源氏物語 第52帖 蜻蛉(27)
中宮への噂
薫は「不似合いだと若い人たちは思うでしょうね」と甥の公達の方を見やりなさる。女房は「これからお慣れになるのこそ、本当にお若くおなりになるのでしょう」などと、ちょっとしたことを言う。女房たちの気配も不思議に雅やかで趣深い御方の様子である。特に用事というわけではないが、世間話などをしながら、しみじみといつもより長く座っていらっしゃった。姫宮(女一の宮)は母宮の方にお移りになっていた。大宮が「大将がそちらに参ったか」とお尋ねになる。女房が「お供に参った大納言の君が、小宰相の君に何か言おうとしていらしたようでございます」と申し上げると、中宮は「まじめ人が、さすがに心を留めて話をするのこそ、心の劣った人は苦しいだろう。心のほども見えるだろう。小宰相などはたいそう安心だ」とおっしゃって、ご兄弟ではあるが、この君(薫)にはやはり気が引けて、女房たちも不用意に見られないでほしいとお思いになっている。女房は「人よりは心をお寄せになって、局などにお立ち寄りになるようです。お話を細やかになさって、夜更けにお出かけになる折々もございますが、いつもの見慣れた色めいた筋ではないのでしょうか。宮(匂宮)をこそ、たいそう情けなくいらっしゃると思って、お返事さえ申し上げないようです。もったいないこと」と言って笑うので、中宮もお笑いになって、「たいそう見苦しいご様子を思い知っているのこそおかしい。何とかしてこのようなお癖をやめさせ申し上げたい。恥ずかしいことよ、この人々にも」とおっしゃる。女房は「たいそう妙なことを聞きました。この大将殿の亡くしなさった人は、宮(匂宮)の御二条の北の方(中の君)の御妹だったそうです。異腹なのでしょう。常陸の前の守某の妻は、叔母とも母とも言いますが、どういうことでしょう。その女君のもとに宮がたいそう忍んで通っていらしたのです。大将殿がお聞きつけになったのでしょうか、急に京にお迎えになろうとして、警護の者を添えるなど仰々しくなさったので、宮もたいそう忍んでおいでになりながらお入りになれず、妙な様子で御馬に乗ったまま立っていらしてお帰りになったそうです。
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現代語訳
「不似合いだと若い人たちは思うでしょうね」と甥の公達の方を見やりなさる。「これからお慣れになるのこそ、本当にお若くおなりになるのでしょう」などと、ちょっとしたことを言う。人々の気配も不思議に雅やかで趣深い御方の様子である。特に用事というわけではないが、世間話などをしながら、しめやかにいつもより長く座っていらっしゃった。姫宮はあちらにお移りになっていた。大宮が「大将がそちらに参ったか」とお尋ねになる。「お供に参った大納言の君が、小宰相の君に何か言おうとしていらしたようでございます」と申し上げると、「まじめ人が、さすがに心を留めて話をするのこそ、心の劣った人は苦しいだろう。心のほども見えるだろう。小宰相などはたいそう安心だ」とおっしゃって、ご兄弟ではあるが、この君にはやはり気が引けて、人々も不用意に見られないでほしいとお思いになっている。「人よりは心をお寄せになって、局などにお立ち寄りになるようです。お話を細やかになさって、夜更けにお出かけになる折々もございますが、いつもの見慣れた筋ではないのでしょうか。
宮をこそ、たいそう情けなくいらっしゃると思って、お返事さえ申し上げないようです。もったいないこと」と言って笑うので、宮もお笑いになって、「たいそう見苦しいご様子を思い知っているのこそおかしい。何とかしてこのようなお癖をやめさせ申し上げたい。恥ずかしいことよ、この人々にも」とおっしゃる。「たいそう妙なことを聞きました。この大将殿の亡くしなさった人は、宮の御二条の北の方の御妹だったそうです。異腹なのでしょう。常陸の前の守某の妻は、叔母とも母とも言いますが、どういうことでしょう。その女君に宮こそたいそう忍んで通っていらしたのです。大将殿がお聞きつけになったのでしょうか、急に迎えなさろうとして、警護の者を添えるなど仰々しくなさったので、宮もたいそう忍んでおいでになりながらお入りになれず、妙な様子で御馬に乗ったまま立っていらしてお帰りになったそうです。
意訳
薫は女房たちと世間話をして長く座る。明石の中宮は薫が小宰相に心を寄せていると聞き、小宰相なら安心だと言う。女房は、小宰相は匂宮の誘いをはねつけていると話し、中宮は匂宮の癖を恥じる。さらに女房は、薫が亡くした女は中の君の異母妹で、匂宮が忍んで通い、薫が警護を厳しくしたため、匂宮は馬に乗ったまま入れずに帰ったという噂を語る。
語釈・文法注
文法
- 「ありつかず」(ありつかず若き人どもぞ思ふらむかし)
- 似つかわしくない、不釣り合いだ。
- 「ことはら」(ことはらなるべし)
- 異腹。母の違うこと。
- 「まもりめ」(まもりめそへなど)
- 守り目。警護の者。
解説
女房たちの噂話を通して、浮舟をめぐる真相が中宮の耳に入る。宮廷社会では、どんな秘密も噂として広まっていくことが示される。
中宮は匂宮の色好みを恥じる。息子の行状を知りながら止められない母の嘆きが、宮廷の女主人の視点から描かれている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1180–1183頁(コマ301–302)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日