源氏物語 第52帖 蜻蛉(25)
女二の宮の薄物
薫は女二の宮に「これより薄いお召し物をお召しなさい。女はいつもと違う物を着ているのこそ、時々につけて趣深いものです」と言って、あちらに参って大弐に「薄物の単衣のお召し物を縫って差し上げよと言え」とおっしゃる。御前の女房たちは、このご容貌がたいそう盛りでいらっしゃるのを、殿が引き立て申し上げなさるのだと趣深く思っている。薫はいつものように念誦をなさるご自分のお部屋においでになったりして、昼頃お越しになると、おっしゃったお召し物が御几帳に掛けてある。「どうしてこれをお召しにならないのか。人が多く見る時は、透けた物を着ているのは見苦しく思われる。今はかまわないでしょう」と言って、ご自分の手でお着せ申し上げなさる。御袴も昨日の人と同じ紅である。御髪の多さや裾などは劣りなさらないが、やはりさまざまなのだろうか、似るはずもない。氷を召して女房たちに割らせなさる。取って一つ差し上げなどなさる心の中もおかしい。絵に描いて恋しい人を見る人はないわけではなかった、ましてこれは慰めにするのに似つかわしくないご身分ではないのだと思うが、昨日このようにして自分も混じって座り、心のままに拝見できたらと思われると、思わず嘆かれた。「一品の宮にお手紙は差し上げなさいますか」と申し上げなさると、女二の宮は「内裏にいた時、帝がそうおっしゃったので差し上げましたが、久しくそうしておりません」とおっしゃる。「臣下におなりになったといって、あちらからもお便りなさらないのは情けないことです。今に大宮(中宮)の御前で、恨み申し上げていらっしゃると申し上げましょう」とおっしゃる。「どうして恨み申し上げましょう。いやなこと」とおっしゃると、「臣下に下ったといって見下していらっしゃるようだと見えるので、お便りもしないのだと申し上げましょう」とおっしゃる。その日は過ごして、翌朝大宮のもとに参られる。いつものように宮(匂宮)もいらした。丁子で深く染めた羅の単衣を濃い直衣の下に着ていらっしゃるのが、たいそう好ましげである。女一の宮のお姿のすばらしかったのにも劣らず、色白で清らかで、やはり以前よりは面痩せていらっしゃるのがたいそう見る甲斐がある。
- 1これこれこれよりよりより薄薄うすききき御御おんぞぞぞ奉奉たてまつれれれ。。。女女おんなははは例例れいならならならぬぬぬ物物もの着着きたるたるたるこそこそこそ時々時々ときどきにににつけつけつけてててをかしけれをかしけれおかしけれ」」」とてとてとてあなたあなたあなたににに參參まいりりりててて大大だい貳貳にににに「「「うすものうすものうすものゝゝのひとへひとへひとえののの御御おんぞぞぞ縫縫ぬひひいてててまゐれまゐれまいれととといへいへいえ」」」とととのたまふのたまふのたまう。。。御御お前前まえなるなるなる人人ひとはははこのこのこの御御おんかたちかたちかたちのののいみじきいみじきいみじき盛盛さかりりりにににおはしますおはしますおわしますをををもてもてもてはやしはやしはやし聞聞きこえええ給給たまふふうとととをかしうをかしうおかしゅう思思おもへへえりりり。。。例例れいのののねんずねんずねんずししし給給たまふふう我我わががが御御おん方方かたにににおはしましおはしましおわしましなどなどなどしししててて、、、晝晝ひるつかたつかたつかた渡渡わたりりり給給たまへへえれれればばば、、、のたまひのたまひのたまいつるつるつる御御おんぞぞぞ御御おん几几き帳帳ちょうにににうちうちうちかけかけかけたりたりたり。。。「「「なぞなぞなぞこここははは奉奉たてまつらららぬぬぬ。。。