源氏物語 第52帖 蜻蛉(32)
女郎花の歌
薫は「さすがに然るべきことはお教え申し上げられそうでもあります。だんだんおわかりになるようなので、たいそううれしい」とおっしゃるので、女房たちはたいそう答えにくいとばかり思う。中に弁のおもとといって物慣れた年配の女房が、「そもそも親しく思い申し上げるべきわけもない人が、かえって恥ずかしがり申し上げないのでございます。物事はそのようなものでございましょう。必ずしもその理由を尋ねて打ち解けてお目にかかるわけでもございませんが、これほど厚かましく作り始めてしまった身に、お答え申し上げないのも決まりが悪くて」と申し上げると、薫は「恥ずかしがる理由はあるまいと思い定めていらっしゃるのこそ残念だ」などとおっしゃりながら見ると、唐衣は脱ぎすべらせて押しやり、くつろいで手習をしていたのだろう、硯の蓋に載せて、まだ咲ききらない花の枝先を手折ってもてあそんでいたと見える。ある者は几帳のある所に滑り隠れ、ある者は背を向け、押し開けた戸の方に紛らわしながら座っている頭つきなども趣深いと見渡しなさって、硯を引き寄せて、「をみなへし乱るる野辺にまじるとも露のあだ名を我にかけめや。気楽にはお思いにならないで」と、ただこの草子に背を向けている人にお見せになると、身じろぎなどもせず、のどかにたいそう早く、「花といへば名こそあだなれ女郎花なべての露にみだれやはする」と書いた筆跡は、ただ一部分だが由緒ありげで、おおよそ見苦しくないので、誰だろうとご覧になる。今参上しようとした道を薫にふさがれて留まっていたのだろうと見える。弁のおもとは、たいそうはっきりした年寄りの言葉は憎らしゅうございますと言って、「旅ねして猶こころみよ女郎花さかりの色にうつりうつらず。そうしてから判定申し上げましょう」と言うと、薫は「宿かさばひと夜はねなむおほかたの花にうつらぬ心なりとも」とあるので、弁は「どうして恥をかかせなさるのですか。ただ野辺のおせっかいを申し上げたのです」と言う。ちょっとしたことをただ少しおっしゃるのも、女房たちは続きを聞きたいとばかり思い申し上げた。薫は「思慮もないことだ。道をあけましょうよ。
- 1さすがさすがさすがにににさるべからさるべからさるべからむむんことことこと敎敎おしへへへ聞聞きこえええぬぬぬべくべくべくもももありありあり。。。やうやうやうやうようよう見見み知知しりりり給給たまふふうべかべかべかめれめれめればばばいといといとなむなむなん嬉嬉うれしきしきしき」」」とととのたまへのたまへのたまえばばばいといといといらへいらへいらえにくゝにくゝにくくのみのみのみ思思おもふふう。。。中中なかににに辨辨べんのののおもとおもとおもとゝゝとてててなれなれなれたるたるたるおとなおとなおとな「「「そもそもそもむつましくむつましくむつましく思思おもひひい聞聞きこゆゆゆべきべきべきゆゑゆゑゆえなきなきなき人人ひとののの耻耻はぢぢじ聞聞きこえええ侍侍はべらららぬぬぬややや。。。ものものものはははさささこそこそこそはははなかなかなかなかなかなか侍侍はべるるるめれめれめれ。。。必必かならずずずそのそのそのゆゑゆゑゆえ尋尋たずねねねてててうちうちうちとけとけとけ御御ご覽覽らんぜぜぜらるゝらるゝらるるにににしもしもしも侍侍はべらららねねねどどど、、、かばかりかばかりかばかりおもなくおもなくおもなくつくりつくりつくりそめそめそめてててけるけるける身身みにににおはざらおはざらおわざらむむんもももかたはらいたくかたはらいたくかたわらいたくてててなむなむなん」」」ととと聞聞きこゆれゆれゆればばば「「「恥恥はづづずべきべきべきゆゑゆゑゆえあらあらあらじじじととと思思おもひひい定定さだめめめ給給たまひひいてててけるけるけるこそこそこそ口口くち惜惜おしけれしけれしけれ」」」などなどなどのたまひのたまひのたまいつゝつゝつつ見見みれれればばば、、、からからからぎぬぎぬぎぬははは脫脫ぬぎぎぎすべしすべしすべしおしおしおしやりやりやりうちうちうちとけとけとけててて手手て習習ならいしししけるけるけるなるなるなるべしべしべし、、、硯硯すずりののの蓋蓋ふたにににすゑすゑすえててて心心こころもとなきもとなきもとなき花花はなののの末末すえ々々ずえたをりたをりたおりてててもてもてもてあそびあそびあそびけりけりけりととと見見みゆゆゆ。。。かたへかたへかたえははは几几き帳帳ちょうのののあるあるあるにににすべりすべりすべりかくれかくれかくれ、、、あるあるあるはははうちうちうちそむきそむきそむき、、、おしおしおしあけあけあけたるたるたる戶戶とののの方方かたにににまぎらしまぎらしまぎらしつゝつゝつつ居居いたるたるたる頭頭かしらつきつきつきどもどもどもゝゝもをかしをかしおかしととと見見み渡渡わたししし給給たまひひいててて硯硯すずりひきひきひきよせよせよせててて、、、「「「をみなへしをみなへしおみなえし亂亂みだるゝるゝるる野野の邊邊べにににまじるまじるまじるともともとも露露つゆのののあだあだあだ名名なををを我我わにににかけかけかけめめめややや。。。心心こころやすくやすくやすくはははおほさおほさおおさででで」」」とととたゞたゞただこのこのこの草草そう紙紙しにににうしろうしろうしろしししたるたるたる人人ひとににに見見みせせせ給給たまへへえばばば、、、みじろきみじろきみじろきなどなどなどもももせせせずずずのどかのどかのどかにににいといといと疾疾とくくく、、、「「「花花はなととといへいへいえばばば名名なこそこそこそあだあだあだなれなれなれ女女おみな郞郞へ花花しなべてなべてなべてののの露露つゆにににみだれみだれみだれやはやはやはするするする」」」ととと書書かきききたるたるたるててて、、、唯唯ただ片片かたそばそばそばなれなれなれどどどよしよしよしづきづきずきててて大大おお方方かためやすれめやすれめやすればばば誰誰たれならならならむむんととと見見み給給たまふふう。。。
- 2今今いままうまうもうのぼりのぼりのぼりけるけるける道道みちにににふたげふたげふたげられられられててて滯滯とどこおりりり居居いたるたるたるなるなるなるべしべしべしととと見見みゆゆゆ。。。辨辨べんのののおもとおもとおもとはははいといといとけざやかけざやかけざやかなるなるなる翁翁おきな言言ごとにくゝにくゝにくく侍侍はべりりりとてとてとて、、、「「「旅旅たびねねねしししててて猶猶なおこゝろみこゝろみこころみよよよ女女おみな郞郞へ花花しさかりさかりさかりののの色色いろにににうつりうつりうつりうつらうつらうつらずずず。。。さてさてさて後後のち定定さだめめめ聞聞きこえええさせさせさせむむん」」」ととといへいへいえばばば、、、「「「宿宿やどかさかさかさはははひとひとひと夜夜よはははねねねなむなむなんおほかたおほかたおおかたののの花花はなにににうつらうつらうつらぬぬぬ心心こころなりなりなりともともとも」」」とととあれあれあればばば「「「何何なにかかかはづかしめはづかしめはずかしめさせさせさせ給給たまふふう。。。大大おおかたかたかた野野の邊邊べのののさかしらさかしらさかしらをををこそこそこそ聞聞きこえええさすれさすれさすれ」」」ととといふいふいう。。。はかなきはかなきはかなきことことことををを唯唯ただ少少すこしししののの給給たまふふうももも人人ひとはははのこりのこりのこり聞聞きかかかまほしくまほしくまほしくのみのみのみ思思おもひひい聞聞きこえええたりたりたり。。。「「「心心こころなしなしなし、、、道道みちあけあけあけ侍侍はべりりりなななむむんよよよ。。。
