源氏物語 第53帖 手習(3)
女を助ける僧都
弟子は「たいそう不都合なことでございますね。穢れがありそうな所のようです」と言って、先ほどの宿守の男を呼ぶ。山彦の答えるのもたいそう恐ろしい。男は妙な様子で烏帽子を額に押し上げて出てきた。「ここには若い女などが住んでいらっしゃるのか。このようなことがある」と言って見せると、「狐がいたすのです。この木のもとで時々妙なことをいたします。一昨年の秋も、ここにおります者の子で二つほどでしたのを取って参りましたが、見ても驚きませんでした」。「それでその子は死んでしまったのか」と言うと、「生きておりました。狐はそのように人を脅かしますが、たいしたこともない奴です」と言う様子がたいそう慣れている。あの夜更けの食事の準備の所に心を寄せているのだろう。僧都は「それではそのようなものがしたことか。やはりよく見よ」と言って、この物怖じしない法師を寄らせると、「鬼か神か狐か木霊か。これほどの天下の験者がいらっしゃるのに、隠れ申し上げることはできまい。名乗りなさい、名乗りなさい」と衣を取って引くと、顔を引き入れてますます泣く。「さあ、何とひどい木霊の鬼だ。まさか隠れおおせられようか」と言いながら顔を見ようとすると、昔いたという目も鼻もない女鬼だろうかと気味悪いが、頼もしく勇ましい様子を人に見せようと思って、衣を引き脱がせようとすると、うつ伏して声を立てるほど泣く。「何であれ、このように妙なことは世にあるまい」と言って見届けようと思うが、「雨がひどく降りそうだ。このまま置いたら死んでしまいましょう。垣のもとに出しましょう」と言う。僧都は「本当の人の姿だ。その命が絶えないのを見ながら捨てることはひどいことだ。池に泳ぐ魚、山に鳴く鹿でさえ、人に捕らえられて死のうとするのを見ながら助けないのはたいそう悲しいことだろう。人の命は長くないものだが、残りの命が一二日であっても惜しまないわけにはいかない。
- 1いといといと不不ふ便便びんにににももも侍侍はべりりりけるけるけるかなかなかな。。。けがらひけがらひけがらいあるあるあるべきべきべき所所ところにににこそこそこそ侍侍はべるるるめれめれめれ」」」ととといひいひいいててて、、、ありありありつるつるつる宿宿やど守守もりのののをのこをのこおのこををを呼呼よぶぶぶ。。。山山やま彥彥びこののの答答こたふるふるうるもももいといといとおそろしおそろしおそろし。。。あやしあやしあやしのののさまさまさまににに額額ひたいおしおしおしあげあげあげててて出出いででで來來きたりたりたり。。。「「「こゝこゝここにににははは若若わかききき女女おんななななとととやややすみすみすみ給給たまふふう。。。かゝるかゝるかかる事事ことなむなむなんあるあるある」」」とてとてとて見見みすれすれすればばば「「「狐狐きつねのののつかうまつるつかうまつるつこうまつるなりなりなり。。。このこのこの木木きのののもともともとににになむなむなん時々時々ときどき怪怪あやしきしきしきわざわざわざなむなむなんししし侍侍はべるるる。。。一一をと昨昨と年年しののの秋秋あきもももこゝこゝここににに侍侍はべるるる人人ひとののの子子こののの二二ふたつつつばかりばかりばかりににに侍侍はべりりりしししをををとりとりとりてててまうでまうでもうで來來きたりたりたりしかしかしかどもどもども見見み驚驚おどろかかかずずず侍侍はべりりりききき」」」、、、「「「さてさてさてそのそのそのちごちごちごははは死死しにににやややしししにににししし」」」ととといへいへいえばばば「「「生生いきききててて侍侍はべりりりききき。。。狐狐きつねはははさささこそこそこそははは人人ひとをををおびやかせおびやかせおびやかせどどどことことことにににもももあらあらあらぬぬぬやつやつやつ」」」ととといふいふいう樣樣さまいといといとなれなれなれたりたりたり。。。かのかのかの夜夜よ深深ふかきききまゐりまゐりまいりものものものゝゝの所所ところににに心心こころをををよせよせよせたるたるたるなるなるなるべしべしべし。。。僧僧そう都都ず「「「さらばさらばさらばさやうさやうさようのののものものものゝゝのしししたるたるたるわざわざわざかかか猶猶なお能能よくくく見見みよよよ」」」とてとてとてこのこのこの物物ものおぢおぢおじせせせぬぬぬ法法ほう師師しをををよせよせよせたれたれたればばば「「「鬼鬼おにかかか神神かみかかか狐狐きつねかかかこだまこだまこだまかかか。。。かばかりかばかりかばかりののの天天あめののの下下したののの驗驗げんざざざのののおはしますおはしますおわしますにににはははえええかくれかくれかくれ奉奉たてまつらららじじじ。。。名名なのりのりのり給給たまへへえ名名なのりのりのりたまへたまへたまえ」」」ととときぬきぬきぬをををとりとりとりててて引引ひけけけばばば顏顏かおをををひきひきひき入入いれれれててていよいよいよいよいよいよなくなくなく。。。