一一いち人人ひとおほくおほくおおく見見みるるる時時ときなむなむなんすきすきすきたるたるたる物物もの着着きたるたるたるははは傍傍ぼう側側ぞくににに覺覺おぼゆるゆるゆる。。。唯唯ただ今今いまはははあへあへあえなむなむなん」」」とてとてとて手手てづからづからずから着着きせせせ奉奉たてまつりりり給給たまふふう。。。御御おん袴袴はかまももも昨日昨日きのうののの同同おなじじじくれなゐくれなゐくれないなりなりなり。。。みみみぐしぐしぐしのののおほさおほさおおさ、、、すそすそすそなどなどなどはははおとりおとりおとり給給たまははわねねねどどど猶猶なお樣樣さま々々ざまなるなるなるにににややや似似にるるるべくべくべくもももあらあらあらずずず。。。ひひひ召召めしししててて人々人々ひとびとにににわらわらわらせせせ給給たまふふう。。。とりとりとりてててひとつひとつひとつ奉奉たてまつりりりなどなどなどししし給給たまふふう心心こころのののうちうちうちもももをかしをかしおかし。。。繪繪えににに書書かきききててて戀戀こいしきしきしき人人ひと見見みるるる人人ひとはははなくなくなくやはやはやはありありありけるけるける、、、ましてましてましてこれこれこれははは慰慰なぐさめめめむむんににに似似にげげげなからなからなからぬぬぬ御御おん程程ほどぞぞぞかしかしかしととと思思おもへへえどどど、、、昨日昨日きのうかやうかやうかようにてにてにてわれわれわれまじりまじりまじりゐゐい、、、心心こころににに任任まかせせせててて見見み奉奉たてまつらららましかましかましかばばばととと覺覺おぼゆるゆるゆるににに、、、心心こころにににもももあらあらあらずずずうちうちうちなげかなげかなげかれれれぬぬぬ。。。
- 2「「「一一いつ品品ぽん宮宮のみやににに御御おん文文ふみははは奉奉たてまつりりり給給たまふふうややや」」」ととと聞聞きこえええ給給たまへへえばばば「「「內內うちにににありありありししし時時とき上上うえのののさささのたまひのたまひのたまいしかしかしかばばば聞聞きこえええしかしかしかどどど久久ひさしうしうしゅうさささもももあらあらあらずずず」」」とととのたまふのたまふのたまう。。。「「「唯唯ただ人人うどにににならならならせせせ給給たまひひいにににたりたりたりとてとてとてかれかれかれよりよりよりももも聞聞きこえええさせさせさせ給給たまははわぬぬぬにににこそこそこそははは心心こころうううかかかなれなれなれ。。。今今いま大大おお宮宮みやののの御御お前前まえにてにてにて恨恨うらみみみ聞聞きこえええさせさせさせ給給たまふふうととと啓啓けいせせせむむん」」」とととのたまふのたまふのたまう。。。「「「いかゞいかゞいかが恨恨うらみみみ聞聞きこえええむむん。。。うたてうたてうたて」」」とととのたまへのたまへのたまえばばば、、、「「「下下げすすすににになりなりなりにににたりたりたりとてとてとておぼしおぼしおぼしおとすおとすおとすなななめりめりめりととと見見みれれればばば驚驚おどろかかかししし聞聞きこえええぬぬぬとととこそこそこそははは聞聞きこえええめめめ」」」とととのたまふのたまふのたまう。。。そのそのその日日ひはははくらしくらしくらしてててまたまたまたのののあしたあしたあしたににに大大おお宮宮みやにににまゐりまゐりまいり給給たまふふう。。。例例れいののの宮宮みやもももおはしおはしおわしけりけりけり。。。丁丁ちょう子子じににに深深ふかくくく染染そめめめたるたるたる羅羅うすものののの單單ひと衣衣えをををこまやかこまやかこまやかなるなるなる直直なお衣衣しににに着着き給給たまへへえるるるいといといとこのましげこのましげこのましげなりなりなり。。。女女おんなののの御御おん身身みなりなりなりのののめでたかりめでたかりめでたかりしししにににももも劣劣おとらららずずず白白しろくくく淸淸きよらにらにらにててて猶猶なおありありありしししよりよりよりはははおもおもおもやせやせやせ給給たまへへえるるるいといといと見見みるるるかひかひかいありありあり。。。
