源氏物語 第52帖 蜻蛉(33)
秋の天の詩
薫は「とりわけ、あの方の恥ずかしがる理由が必ずありそうな折のようですから」と言ってお立ちになると、皆がこのように遠慮なくしていると思いやりなさるのはつらいと思う女房もいる。東の高欄に寄りかかって、夕日の影になるにつれて、花の紐を解く御前の草むらを見渡しなさる。ただ物悲しい中に、「中について腸絶ゆるは是れ秋の天」という句をたいそう忍びやかに口ずさみながら座っていらっしゃった。先ほどの衣ずれの音がはっきりとして、母屋の御障子から通ってあちらに入るようだ。宮(匂宮)が歩いていらして、「ここからあちらに参ったのは誰だ」とお尋ねになると、「あの御方(女一の宮)の中将の君」と申し上げるようだ。薫は、やはり妙なことだ、誰だろうと仮にも思う人に、そのまま遠慮もなく申し上げる名指しだなと気の毒で、この宮には皆見慣れて親しく思い申し上げているらしいのも残念だ。熱心に無理強いなさるお扱いに、女は、そうして負けてしまうのだろう、私はそのように残念にもこの宮のご縁にはねたましくつらいことばかりであるな、何とかしてこのあたりにも珍しい人で、宮がいつものように心を入れて騒ぎなさるような人を語らい取って、私が思ったように穏やかでないとだけでも思わせ申し上げたい、本当に心ばせのある人は私の方にこそ寄るはずだ、けれども難しいものだ、人の心はと思うにつけて、対の御方(中の君)が、宮の有様をふさわしくないものとお思い申し上げて、たいそう不都合な親しみになっていき、世間の評判を苦しいと思いながら、やはり私を突き放しがたい者と思い知っていらっしゃるのは、めったになく哀れなことだった、そのような心ばせのある人は、これほど多い中にいるだろうか、入り込んで深く見ないのでわからないのだ、寝覚めがちで所在ないのを、少しは色恋にも慣れたいものだなどと思うが、今はやはり似つかわしくない。いつもの渡殿を、先日に倣ってわざわざ思っていらっしゃるのも妙だ。姫宮は夜はあちら(中宮のもと)にお移りになっていたので、女房たちは月を見るといって、この渡殿でくつろいで話をしている頃だった。
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- 2誠誠まことににに心心こころばせばせばせあらあらあらむむん人人ひとははは我我わががが方方かたにににぞぞぞよるよるよるべきべきべきややや、、、されどされどされどかたいかたいかたいものものものかなかなかな人人ひとののの心心こころはははととと思思おもふふうにににつけつけつけててて、、、對對たいののの御御おん方方かたのののかのかのかの御御おん有有あり樣樣さまをををばばばふさはしからふさはしからふさわしからぬぬぬものものものににに思思おもひひい聞聞きこえええててて、、、いといといとびんなきびんなきびんなきむつびむつびむつびににになりなりなり行行ゆききき、、、大大おお方方かたのののおぼえおぼえおぼえをををばばば苦苦くるしししととと思思おもひひいながらながらながら、、、猶猶なおさしさしさし放放はなちちちがたきがたきがたきものものものにににおぼしおぼしおぼし知知しりりりたるたるたるぞぞぞありがたくありがたくありがたく哀哀あわれなりなりなりけるけるけるさやうさやうさようなるなるなる心心こころばせばせばせあるあるある人人ひとこゝらこゝらここらののの中中なかにににあらあらあらむむんややや、、、入入いりりりたちたちたちててて深深ふかくくく見見みねねねばばば知知しらららぬぬぬぞぞぞかしかしかし、、、ねざめねざめねざめがちがちがちにににつれづれつれづれつれずれなるなるなるををを少少すこしししはははすきすきすきもももならはならはならわゞゞばやややなどなどなど思思おもふふうににに今今いまははは猶猶なおつきなしつきなしつきなし。。。例例れいののの渡渡わた殿殿どのをををありありありしししににに習習ならひひいてててわざとわざとわざとおぼしおぼしおぼしたるたるたるもももあやしあやしあやし。。。姫姫ひめ宮宮みやよるよるよるはははあなたあなたあなたににに渡渡わたらららせせせ給給たまひひいけれけれければばば人々人々ひとびと月月つき見見みるるるとてとてとてこのこのこの渡渡わた殿殿どのにににうちうちうちとけとけとけててて物物もの語語がたりするするする程程ほどなりなりなりけりけりけり。。。
