとののの御御おんあたりあたりあたりににに善善よからからからぬぬぬ物物ものをををとりとりとり入入いれれれてててけがらひけがらひけがらい必必かならず出出いででで來來きなななむむんとととすすす」」」ととともどくもどくもどくもももありありあり。。。又又また「「「物物ものののの變變へん化化げにににもももあれあれあれ目目めににに見見みすすすみすみすみす生生いけけけるるる人人ひとをををかゝるかゝるかかる雨雨あめにににうちうちうち失失うしなははわせせせむむんはははいみじきいみじきいみじき事事ことなれなれなればばば」」」などなどなど心心こころ々々ごころにににいふいふいう。。。下下げすすすなどなどなどはははいといといとさわがしくさわがしくさわがしく物物ものをををうたてうたてうたていひいひいいなすなすなすものものものなれなれなればばば人人ひとさわがしからさわがしからさわがしからぬぬぬかくれかくれかくれののの方方かたににになむなむなん臥臥ふせせせたりたりたりけるけるける。。。御御おん車車くるま寄寄よせせせててておりおりおり給給たまふふうほどほどほど「「「痛痛いとううう苦苦くるしししがりがりがり給給たまふふう」」」とてとてとてのゝしるのゝしるののしる。。。すこしすこしすこししづまりしづまりしずまりててて僧僧そう都都ず「「「ありありありつるつるつる人人ひとはははいかゞいかゞいかがなりなりなりぬるぬるぬる」」」ととと問問とひひい給給たまふふう。。。「「「なよなよなよなよなよなよとととしししててて物物ものもももいはいはいわずずず、、、いきいきいきもももししし侍侍はべらららずずず。。。何何なにかかか物物ものにににけけけどらどらどられれれにににけるけるける人人ひとにににこそこそこそ」」」ととといふいふいうををを妹妹いもうとののの尼尼あま君君ぎみ聞聞ききききててて「「「何何なに事事ことぞぞぞ」」」ととと問問とふふう。。。
- 2「「「しかしかしかしかしかしかののの事事ことをををなむなむなんむそぢむそぢむそじにににあまるあまるあまる年年とし珍珍めずらからからかなるなるなるものものものををを見見み給給たまへへえつるつるつる」」」とととのたまふのたまふのたまう。。。うちうちうち聞聞きくくくまゝまゝままににに、、、「「「おのおのおのががが寺寺てらにてにてにて見見みししし夢夢ゆめありありありききき。。。いかいかいかやうやうようなるなるなる人人ひとぞぞぞまづまづまずそのそのそのさまさまさま見見みむむん」」」ととと泣泣なきききてててのたまふのたまふのたまう。。。「「「唯唯ただこのこのこの東東ひんがしののの遣遣やり戶戶どににになむなむなん侍侍はべるるる。。。はやはやはや御御ご覽覽らんぜぜぜよよよ」」」ととといへいへいえばばば急急いそぎぎぎ行行ゆきききててて見見みるるるににに人人ひともももよりよりよりつかつかつかででで捨捨すててておきおきおきたりたりたりけるけるける。。。いといといと若若わこううう美美うつくしげしげしげなるなるなる女女おんなののの白白しろききき綾綾あやののの衣衣きぬ一一ひと襲襲かさね紅紅くれないののの袴袴はかまぞぞぞ著著きたるたるたる。。。かかかうううはははいみじういみじういみじゅうかうばしくかうばしくこうばしくてててあてあてあてなるなるなるけはひけはひけはい限限かぎりなしなしなし。。。たゞたゞただ我我わががが戀戀こひひい悲悲かなしむむむむすめむすめむすめののの歸歸かえりりりおはしおはしおわしたるたるたるなななめりめりめりとてとてとて、、、なくなくなくなくなくなく御御ご達達たちををを出出いだしししててて抱抱いだききき入入いれれれさすさすさす。。。いかいかいかなりなりなりつつつらむらむらんともともとも有有あり樣樣さま見見みぬぬぬ人人ひとははは恐恐おそろしからしからしからででで抱抱いだききき入入いれれれつつつ。。。生生いけけけるるるやうやうようにににもももあらあらあらでででさすがさすがさすがににに目目めをををほのかほのかほのかににに見見みあげあげあげたるたるたるににに「「「物物もののたまへのたまへのたまえややや。。。いかいかいかなるなるなる人人ひとかかかかくかくかくてててははは物物ものししし給給たまへへえるるる」」」ととといへいへいえどどど物物もの覺覺おぼえええぬぬぬさまさまさまなりなりなり。。。
