源氏物語 第52帖 蜻蛉(29)
薫の物思い
薫は「荻の葉に露ふきむすぶ秋風も夕ぞわきて身にはしみける」と書き添えたくお思いになるが、そのような露ほどの気配でも漏れたらたいそう厄介そうな世の中なので、ちょっとしたこともほのめかせず、このように万事何やかやと物を思い続けた果てには、昔の人(大君)が生きていらしたら、どうあってもほかに心を分けただろうか、時の帝の御娘を下さるといっても、いただかなかっただろう、またそう思う人がいると帝がお聞きになっていたら、このようなこともなかったろうに、やはりつらく私の心を乱しなさった橋姫だなと思い余っては、また宮の上(中の君)に思いが移って、恋しくつらくもどうしようもないことが、愚かしいほど悔しい。これに思い悩んで、その次にはあさましく亡くなった人(浮舟)が、たいそう幼稚で思慮の浅かった軽々しさを思いながらも、さすがにひどく物を思い詰めたであろう時、私の様子がいつもと違うと心の鬼に嘆き沈んでいたという有様をお聞きになったのも思い出されながら、重々しい方ではなく、ただ気楽で可愛い話し相手にしておこうと思っていたにしては、たいそう可愛かった人を思っていくと、宮をも恨み申し上げまい、女をもつらいと思うまい、ただ自分の有様の世慣れない怠りだなどと物思いにふけりなさる時が多かった。心のどかで様子のよい人(薫)でさえ、このような筋には身も苦しいことが自然と混じるのに、宮(匂宮)はまして慰めかねなさって、あの形見として飽き足らない悲しさを言い出せる人さえいないのを、対の御方(中の君)だけは哀れなどとおっしゃるが、深く見慣れなさったわけではない。急な親しみなので、どうしてたいそう深くあろうか。また思うままに恋しいつらいなどとおっしゃるには気が引けるので、あちらにいた侍従をいつものように迎えさせなさった。女房たちは皆散り散りになって、乳母とこの人の二人が特に目をかけられていたのも忘れがたくて、侍従はよその人だが、やはり語らって過ごすうちに、世間離れした川の音も、うれしい瀬もあるかと頼みにしていた間こそ慰められた。
- 1「「「荻荻おぎののの葉葉はににに露露つゆふきふきふきむすぶむすぶむすぶ秋秋あき風風かぜももも夕夕ゆうべぞぞぞわきわきわきててて身身みにににはははしみしみしみけるけるける」」」ととと書書かきききてててもももそへそへそえまほしくまほしくまほしくおぼせおぼせおぼせどどど、、、さやうさやうさようなるなるなる露露つゆばかりばかりばかりののの氣色氣色けしきにてにてにてももも漏漏もりりりたらたらたらばばばいといといと煩煩わずらはしげはしげわしげなるなるなる世世よなれなれなればばばはかなきはかなきはかなきことことこともももえええほのめかしほのめかしほのめかし出出いづづずましくましくましく、、、かくかくかく萬萬よろずににに何何なにやややかやかやかやととと物物ものををを思思おもひひい思思おもひひいのののはてはてはてははは昔昔むかしののの人人ひとものものものしししたまはたまはたまわましかましかましかばばばいかにいかにいかにもももいかにいかにいかにももも外外ほかざまざまざまににに心心こころわけわけわけましましましややや、、、時時ときのののみかどみかどみかどののの御御おん娘娘むすめををを給給たまふふうともともともえええ奉奉たてまつらららざらざらざらましましまし、、、又又またさささ思思おもふふう人人ひとありありありととと聞聞きこしししめしめしめしながらながらながらはははかゝるかゝるかかる事事こともももなからなからなからましましましををを、、、猶猶なお心心こころうううくくく我我わががが心心こころ亂亂みだりりり給給たまひひいけるけるけるはしはしはし姫姫ひめかなかなかなととと思思おもひひいあまりあまりあまりてててははは又又また宮宮みやののの上上うえにににとりとりとりかゝりかゝりかかりててて戀戀こいしうしうしゅうつらくつらくつらくもももわりなきわりなきわりなきことことことぞぞぞをこがましきをこがましきおこがましきまでまでまでくやしきくやしきくやしき、、、これこれこれににに思思おもひひいわびわびわびてててさしさしさしつぎつぎつぎにににはははあさましくあさましくあさましくてててうせうせうせにににししし人人ひとのののいといといと心心こころをさなくをさなくおさなく滯滯とどこおるるる所所ところなかりなかりなかりけるけるける輕輕かろ々々がろしさしさしさをををばばば思思おもひひいながらながらながら、、、さすがさすがさすがにににいみじいみじいみじととと物物ものををを思思おもひひい入入いりりりけむけむけんほどほどほど我我わががが氣色氣色けしき例例れいならならならずずずととと心心こころののの鬼鬼おにににになげきなげきなげきしづみしづみしずみててて居居いたりたりたりけむけむけん有有あり樣樣さまををを聞聞きききき給給たまひひいしししももも思思おもひひい出出いでででられられられつゝつゝつつ、、、おもりかおもりかおもりかなるなるなる方方かたならならならででで唯唯ただ心安心安やすくくくらうたきらうたきろうたきかたらひかたらひかたらい人人びとにてにてにてあらあらあらせせせむむんととと思思おもひひいしししにににははは、、、いといといとらうたかりらうたかりろうたかりししし人人ひとををを思思おもひひいもてもてもていけいけいけばばば宮宮みやをををももも思思おもひひい聞聞きこえええじじじ、、、女女おんなをををもももうしうしうしととと思思おもははわじじじ、、、唯唯ただ我我わががが有有あり樣樣さまののの世世よづかづかずかぬぬぬをこたりをこたりおこたりぞぞぞなどなどなどながめながめながめ入入いりりり給給たまふふう時々時々ときどき多多おおかりかりかり。。。
- 2心心こころのどかのどかのどかにににさまさまさまよくよくよくおはするおはするおわする人人ひとだにだにだにかゝるかゝるかかるすぢすぢすじにににははは身身みももも苦苦くるしきしきしき事事こと自自おのずからからからまじるまじるまじるををを、、、宮宮みやはははましてましてまして慰慰なぐさめめめかねかねかね給給たまひひいつゝつゝつつ、、、かのかのかのかたみかたみかたみににに飽飽あかかかぬぬぬ悲悲かなしさしさしさをををももものたまひのたまひのたまいいづいづいずべきべきべき人人ひとさへさへさへなきなきなきををを、、、對對たいののの御御おん方方かたばかりばかりばかりこそこそこそははは哀哀あわれなどなどなどのたまへのたまへのたまえどどど深深ふかくくくももも見見み馴馴なれれれ給給たまははわざりざりざりけるけるける。。。うちつけうちつけうちつけのののむつびむつびむつびなれなれなればばばいといといと深深ふかくくくしもしもしもいかでいかでいかでかかかはははあらあらあらむむん。。。またまたまたおぼすおぼすおぼすまゝまゝままににに戀戀こいしししやややいみじいみじいみじやややなどなどなどのたまはのたまはのたまわむむんにににはははかたはらいたけれかたはらいたけれかたわらいたければばば、、、彼所彼所かしこにににありありありししし侍侍じ從從じゅうをををぞぞぞ例例れいののの迎迎むかへへえさせさせさせ給給たまひひいけるけるける。。。皆皆みな人人ひとどもどもどもいきいきいきちりちりちりててて乳乳めの母母ととととこのこのこの人人ひと二二ふた人人りなむなむなんとりとりとりわきわきわきててて覺覺おぼしししたりたりたりしししももも忘忘わすれれれがたくがたくがたくててて、、、侍侍じ從從じゅうはははよそよそよそ人人びとなれなれなれどどど猶猶なお語語かたらひらひらいてててありありありふるふるふるににに、、、世世よづかづかずかぬぬぬ川川かわののの音音おともももうれしきうれしきうれしき瀨瀨せもももやややありありありとととだのみだのみだのみししし程程ほどこそこそこそなぐさめなぐさめなぐさめけれけれけれ。。。