現代語訳
「これより薄いお召し物をお召しなさい。女はいつもと違う物を着ているのこそ、時々につけて趣深いものです」と言って、あちらに参って大弐に「薄物の単衣のお召し物を縫って差し上げよと言え」とおっしゃる。御前の人々は、このご容貌がたいそう盛りでいらっしゃるのを、引き立て申し上げなさるのだと趣深く思っている。いつものように念誦をなさるご自分のお部屋においでになったりして、昼頃お越しになると、おっしゃったお召し物が御几帳に掛けてある。「どうしてこれをお召しにならないのか。人が多く見る時は、透けた物を着ているのは見苦しく思われる。今はかまわないでしょう」と言って、ご自分の手でお着せ申し上げなさる。御袴も昨日の人と同じ紅である。御髪の多さや裾などは劣りなさらないが、やはりさまざまなのだろうか、似るはずもない。氷を召して人々に割らせなさる。取って一つ差し上げなどなさる心の中もおかしい。絵に描いて恋しい人を見る人はないわけではなかった、ましてこれは慰めにするのに似つかわしくないご身分ではないのだと思うが、昨日このようにして自分も混じって座り、心のままに拝見できたらと思われると、思わず嘆かれた。
「一品の宮にお手紙は差し上げなさいますか」と申し上げなさると、「内裏にいた時、帝がそうおっしゃったので差し上げましたが、久しくそうしておりません」とおっしゃる。「臣下におなりになったといって、あちらからもお便りなさらないのは情けないことです。今に大宮の御前で、恨み申し上げていらっしゃると申し上げましょう」とおっしゃる。「どうして恨み申し上げましょう。いやなこと」とおっしゃると、「臣下に下ったといって見下していらっしゃるようだと見えるので、お便りもしないのだと申し上げましょう」とおっしゃる。その日は過ごして、翌朝大宮のもとに参られる。いつものように宮もいらした。丁子で深く染めた羅の単衣を濃い直衣の下に着ていらっしゃるのが、たいそう好ましげである。女一の宮のお姿のすばらしかったのにも劣らず、色白で清らかで、やはり以前よりは面痩せていらっしゃるのがたいそう見る甲斐がある。
意訳
薫は女二の宮に薄物の単衣を縫わせ、自ら着せて、昨日見た女一の宮の姿に似せようとする。氷を割らせて差し出すが、やはり似ていない。薫は女二の宮に、姉の女一の宮に手紙を出すよう勧め、文通を始めさせようとする。翌朝、明石の中宮のもとに参った薫は、匂宮の美しい姿に、女一の宮の面影を見る。
語釈・文法注
文法
- 「傍側」(すきたる物着たるは傍側に覺ゆる)
- 放俗(ばうぞく)。無作法、見苦しいこと。
- 「丁子」(丁子に深く染めたる羅の單衣を)
- 丁子染め。丁子の煎汁で染めた黄褐色。
- 「下す」(下すになりにたりとておぼしおとすなめり)
- 下衆。臣下に降嫁したことを卑下して言う。
解説
薫は妻に女一の宮と同じ装いをさせ、氷を持たせる。満たされない憧れを妻で代替しようとする薫の姿は、大君の身代わりを浮舟に求めた行為の繰り返しである。
薫が女二の宮に姉との文通を勧めるのは、女一の宮に近づくための口実でもある。薫の心は、新たな憧れの対象へと向かっていく。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1178–1181頁(コマ300–301)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日