現代語訳
「鬼にも神にも取り憑かれ、人に追われ、人に騙されても、これは横死をすべき者なのだろう。仏が必ずお救いになるはずの者だ。やはり試しにしばらく湯を飲ませなどして助けてみよう。ついに死ぬならば言うまでもない」とおっしゃって、この大徳に抱き入れさせなさるのを、弟子たちは「とんでもないことだ。ひどく患っていらっしゃる方のおそばに、よくない物を取り入れて、穢れが必ず出てくるだろう」と非難する者もいる。また「物の変化であっても、目の前で生きている人をこのような雨に死なせるのはひどいことだから」などと、思い思いに言う。下衆などはたいそう騒がしく物を悪く言いなすものなので、人の騒がしくない隠れた方に寝かせた。お車を寄せて降りなさる時、「ひどく苦しがっていらっしゃる」と騒ぐ。少し静まって、僧都は「先ほどの人はどうなったか」とお尋ねになる。「なよなよとして物も言わず、息もしておりません。何かの物に気を取られた人でございましょう」と言うのを、妹の尼君が聞いて「何事ですか」と尋ねる。
「これこれのことを、六十歳余りの年になって珍しいものを見ました」とおっしゃる。聞くとすぐに、「私が寺で見た夢がありました。どのような人か、まずその様子を見たい」と泣いておっしゃる。「ただこの東の遣戸にいます。早くご覧なさい」と言うので、急いで行って見ると、人も寄りつかずに捨て置いてあった。たいそう若く美しい女で、白い綾の衣一襲に紅の袴を着ている。香りはたいそうよく匂って、上品な気配はこの上ない。ただ私が恋い悲しむ娘が帰っていらしたのだろうと言って、泣く泣く女房たちを出して抱き入れさせる。どうだったのかも様子を見ていない人は恐ろしくなく抱き入れた。生きているようでもなく、それでも目をほのかに見上げたので、「何かおっしゃってください。どのような人で、このようにしていらっしゃるのか」と言うが、何もわからない様子である。
意訳
僧都は、たとえ何者かに取り憑かれていても仏が救うべき者だとして、女を中に運ばせる。弟子たちには反対する者もいたが、女は人目につかない所に寝かされる。母尼が到着して騒ぎが静まると、僧都は妹の尼君に女のことを話す。妹尼は初瀬で見た夢を思い出し、急いで女を見に行く。女は若く美しく、白い綾の衣に紅の袴を着て、上品な香りを漂わせていた。妹尼は亡き娘が帰ってきたのだと泣いて女を抱き入れさせるが、女はほのかに目を開けるだけで何も答えない。
語釈・文法注
文法
- 「よこざまの死に」(これよこざまの死にをすべきものにこそあめれ)
- 横死。天寿を全うしない不慮の死。
- 「けどられ」(何か物にけどられにける人にこそ)
- 気取らる。物の怪に正気を奪われる。
- 「むそぢ」(むそぢにあまる年)
- 六十歳。
解説
妹尼は、亡き娘の身代わりとして浮舟を迎える。浮舟は、大君の形代として薫に求められたように、ここでも亡き人の身代わりとして愛されることになる。
白い綾の衣に紅の袴。浮舟の上品な装いと香りは、彼女が高貴な身分の女性であることを示している。過去を語れない浮舟の正体は、謎のまま物語が進んでいく。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1194–1195頁(コマ308)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日