現代語訳
「とりわけ、あの方の恥ずかしがる理由が必ずありそうな折のようですから」と言ってお立ちになると、皆がこのように遠慮なくしていると思いやりなさるのはつらいと思う人もいる。東の高欄に寄りかかって、夕日の影になるにつれて、花の紐を解く御前の草むらを見渡しなさる。ただ物悲しい中に、「中について腸絶ゆるは秋の天」という句をたいそう忍びやかに口ずさみながら座っていらっしゃった。先ほどの衣ずれの音がはっきりとして、母屋の御障子から通ってあちらに入るようだ。宮が歩いていらして、「ここからあちらに参ったのは誰だ」とお尋ねになると、「あの御方の中将の君」と申し上げるようだ。やはり妙なことだ、誰だろうと仮にも思う人に、そのまま遠慮もなく申し上げる名指しだなと気の毒で、この宮には皆見慣れて親しく思い申し上げているらしいのも残念だ。熱心に無理強いなさるお扱いに、女は、そうして負けてしまうのだろう、私はそのように残念にもこのご縁にはねたましくつらいことばかりであるな、何とかしてこのあたりにも珍しい人で、いつものように心を入れて騒ぎなさるような人を語らい取って、私が思ったように穏やかでないとだけでも思わせ申し上げたい、
本当に心ばせのある人は私の方にこそ寄るはずだ、けれども難しいものだ、人の心はと思うにつけて、対の御方が、あの御有様をふさわしくないものとお思い申し上げて、たいそう不都合な親しみになっていき、世間の評判を苦しいと思いながら、やはり突き放しがたい者と思い知っていらっしゃるのは、めったになく哀れなことだった、そのような心ばせのある人は、これほど多い中にいるだろうか、入り込んで深く見ないのでわからないのだ、寝覚めがちで所在ないのを、少しは色恋にも慣れたいものだなどと思うが、今はやはり似つかわしくない。いつもの渡殿を、先日に倣ってわざわざ思っていらっしゃるのも妙だ。姫宮は夜はあちらにお移りになっていたので、人々は月を見るといって、この渡殿でくつろいで話をしている頃だった。
意訳
薫は女房たちのもとを去り、東の高欄に寄りかかって秋の草花を眺め、「腸絶ゆるは秋の天」の詩を口ずさむ。匂宮が女一の宮付きの中将の君の名を聞き、女房たちが皆匂宮に親しんでいるのを見て、薫は残念に思う。匂宮に負けてばかりの自分を嘆き、匂宮が心を寄せる女を奪って嫉妬させたいとまで思うが、中の君だけは匂宮を好ましく思わず自分を頼っていたと思い出す。夜、薫はまた例の渡殿へ向かう。
語釈・文法注
文法
- 「花のひもとく」(花のひもとく御前の叢を見渡し給ふ)
- 花の紐解く。花が咲き開く。
- 「中についてはらわた絕ゆるは秋の天」(中についてはらわた絕ゆるは秋の天といふことを)
- 白居易の詩句「大抵四時心総苦、就中腸断是秋天」による。四季のうちでも秋の空が最も悲しい。
- 「つきなし」(今は猶つきなし)
- 付き無し。似つかわしくない。
解説
薫は匂宮への敗北感から、匂宮の女を奪って嫉妬させたいとまで思う。誠実な薫の心にも潜む対抗心と屈折が、ここで率直に描かれる。
秋の天を悲しむ漢詩は、浮舟を失った薫の心境そのものである。華やかな六条院の秋の中で、薫はひとり喪失の悲しみを抱えている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1188–1189頁(コマ305)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日