現代語訳
「荻の葉に露を吹き結ぶ秋風も、夕べは特に身にしみることだ」と書き添えたくお思いになるが、そのような露ほどの気配でも漏れたらたいそう厄介そうな世の中なので、ちょっとしたこともほのめかせず、このように万事何やかやと物を思い続けた果てには、昔の人が生きていらしたら、どうあってもほかに心を分けただろうか、時の帝の御娘を下さるといっても、いただかなかっただろう、またそう思う人がいるとお聞きになっていたら、このようなこともなかったろうに、やはりつらく私の心を乱しなさった橋姫だなと思い余っては、また宮の上に思いが移って、恋しくつらくもどうしようもないことが、愚かしいほど悔しい。これに思い悩んで、その次にはあさましく亡くなった人が、たいそう幼稚で思慮の浅かった軽々しさを思いながらも、さすがにひどく物を思い詰めたであろう時、私の様子がいつもと違うと心の鬼に嘆き沈んでいたという有様をお聞きになったのも思い出されながら、重々しい方ではなく、ただ気楽で可愛い話し相手にしておこうと思っていたにしては、たいそう可愛かった人を思っていくと、宮をも恨み申し上げまい、女をもつらいと思うまい、ただ自分の有様の世慣れない怠りだなどと物思いにふけりなさる時が多かった。
心のどかで様子のよい人でさえ、このような筋には身も苦しいことが自然と混じるのに、宮はまして慰めかねなさって、あの形見として飽き足らない悲しさを言い出せる人さえいないのを、対の御方だけは哀れなどとおっしゃるが、深く見慣れなさったわけではない。急な親しみなので、どうしてたいそう深くあろうか。また思うままに恋しいつらいなどとおっしゃるには気が引けるので、あちらにいた侍従をいつものように迎えさせなさった。女房たちは皆散り散りになって、乳母とこの人の二人が特に目をかけられていたのも忘れがたくて、侍従はよその人だが、やはり語らって過ごすうちに、世間離れした川の音も、うれしい瀬もあるかと頼みにしていた間こそ慰められた。
意訳
薫は女一の宮への思いを歌に託したいが、噂を恐れて控える。薫の思いは、大君が生きていれば帝の娘も娶らなかったのにと大君へ向かい、さらに中の君へと移り、最後に浮舟へと至る。浮舟の軽々しさを思いつつも、自分の様子の変化に心を痛めていたと聞いたことを思い出し、匂宮も浮舟も恨むまい、すべて自分の怠りだと思う。匂宮は浮舟を偲ぶ相手もなく、中の君とは深い話もできないので、侍従を迎えて浮舟の思い出を語り合う。
語釈・文法注
文法
- 「はし姫」(猶心うく我が心亂り給ひけるはし姫かな)
- 橋姫。宇治の橋を守る女神。転じて宇治の姫君たち。
- 「心の鬼」(我が氣色例ならずと心の鬼になげきしづみて)
- 良心の呵責、やましさ。
- 「うれしき瀨」(世づかぬ川の音もうれしき瀨もやありと)
- 嬉しい機会。川の瀬に掛ける。
解説
薫の思いは大君、中の君、浮舟と、宇治の姉妹を順に巡る。満たされない愛を抱えた薫の心の遍歴が、凝縮して描かれている。
薫は最終的に「我が有樣の世づかぬをこたり」と自分を責める。他者を責めず自己に向かう薫の内省は、彼の誠実さであると同時に、行動できない弱さでもある。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1182–1185頁(コマ302–303)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日