現代語訳
「さすがに然るべきことはお教え申し上げられそうでもあります。だんだんおわかりになるようなので、たいそううれしい」とおっしゃるので、たいそう答えにくいとばかり思う。中に弁のおもとといって物慣れた年配の女房が、「そもそも親しく思い申し上げるべきわけもない人が、かえって恥ずかしがり申し上げないのでございます。物事はそのようなものでございましょう。必ずしもその理由を尋ねて打ち解けてお目にかかるわけでもございませんが、これほど厚かましく作り始めてしまった身に、お答え申し上げないのも決まりが悪くて」と申し上げると、「恥ずかしがる理由はあるまいと思い定めていらっしゃるのこそ残念だ」などとおっしゃりながら見ると、唐衣は脱ぎすべらせて押しやり、くつろいで手習をしていたのだろう、硯の蓋に載せて、まだ咲ききらない花の枝先を手折ってもてあそんでいたと見える。ある者は几帳のある所に滑り隠れ、ある者は背を向け、押し開けた戸の方に紛らわしながら座っている頭つきなども趣深いと見渡しなさって、硯を引き寄せて、「女郎花の乱れる野辺に混じっても、露ほどの浮き名を私にかけたりするだろうか。気楽にはお思いにならないで」と、ただこの草子に背を向けている人にお見せになると、身じろぎなどもせず、のどかにたいそう早く、「花といえば名は浮気だけれど、女郎花はありふれた露に乱れたりするでしょうか」と書いた筆跡は、ただ一部分だが由緒ありげで、おおよそ見苦しくないので、誰だろうとご覧になる。
今参上しようとした道をふさがれて留まっていたのだろうと見える。弁のおもとは、たいそうはっきりした年寄りの言葉は憎らしゅうございますと言って、「旅寝をしてやはり試してごらんなさい。女郎花の盛りの色に心が移るか移らないか。そうしてから判定申し上げましょう」と言うと、「宿を貸すなら一夜は寝よう。ありふれた花には移らない心であっても」とあるので、「どうして恥をかかせなさるのですか。ただ野辺のおせっかいを申し上げたのです」と言う。ちょっとしたことをただ少しおっしゃるのも、人々は続きを聞きたいとばかり思い申し上げた。「思慮もないことだ。道をあけましょうよ。
意訳
薫は女房たちに冗談を言いかけ、物慣れた弁のおもとが応じる。女房たちはくつろいで手習や花遊びをしていたが、薫の姿に几帳に隠れたり背を向けたりする。薫は女郎花の歌で、自分は浮き名を立てないと詠み、背を向けた女房がすぐに見事な返歌を書く。弁のおもとも女郎花に試してみよと歌い、薫は一夜は寝ようと返す。女房たちは薫の言葉の続きを聞きたがる。
語釈・文法注
文法
- 「おもなく」(かばかりおもなくつくりそめてける身に)
- 面無く。厚かましく、恥知らずに。
- 「女郞花」(をみなへし亂るゝ野邊にまじるとも)
- 女郎花。秋の七草。女性にたとえられる。
- 「翁言」(いとけざやかなる翁言にくゝ侍りとて)
- 年寄りの言葉。
解説
薫と女房たちの女郎花の贈答は、宮廷の雅な戯れである。浮舟の死の悲しみの後に描かれるこの軽やかな場面は、時の流れと人の心の移ろいを感じさせる。
薫の「露のあだ名を我にかけめや」という歌は、自分のまじめさを強調する。しかし浮舟、女一の宮、小宰相と心を移す薫の実際の姿とは、皮肉な対照をなしている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1186–1189頁(コマ304–305)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日