- 2「「「いでいでいであなあなあなさがなさがなさがなのののこだまこだまこだまののの鬼鬼おにややや。。。まさにまさにまさにかくれかくれかくれなななむむんややや」」」ととといひいひいいつゝつゝつつ顏顏かおををを見見みむむんとととするするするににに昔昔むかしありありありけむけむけん目目めももも鼻鼻はなもももなかりなかりなかりけるけるける。。。めめめ鬼鬼おににににやややあらあらあらむむんとととむくつけきむくつけきむくつけきをををたのもしうたのもしうたのもしゅういかきいかきいかきさまさまさまををを人人ひとににに見見みせせせむむんととと思思おもひひいてててきぬきぬきぬをををひきひきひき脫脫ぬがががせせせむむんとととすれすれすればばばうつぶしうつぶしうつぶしててて聲聲こえたつたつたつばかりばかりばかりなくなくなく。。。「「「何何なににににまれまれまれかくかくかく怪怪あやしきしきしき事事ことなべてなべてなべて世世よにににあらあらあらじじじ」」」とてとてとて見見みはてはてはてむむんととと思思おもふふうににに「「「雨雨あめいたくいたくいたく降降ふりりりぬぬぬべしべしべし。。。かくかくかくててておいおいおいたらたらたらばばば死死しにににはてはてはて侍侍はべりりりぬぬぬべしべしべし。。。垣垣かきのののもともともとにににこそこそこそ出出いださささめめめ」」」ととといふいふいう。。。僧僧そう都都ず「「「まことまことまことののの人人ひとのののかたちかたちかたちなりなりなり。。。そのそのその命命いのち絕絕たえええぬぬぬををを見見みるるる見見みるるる捨捨すてててむむん事事ことはははいみじきいみじきいみじきことことことなりなりなり。。。池池いけににに泳泳およぐぐぐいをいをいお山山やまににに鳴鳴なくくく鹿鹿しかをををだにだにだに人人ひとににに捕捕とらへへえられられられててて死死しなななむむんとととするするするををを見見みつゝつゝつつ助助たすけけけざらざらざらむむんはははいといといとかなしかるかなしかるかなしかるべしべしべし。。。人人ひとののの命命いのち久久ひさしかるしかるしかるまじきまじきまじき物物ものなれなれなれどどど殘殘のこりののの命命いのち一一ひと二二ふつ日日かをををもももをしまをしまおしまずずずはははあるあるあるべからべからべからずずず。。。
現代語訳
「たいそう不都合なことでございますね。穢れがありそうな所のようです」と言って、先ほどの宿守の男を呼ぶ。山彦の答えるのもたいそう恐ろしい。妙な様子で額に烏帽子を押し上げて出てきた。「ここには若い女などが住んでいらっしゃるのか。このようなことがある」と言って見せると、「狐がいたすのです。この木のもとで時々妙なことをいたします。一昨年の秋も、ここにおります者の子で二つほどでしたのを取って参りましたが、見ても驚きませんでした」。「それでその子は死んでしまったのか」と言うと、「生きておりました。狐はそのように人を脅かしますが、たいしたこともない奴です」と言う様子がたいそう慣れている。あの夜更けの食事の所に心を寄せているのだろう。僧都は「それではそのようなものがしたことか。やはりよく見よ」と言って、この物怖じしない法師を寄らせると、「鬼か神か狐か木霊か。これほどの天下の験者がいらっしゃるのに、隠れ申し上げることはできまい。名乗りなさい、名乗りなさい」と衣を取って引くと、顔を引き入れてますます泣く。
「さあ、何とひどい木霊の鬼だ。まさか隠れおおせられようか」と言いながら顔を見ようとすると、昔いたという目も鼻もなかった女鬼だろうかと気味悪いが、頼もしく勇ましい様子を人に見せようと思って、衣を引き脱がせようとすると、うつ伏して声を立てるほど泣く。「何であれ、このように妙なことは世にあるまい」と言って見届けようと思うが、「雨がひどく降りそうだ。このまま置いたら死んでしまいましょう。垣のもとに出しましょう」と言う。僧都は「本当の人の姿だ。その命が絶えないのを見ながら捨てることはひどいことだ。池に泳ぐ魚、山に鳴く鹿でさえ、人に捕らえられて死のうとするのを見ながら助けないのはたいそう悲しいことだろう。人の命は長くないものだが、残りの命が一日二日であっても惜しまないわけにはいかない。
意訳
宿守の老人は、狐がよく人をさらってくるのだと平然と言う。物怖じしない法師が女の衣を引いて名乗れと迫ると、女は顔を隠してますます泣く。法師は目も鼻もない女鬼かと恐れつつ衣を脱がせようとし、女はうつ伏して声を上げて泣く。雨が降りそうなので垣の外に出そうという者もいるが、僧都は、これは本当の人であり、魚や鹿でさえ死ぬのを見捨てられないのだから、たとえ一両日の命でも助けるべきだと諭す。
語釈・文法注
文法
- 「驗ざ」(かばかりの天の下の驗ざのおはしますには)
- 験者。加持祈祷に優れた僧。
- 「め鬼」(め鬼にやあらむとむくつけきを)
- 女鬼。目も鼻もない鬼の話が昔あったとされる。
- 「いを」(池に泳ぐいを山に鳴く鹿をだに)
- 魚。
解説
僧都の「池に泳ぐいを山に鳴く鹿をだに」という言葉は、仏教の慈悲の精神を示す。死を選んだ浮舟は、仏の慈悲によって救われることになる。
浮舟は名乗ることもできず、ただ泣く。自分が誰であるかを語れない浮舟の姿は、過去を捨て、新たな生を始めることになる彼女の運命を予告している。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1192–1195頁(コマ307–308)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日